第12話 進化


「あなた、みんなに何て言われているか……知ってるの?」

 放課後、体育館裏のポプラの木の下で桜京子が言った。


 ああ、腹が立つなぁ、そんなことわざわざ呼び出して言われなくても知ってるさ。クラスのみんなはボクのことを「バカ」って言ってるんだろう?

 話すのが下手で、だからすぐに感情的になって大声で叫んでしまう! まあ、それがいけないんだってことはボクにもわかるのだけれど……。


 それから彼女は言ったんだ、

「でも、大丈夫よ! ひとりで悩まないで、私が力になってあげる。だって学級委員長だもの――」


 いいきなもんだぜ!

 悲劇の主人公をボクにしたてて、彼女はヒーローを演じるつもりなんだ。


 でも、逆らえない!

 もし、少しでも気に食わないことを言えば、ボクは主人公を下ろされて悪役にされてしまうだろう。


 だからボクは、ただ「うん」とか「ううん」とかだけ言って、あとは首を振っていた。それがよかったのだろう、桜京子は満足げな顔でボクを解放した。ボクは学校から走って帰ったんだ。


 ボクのパパとママは、本当のパパとママではない。

 ママが生まれたボクを育てようとしなかったのだ。つまり育児放棄だ。

 それで、いまのパパであるおじさんが引き取ってくれたのだ。


 ボクはおじさん夫婦のためにも偉い人間にならなければならなかった。

 だからひとよりは何倍も勉強し、努力もした。おかげで勉強ではクラスの誰にも負けない。


 ただ、人と会話するのだけは苦手だった。

 いつまでたってもうまくならない。


「ぅ……あぅ……」

 うまく言葉が出てこないのでイライラとして叫んだり、あるいは暴れたりもした。それが原因で、みんなはボクのことをバカだと言う。

 でも、実際バカなのはクラスの奴らだ!


 ボクは小学三年生だけれどもブログをやっている。

――「へっちゃら文庫」へ、おこしやす!――

 なんともくだらなさそうなブログに見えるが、ボクはここで小説を掲載しているのだ。


 ボクはこのブログの中で、ボクよりはずっと年上のお兄さんやお姉さんたちと、

一人前にやり取りをしている。

「私はですね、純文学は自己満足、エンターテイメントは他者への奉仕と考えます。つまり……」

 などと偉そうに言っているが、実は小学生だ。


 だから、文章は書けてもブログの機能を充分には使いこなせていないのが現状だ。最近、やっと画像が掲載できるようになったばかり。


今日は一つ、というのをやってみよう!


 ボクは、今日の放課後の出来事を他人事のように書いて、そこから前日の記事へ飛び込めるようにリンクを貼ることに挑戦した。


 さて、どうするのだろう……?

 あ~なるほど、そうか! 

 Wiki(ウィキィ)か……Wiki文法を使用するのか――。


 つまり、ここにチェックを入れて……そして(決定)をクリック!


「――ゥキ、で、できんたま! やったまん! ウキィ、ウキィ……」

 ボクは、うれしさのあまり大声で叫んでしまった。


「ウィキィー! ウィキィー!……」


 すると部屋のドアがバーンと開いて、血相を変えたおじさんが飛び込んできた。

「おい、どうしたんだ!」


「あ、おじたまん。キィ、な、なでも、ゥキ、あません。リンク貼ること、ウキィできんたまんです」

「ああ、なるほど、それで喜んで叫んでしまったというわけだな――」

「ウィキィ……」


「うれしいのはわかるが、とにかくお前はもう立派なだ。決してそれを忘れるな! わかったな!?」





                               (了)



(筆者コメント)

「お、一昨日……やと、ゥキィリンク貼る、ことできんたまので、そ、その記念ゥキィで、ショトショート書いたまん、ゥキィ、ウッキー!」




 

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