第6話 なんとなく漠然として


 二歩ほど後ろを女がついてくる。

 もう、日も落ちて人影の絶えた川原である。

 雨が降って、降り続いて、そして降り止んだ翌日の宵の口、

 いつの間にか風も凪いで、湿気が膜のように貼りついてくる。


「もう、そろそろかな……」


 立ち止まって、心持ち首だけ後ろへ向けて訊ねてみる。

 女も立ち止まったようだが、返事が無い。

 待っていても仕方が無いので、大きく溜息をついてから歩き出した。

 すると、


「ええ、もうそろそろですね……」


と、背後から頼りない女の声が返ってくる。

 その女の、くるしそうな返事を聞くと、やっぱりもうそろそろかな、という気がしてくる。

 もう一度、訊いてみた。


「もう、そろそろかな……」


 返事が無いので、立ち止まって振り返ってみた。

 しかし、そこに女はいなかった。

 女はいなかったけれど、たしかに


「もう、そろそろだ……」


と思った。



                      (了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る