第6話 わたしの作った卵焼き

「ごめん。ぼくが色々と聞いたから、こんな暗い話になって……。明るい話をしたほうがいいよね」

「そうだね。だけど、明るい話って言っても……」

「そうだ。白原さんはなんで、ぼくのことが好きになったの?」

 荒西くんは明るそうな声で尋ねる。

「荒西くんにそういうこと聞かれると、なんだか、恥ずかしい……」

「恥ずかしくなんか、ないよ」

「そう、かな……」

 わたしは顔が熱くなって、思わずうつむいてしまった。

「わたしはその、元々クラスが一緒になってから、なんとなく、いいなって思って、それが長く続いて、気づいたら、荒西くんのこと、好きになって……」

「そういえば、白原さんって、時々授業中とかに見てたよね?」

「えっ! わたし、そんなに見てたのかな……。だったら、迷惑だったよね?」

「べつに迷惑じゃなかったよ。なんだろう、もしかして、気があるのかなって勝手に思ったりして……。だけど、話を聞いてると、本当だったんだね」

「それって、荒西くん、わたしのこと、気になってくれてたりしていたってこと?」

「うん……」

 荒西くんはおもむろに言うと、耳のそばを指で掻いた。照れているのか、頬がうっすらと赤くなっている。

「そうだったんだ、荒西くん……」

「うん。だけど、白原さんみたいに呼び出してああいうこと言うまでは、ぼくにはできないよ」

「ふつうに考えたら、『殺して』なんて言わないよね……」

「ごめん! そういうつもりで言ったんじゃないんだ! ただ、それぐらい、ぼくのことを好きになってくれていたことを、言いたかっただけなんだ!」

「そんな、謝らなくもいいよ。荒西くん」

 わたしは頭を下げる彼に対して、かぶりを振る。屋上に来てから、お互いにかみ合わないやり取りが続いている。

 屋上を、制服のスカートをなびかせるぐらいのそよ風が吹く。

「そうだ、荒西くん。わたしの弁当に入ってる卵焼き、食べる?」

「いいの?」

「うん。その、わたしが作ったから、ほかの人がどういう感想をしてくれるかなって思って。荒西くんに食べさせたいっていう理由もあるけど……」

 わたしは言ってから、弁当から卵焼きを箸で持つ。薄い黄色の卵焼きが一口で入る大きさだ。

 ゆっくりとした箸の動きで、卵焼きを顔ぐらいまで持ち上げると、わたしは荒西くんに視線を向けた。

「白原さん、食べさせてくれるの?」

「こういうの、一度やってみたくて……」

「なんだか、照れるね」

 荒西くんは声をこぼして、先ほどと同じように耳のそばを指で掻く。照れているときの仕草らしい。わたしも恥ずかしくなってきて、目を合わせづらくなった。

 だけど、時間を置いてから、わたしは彼の口まで自分が作った卵焼きを食べさせてあげた。

 まるで、新婚の夫婦みたいだ。

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