ビニールひもと包丁とわたし
青見銀縁
第1話 告白
「お願い、殺して」
わたしが言うと、高校一年のクラスメイト、荒西くんは驚いたような表情をした。当たり前だよねと思っても、言葉を変えようとはしなかった。
今いる雑木林は下に枯葉が散らばっている。人気がなく、静かだ。ふたりだけで話すところとしては、ちょうどいいかもしれない。
彼はおもむろに目を合わせた。
「今のって、なにかの冗談だよね?」
「ううん。本気で言ってるの……」
首を横に振って、わたしは答える。荒西くんは戸惑ったのか、しばらくの間、黙り込んでしまった。
「なんで、そういうことを言うの?」
「わたし、好きな人に殺されることが、一番幸せだと思ったから……」
「好きな人って、ぼくのこと?」
「うん……。いきなりこんなこと言って、驚くよね……」
口にしてから、わたしは急に、荒西くんの顔を見ることが恥ずかしくなった。気づけば、視線を逸らしている自分がいた。顔が熱い。告白って、こういうものなのだろうか。
「そういうことを言われるのははじめてだから、正直うれしいけど、白原さんが殺されたいという思いが、ぼくにはわからないよ……」
「そうだよね。ふつうだったら、そういう気持ちはだれにもわからないよね……」
「ぼくには、そういうことはできないよ」
言葉をこぼす荒西くんはかぶりを振ると、うつむいてしまった。目を隠しているところから、今にも泣きそうなところを堪えているのだろうか。それだったら、わたしは自分のことを考えてくれているようでうれしかった。けれども、殺されることをあきらめる気持ちにはなれなかった。
わたしは、彼の前へ歩み寄る。
「わたし、荒西くんに殺されても、絶対に後悔しないから」
「後悔もなにも、だから、そういうことはできないって……」
「お願い。このひもで、わたしのことを絞め殺して」
わたしは言ってから、制服のスカートのポケットから、一本のビニールひもを取り出した。先ほどから、いつ出そうかどうか迷っていた。
視線を向けた荒西くんは、急に両肩を手で掴んできた。
「だめだよ、白原さん! なんで、死に急ごうとするんだよ!」
「もう、決めたことだから。一度そうしたら、もう変えないって、わたし、決めたの」
「そんなことって……。そんなことって、ないよ……、白原さん……」
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