再会

 技術特許申請から一ヶ月経過した。

 申請が通り、我に莫大な褒賞が与えられ、暫くは食うに困らなくなった。

 しかし、我にとって予想外の事が起こった。

 我の生み出した『魔力流動による身体強化』は、万人向けの強化術ではなかったのだ。消費、譲渡、放出の三点を滞りなくスムーズに行えるようなコントロールはそう易々と身につけられるものではなかった。

 そこは盲点であった。我が出来たとしても、他人が出来るとは限らない。根本的な事を忘れてしまっていた。

 それが発覚したのは申請用紙に記入し、提出して直ぐの事。ギルド長含め、アーク達のパーティーに実際にやってみて貰う事にしたのだ。我としては実感して貰って有用性を確かめて欲しかったのだ。

 しかし……誰一人として身体強化は行えなかった。

 もともと魔力のコントロールが苦手なアーク、コクは魔力を体内で流動させる事が出来ず、ギルド長は流動こそしたがあまりにも微々たるものだった。セイヨはそもそも魔力を殆ど持っておらず、生涯で一度も魔力に関する事象を試した事がないとの事。

 唯一、アサンはいい線は行った。魔法使いなので魔力の消費はスムーズに行えた。譲渡に関しても一応学んでいたのでやれた。魔力の流動もそこそこ出来ており、放出によって体の各部位へと当たらせる事が出来ていた。

 しかし、魔力の張り巡らせ方は完全ではなく、大雑把な物だった。また、動かす際の魔力配分や魔力を放出、消費するタイミングがちぐはぐだった。故に、完全な身体強化とはならず、精々完成した場合の数パーセントしか効力を発揮しなかった。

 因みに、それらは一週間かけての出来事だ。一週間かけても誰も完全な習得とはならなかった。

 我の場合は思い立って実行してから大体三日で完成したのだが……そこまで難しいとは思わなんだ。

 まぁ、今更ながら。魔力を意図的に動かす事は常日頃行う訳ではない。特に魔力を使う魔法使いでさえ、魔法を使うのに消費するくらいで終わる。譲渡は波長を合わせられるものだけが行うし、放出は強者が相手を威圧する時に使うくらいだ。基本的に、人々は魔力に対してあまり関心を向けていないが故の弊害か。

 結局、気休め程度の危険度の緩和にさえなる事はなく、それなら身体強化の魔法を使った方が楽で早いと言う結論に至ってしまった。

 これは、万人がやりやすいようにもう少し簡略的で即座に出来るものでも新たに考案しなければ駄目か?

 と言う訳で、我は新たな身体強化の術を模索中である。

 ただ、直ぐに思いつく訳もなく、これだと思って実行しても失敗が続き、フィアスコールで一ヶ月過ごしたのだ。

 まぁ、どちらにしろ冒険者カードに特許取得の旨の記載と報奨金をこの街で受け取る必要があったので、丁度良い暇つぶしに放っているが。

 もっとも、それだけをしていた訳ではなく、きちんと冒険者らしく依頼をこなしていた。そうしないと毎日旨いものが食えないのでな。

 冒険者登録した日にアールからエンジェルベアの素材をギルドに売却して得た金を貰い受け、まずそれで身体に合った服と靴を購入し、鞄も買った。残った金で旨いものをたらふく食べ、宿へと赴き一泊。その次の日から依頼を開始した。

 冒険者はランク付けがされており、一番低い者ものがF。E、D、C、B、Aとランクは上がって行き、最高はSだ。現在Sランクの冒険者は片手の指で数えるしか存在しない。

 その内の一人が、我だ。いや、我だったと言うのが正しいか。リッチーとなる前も冒険者として登録し、研究の息抜きやら考案した魔法の試し打ちやらで適当に魔物を狩っていたら何時の間にかランクがSまで上がったのだ。

 まぁ、そのSランクの資格も大罪人となって直ぐに剥奪されてしまったがな。

 裸一貫、一からの再スタートを切った我は着々と依頼をこなした。

 薬草採取の依頼をしながら適当にゴブリンを狩り、幻惑花採取の依頼をしながらオークを屠ったり、廃墟近くの泉の水質調査に赴いた際はヒュドラモドキが微弱ながら毒成分を撒き散らしていたのでさくっとぶっ飛ばし、その帰りにまたエンジェルベアが飛んできたのでワンパンチで粉砕したりとしていたら、何時の間にかBランクまで上がっていた。

 冒険者生活二週間目で上から三番目のランクにまで到達した我に指名の依頼も入るようになった。指名依頼もそつなくこなし、つい先日元Aランク冒険者だったらしいギルド長との一騎打ちと言うランク昇格試験を行った。開始数秒でギルド長を一発KOで打ちのめした結果、今ではAランクとなっている。

 およそ一月で上から二番目のランクにまで昇格するとは。まぁ、これで特許申請以外にも我の名が知れ渡る事になったので、有力者や力量のある者との接触がしやすくなったな。

 因みに、ちんちくりんな外見をしている為か、最初は妙に他の冒険者に突っ掛かられた。面倒だったのでシカトしまくっていたのだが、どうしてもシカトできない状況と言うのに出くわしてしまった。

 喧嘩をおっ始めてしまったら相手の思うつぼだと思ったので、我は魔力を解放した。無論、全力全開ではなかったが我の魔力にあてられた物は皆恐怖で震え、突っ掛かってきた者は失禁もしていた。

 兎にも角にも、そのような事があってから我に突っ掛かって来るものは誰一人としていなくなった。

 と言うか、微妙に距離を開けられるようになった。まぁ、我としても我の探し人やそう言った人物を知っている輩でない限り、そこまで仲良くなる必要はないので別に気にしていない。

 今では冒険者ギルドで我に接してくるのはギルド長に受付の職員一人、あとはアール達のパーティー。

 …………それと、もう一人。

「シオネ。今日はどうするのだ?」

 特許取得の旨を冒険者カードに記載し終え、そのままギルドから出ようと思った所で身体をグイッと引き寄せられた。

 誰に? シェルミナ=フォークソンにだ。

 この小娘と再会したのは一週間くらい前。依頼を受けようと冒険者ギルドへ向かったら受付にこいつがいたのだ。

 で、我を見付けるなりダッシュで近寄っていきなりハグをしてきたのだ。固い鎧に当たって抱かれ心地は最悪だったので、即座に引き剥して逃げた。

 リッチーとなった事を知る魔法騎士団が既にこの街へと来てしまったのだ。我に残されたのはばれる前に逃げる道しかなかった。流石に街の中でドンパチする訳にもいかないからな。また、褒賞を得られなくなるのも少しばかり心苦しかったが、また別の街で偽名で登録して特許を申請すればいいか、と半ば諦めた。

 しかし、我は直ぐに逃げるのをやめた。

 シェルミナから通信魔法【テレパス】を受けて、大丈夫と判断したからだ。

 何でも、我が魔法騎士団を折檻した後、その直前の記憶がごっそりと消え去った状態で目を覚ましたそうだ。なので、魔法騎士団は我がリッチーへと昇華した事実を全くもって覚えていないらしい。

 ただし、シェルミナを除いて、だが。

 そのシェルミナは、どう言う訳か自分の部下に嘘を――つまりは我が禁術を発動する前に死亡したと告げたのだ。瓦礫に埋まっていたのは激しい魔法戦を繰り広げていたからであり、互いに持てる最大の魔法をぶっ放して廃墟は崩れ去り、俺は肉の一辺も残さずに消失した、と嘯いたのだ。

 なので、我――シオン=コールスタッドは正式に死亡と記録され、もう追い掛けられる事は無くなったのだ。

 嘘の報告をしたのは、部下を守る為だそうだ。もし、禁術発動を止められずリッチーとなってしまった場合は責任を取らされ、下手をすれば処刑されていたとの事。

 なので、シェルミナは部下の魔法騎士団を守る為に国に嘘の報告をした。その後、自分しか知らない嘘とは言え、虚偽の報告をした責任と言う事で自ら魔法騎士団を退団して来たそうだ。

 その後、我を探してこの街へと来て我を見付ける事が出来たとの事。我を探していたのは我を監視する為。リッチーとなった我が変な事をしないように自身の命を賭してでも近くで監視をする事を己に課したそうだ。

 まぁ、我は別に悪さをする気はさらさらないのだが、おいそれとは信じられまいて。なので、我は最近シェルミナと共に行動している。

 魔法騎士団を退団したので、収入も得られぬ身となったシェルミナは冒険者登録をして晴れて冒険者となった。ランクは現在Dだが、今日依頼をこなせばCに昇格するだろう。この小娘の力量は冒険者で言えばAランクくらいのものだしな。

「お前が適当に依頼を選べ。我はそれについて行く」

「おっ、そうかそうか。なら、シオネに私の凄い所を見て貰おうではないか」

 シェルミナは我を引き摺られるようにして、依頼の貼られた掲示板へと向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る