ダイヤモンドの輝きにサヨナラを
星野 驟雨
月の影
星を見るのは好きかと聞かれれば、嫌いだ。
なぜかと聞かれれば、『すべてが同じに見える』からだ。
星がすべて同じに見えるのは僕の裸眼がそう捉えているからなのだが、もっと別な理由もあって、『見ても何の得もしない』からだ。
別に星を見たところで心が休まるわけでも、身体が休まるわけでもない。音楽を聴いたり本を読んだり、寝たりした方がよっぽどいい。
そんな僕にも好きな子というのはできた。それは思春期相応のそれなのか、それとも人間の本能的な部分なのか、あるいはその両方かわからなかったが、気が付くと好きな子というものは僕の中にあった。
その子は、いつも僕が喋ったりする子だ。幼馴染というほうが適切かもしれない。その子は僕と違って星が好きだった。彼女の家には星の図鑑があったし、天体望遠鏡なんてものもあったりした。
彼女は言うなれば太陽か月だった。
反対に僕は選べと言われれば、その影が好きだった。
彼女の家で天体観測をしたこともあったし、二人して星で喧嘩したこともあった。彼女は無邪気で、「なんでわからないかなあ」なんて言ったりしていた。
「どう?星って素敵じゃない?」
「ねえ、聞いてる?」
ため息が聞こえる。僕は図鑑をめくっていた。
「ねえ、面白いの?これ」
「はあ?」
「面白いの?これ」
「なんでわからないの?」
「わかんない」
「まだまだおこちゃまだなあ」
「こっちのセリフ」
「やっぱり。星の良さがわからないなんて」
「いや」
「なんでわからないかなあ、良さが」
しかし、その距離は時間によって引き離された。
中学時代は確かにお互いが近かったのだ。小学生のような幼さが抜けていなかったから。
それも、僕が恋をして変わった。というよりは、僕だけが彼女を突き放したと言ってもいいかもしれない。
高校時代は二人して帰ることはなくなったし、喋る機会も減った。
そして、天体観測なんてものは陳腐な思い出となった。
僕が彼女を突き放したのは、何とも言えない感情が廻っていたからだ。
彼女の無邪気は高校生になってからも変わることはなく、僕はより寡黙になった。
恋人というのはお互いに釣り合った人間がなるものだと考えていた当時の僕にとって、彼女と僕は、太陽と月ではなく、太陽と月の影だった。それが哀しかった。
時間というものが残酷ではないものだと知ったのもこのとき、僕たちの間に少しずつ空間をつくってくれたからだ。
僕と彼女の距離は、地球と月から、太陽と月になった。
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