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山茶花

第1話 半人半魔の青年

 年号が『平成』ではなくなった時代。


 人々はあまり変わっていなかった。


 強いて言えば、世の中にが現れ始めたことだろうか。


 一般的に超能力者エスパーと混同されてはいるが、似たようなものだ。


 物体の非接触操作・超自然発火現象・意識の共有…ありふれてはいるが、その存在は人類にとって脅威だった。


 この世界で能力者は全人類の1.8~2%程度。


 残りの98%前後は至って普通の"人間"――異人類(所謂獣人)も混じってはいるが――だった。


 国民の代行として、ある国は能力者との共存の道を選び、またある国は能力者を隔離した。


 そんな世界の中で…日本での物語。




 ――――――――――――――――――――




 日本は能力者も国民の一人と考え、共存するようになった。

 共存を拒む古い考えを持つ者もいたが、大抵の人間が能力者との共存を望んでいた。

 日本の経済は能力者の協力もあり、飛躍的に加速した。

 そして格差も今まで以上に広がった。

 "波"に乗り遅れた者は時代に取り残され、"波"に上手く乗れた者は飛躍的に発展した。

 …それは日本だけでなく、世界も同じなのだが。


 そしてその発展した日本の中心…東京で超大規模の『大会』が開かれることとなった。

 東京23区全域を使ったバトルロイヤルという名のコロシアイ。

 善人・悪人、能力者・非能力者関係なく実力の比べあい。

 そんな参加者の中に"彼"はいた。


「はぁ…」


 彼はため息をついた。

 もう何度ため息をついただろうか。

 彼はこのような場所に出るのは苦手だった。

 それも主催者に強制的に出場するように言われたから今この場にいるとあっては、気が乗らなくて当然である。


「そんなにため息をつくんじゃないよ、瀬宮」


「分かってる。分かってるが、ため息くらいつかせてくれよ」


「折角の色男が台無しだぜ?」


 隣の主催者…『楠城』がクククと笑う。

 彼…『瀬宮 芦灘ロダン』は主催者の苗字しか知らなかった。

 だが瀬宮はそれで十分だった。


「で、楠城…最終目標は?」


「"政府"からの依頼だ…この大会で五人の犯罪者を"始末"する事。手段は問わないし、賞金を手にする必要もない」


「その代わり、政府からは金が出るんだろう?」


「モチロン」


 楠城は瀬宮の"仕事"を斡旋してくれるお得意様だった。

 まだ成人して一年しか経っていない若い彼にとって、楠城のような大口の客が出来たのは奇跡的だった。

 瀬宮は『便利屋』という職に就いていた。

 この世界ではありふれた職業で、表の仕事から裏の仕事まで何でも引き受けるのが共通したポリシーとなっていた。

 瀬宮はその世界に入ってまだ半年程度しか経っていない…駆け出しの便利屋だった。


「しかし、楠城…アンタのような大口の客が、俺みたいな若造に仕事を流していいのか?」


「ふっふっふ。『半人半魔』である君にしか頼めないこともあるからね」


『半人半魔』…瀬宮の異名のようなものである。

 実際瀬宮は完全な人間ではなかった。

 小さな切り傷は数秒経てば完治し、『魔術』を扱い、身体能力も常軌を逸していた。

 それ故に瀬宮は便利屋の道を選んだ。

 常軌を逸した者が集まる便利屋の道を。


「…最初の目標は?」


「君にはやりづらい相手だが…同年代の女性だ。天才的なハッカー。名前は『アマギ ユウ』。君の左眼ならすぐに見つけられるはずだ」


 瀬宮の左眼も彼を半人半魔たらしめている一因だった。

 左眼で見ただけで相手の情報が分かってしまうのだ。


「アマギ…か。場所は分かるか?」


「文京区に潜伏してると思われる。リニア駅の防犯カメラに彼女らしき姿があった」


「了解、すぐに向かう」


「ああそうそう。言い忘れてたけど、任務の障害となるものは全て取り除いてくれて構わんそうだ」


「そうか」


 瀬宮は楠城と別れ、最初の目標『アマギ ユウ』を始末しに向かった。




 ――――――――――――――――――――




「…やれやれ、まさかこうなってるとはな」


 駅が機能していなかった。

 どうもこの駅は拠点として使われているようだ。

 それもこれも大会参加者が暴徒化しているせいだった。

 参加者の一部は犯罪者ということもあって、治安は悪化していた。


「仕方ない。始末しますか」


 この駅を解放しておけば、後々利用できるだろう。

 駅の入り口に二人いる。

 おそらく見張りだろう…

 入口に歩み寄るとすぐに見張り二人が近づいてきた。


「兄ちゃん、悪いがこの駅は機能してないぜ」


「俺たちの拠点なんだ。立ち入り厳禁だ」


「すまんが、電車を使わせてくれないだろうか?」


「聞こえなかったのか?機能してないって――」


 瀬宮は拳銃を両手に握ると男たちの足の甲を撃ち抜いた。


「うわぁっ!」


「ぎゃあっ!」


「もう一度だけ言う…電車を使わせてくれ」


「誰がお前なんかに…!」


 瀬宮は言葉が終わる前に男の額に銃口を密着させ、引き金を引いた。

 弾痕から血を流して男は絶命した。


「まあいい。勝手に使わせてもらうぞ」


「くっ、てめー…!」


 もう一方の男がナイフを抜いた。


「やる気か?」


「目の前で仲間殺されて、何もしないでいられるかってんだ!」


「ならお前も死ぬといい」


 瀬宮は素早く刀を抜くとナイフを持った手を手首ごと切断した。


「ぎゃああっ!?お、俺の手がぁっ!」


 瀬宮はそんな男の様子を気に留めることなく胸板に刀を深々と突き刺した。

 男は即座に絶命し、ピクリとも動かなくなった。


「さて、電車を探すか」


 瀬宮は男の胸板から刀を引き抜くと血を払い、納刀した。

 そしてそのまま暗い駅構内へと姿を消した…


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