月の章


浩之は情状酌量が認められず、十五年の実刑判決が確定…そして今日が出所となった


(今日はクリスマスイブ…そう素子と出会った日…十五年になるのか…)


浩之が出所する一ヶ月前に素子から手紙がきていた


(浩之…あなたと初めてあったあのサンタクロースのイルミネーションの広場で午後7時に待ってます…)


素子は刑務所に定期的に手紙を送ってきた…浩之が自首して以降警察を退職し…喫茶店を開業していた。

貯えがあったし…浩之がでてきても食べていけるようにだ…


浩之はあのサンタクロースのイルミネーションの前にきていた

(十五年前と変わってない…あの日は吹雪だったが、今日はそれほどでもないな…)


浩之はタバコを取り出し火をつける…

(もうすぐ…7時…

周りには何人かがいる…自分と同じ待ち合わせだろうか)


……午後8時…素子は来ない…


(どうしたんだろ…素子…)


ほとんど人は少なくなっていた…


午後9時…

(どうしたんだ…何かあったのか…)


ふと見渡すと高校生ぐらいの女の子が一人いるだけだ…


浩之は声をかけた

「きみも誰かを待ってるの?」


女の子は答える

「ええ…」


「ははは…彼氏かな?」


「ええそうなんです…」


「いけないな…だいぶん待たせてるね」


「いいんです…約束しましたから」


「そう…」


午後10時…周りをみると浩之と女子高校生しかいない


「すいません…あなたもどなたか待ち合わせですか…?」


「ああ…でもフラれたみたいだな…おっさんではダメだな…ははは」

浩之は溜息をついた

(素子…きみはどうしたんだ…)


「わたしも来ないな…」


「雪が酷くなるよ…きみもそろそろ帰ったほうが…」


「ええ…3時間待つ約束は守りましたからもうあきらめて帰ります…」


女子高生はカバンの中からクリスマスプレゼントをだすと浩之に手渡した


「これ…かわりに受け取ってくれますか?」

「おれが…?」


「気にしないで…大したものじゃないから…」


女子高生は足早に去った…


午前零時…クリスマスイブは終わった…


浩之は悲しみに打ち崩れ地面に伏した…


天使の羽根の雪がまるで悪魔の翼にみえた…


完結の章へ続く


iPhoneから送信

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る