15年めのラブレター

夢野光輝

雪の章

浩之は足を引きずりながら…イルミネーションのみえる方向へ向かっていた。


今夜はクリスマスイブ…だが強い寒波が到来、街は吹雪で人けも少なかった


(クリスマスイブか…アウトローのおれには関係ねえな…ふっ…日本人は正月がありゃいいんだ…しかしあのやろう…おれは殺す気なんざなかったんだ…自分で転び自分のナイフに刺さりやがって…誰も信じないだろな…おれも無傷じゃない…)

浩之は右足をひきずり鮮やかな白色のイルミネーションの前に立つ

(腹も少しやられたか…とんだドジふんだな…)


イルミネーションは見上げた浩之はそれがサンタクロースであることに気づく…


(サンタさんよ…おれにもなにかプレゼントくれないか…もう歩けねえ…死んじまう前に…金はいらないぜ…くさるほど使ったからさ…何か他に残るものをほしいな…)


倒れこむ浩之の前を子犬が近づく…

(プレゼントはお前か…)

コートのなかに子犬を包みこむ…


吹雪のなか家路を急ぐ人達に彼の存在は見えないのかもしれない


ふとそのとき一人の女が浩之にかけよる

「どうされました?」

浩之は意識がもうろうとしていくなかで…彼女を見つめる…


女は声を上げる

「まあ酷いけが…病院へ行かなくちゃ…」


浩之は声を荒わげる

「てめぇ…余計なことするな…おれにとっちゃかすり傷だ…」


その瞬間浩之は目の前が暗転する…


……………………………………………………浩之が目を覚ます

「ここは…?」


女がやってくる

「わたしの部屋よ…あのままにはしておけなかったわ…腹の傷はたしかにかすり傷…でも足はかなり酷いわ!」

「そうか…すまない…あの子犬は…?」


子犬がしっぽをふり駆け寄る…


「お前も無事だったか。きみが助けてくれたのか…ありがとう!」



浩之はあたりを見回す…

「でもいいのかい…おれみたいな危険な男を泊めて…」


「あなたは今まともに動けないから…もし万が一何かしたら警察に電話するだけよ!」


「きみのいうとおり…たしかに動けないから…大丈夫だよ」


素子

「さあ食べて…」


素子はシチューを差し出す。


空腹の浩之はがつがつと食べる


素子はその様子にびっくりする。

「まあ…よっぽどお腹すいてたのね…」


「ここんとこまともに食事してなかったからね…」


素子にとって愛想よい顔の浩之がとても危険人物にはみえない気がした…


「あなた名前は?どうして…この街に来たの?」


「おれは浩之…年は三十……この街に来たわけ…今はいえない…きみは?」


「わたしは素子…年は二十八…しがない公務員よ…」

素子は溜息をつく


「きみは独り身だね…恋人はいないのかい?」


「一人ぼっちのクリスマスイブ…て歌の通りよ」


浩之は素子の顔を眺める…

(いい女だ…ほんとにいないのかな…


「わたし…これからちょっと仕事に行ってくるからね…シチューはまだ鍋に入ってるからお代わりしたかったらいれてね…まだ無理をしちゃダメよ」


「はいはいわかりました…」


ウインクをする素子ときょとんとする浩之…

今二人の間にはお互いをつなぐ赤い糸が見え始めていた…


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