chapter2



「人攫いなら間に合っている」


 開閉一番。「ユキ」はサラサにそう言い放った。

 唖然と呆けるサラサに、少女の焦った声が届く。


「ぶっそーな人じゃないよ! ユキにお客さんだよ」

「客? 客は間に合っていない」


 漫才のような会話を続ける二人。だが、サラサはフリーズしたまま、しばらく正常な思考をすることができなかった。


(な、何なの、この人は……っ)


 黒傘の中から現れた男。歳はサラサと同じくらい。身長は割と高めで痩身。ボサボサの髪に隠れて判然としないが、顔もまずまず。もしかしたらイケメンの部類に入るかもしれない。少なくとも、男性に対してあまり免疫のないサラサが迫られたら、たっぷり三日は迷ってしまうような良い男。なのに。

 その服装があまりにも奇天烈だった。今となっては国立博物館でしかお目にかかれないような、古代日本の民族衣装を身に纏っている。この袖がひらひらとした和服の名前は何だったか。確か……ハオリとキナガシだったはず。

 そして、男の抱える荷物に至ってももれなく珍妙だった。仏頂面の男が持つビニール袋の中には、真っ赤な林檎がたくさん。子供の掌サイズで甘いと評判のミニ林檎が、ビニール袋から溢れんばかりに顔を出している。あまりものミスマッチ感に、くらりと眩暈がした。


「ふ、不審者!」


 気がつけば、少女の手を取って後退っていた。

 この歩く天然記念物のような男が、幼気な少女の保護者? そんな現実があっていいはずがない。

 黒傘をくるくると回して歩く天然記念物男が、鬼の形相でサラサを睨んでいる。見事な三白眼に見下ろされて思わず悲鳴を上げたサラサだが、少女の手を離すことだけは思い止まった。


「……トワ」

「はあい」

「その金づるを連行しろ」

「りょーかいっ」


 え、と思った時には、身体は前のめりになっていた。思いの他力の強い少女に引き摺られるまま、満天の星空の下を歩く。最前列を迷いのない足取りで歩く黒傘。黒傘を見失わないようにぴょこぴょこと着いて行くピンク傘に、引きずられる赤色の傘。


「ちょ、ちょっと……!」

「お姉さん、大丈夫だよ。ユキに任せておけば、必ずお父様は直るから」


 政府にも匙を投げられた父だ。こんな歩く天然記念物男に直せる父ではない。

 思いの他力が強いといっても、所詮は子供。その気になれば、この小さな手を振り解くことなど造作もない。だが、結局ふらふらと男の後を着いて行ってしまったのは、サラサの中でどこか期待があったからだと思った。


「ようこそ、林檎庵へ」


 今にも崩れてしまいそうな鳥居を背景に、少女がにっこりと笑う。

 宗教という概念が失われた昨今、誰からも必要とされなくなった神様の社がそこにあった。世間から忘れられた古の建物は、風が吹けば倒壊してしまいそうなほど荒れ果てている。亀裂の入った鳥居をくぐり、割れた石畳を歩く男を、サラサの手を握ったままの少女が追う。


「ねえ、リンゴアンって何?」

「お店の名前。林檎庵はテンカの修理屋さんだよ」


 そう言って少女が案内したのは、境内にある小さな祠だった。人一人入るのがやっとな、この朽ち果てた祠が修理屋さんだって? ナイナイ、と半笑いになるサラサの前で、男がぱかりと祠の扉を開ける。サラサが呆気にとられている間に、男の身体は祠の中に吸い込まれてしまった。


「ほら、サラサも早く!」

「え、ちょっと待って……!」


 心の叫びも虚しく、少女に押されたサラサの身体は男と同様、祠にすっぽりと入り込む。祠の中は、無機質な迷路のような空間になっていた。怖々と前へにじりながら、ようやく気づく。あの祠全体に、ホログラムが仕掛けられていたのだ。何か別の建物を、祠という虚像で隠してしまっていた。

 迷路の先に見えたのは、ひらひらと外の風に揺れる布切れ。サラサはその布切れの名前を知らなかったが、それは暖簾という古のインテリア。突如出現した暖簾を、恐る恐るくぐる。足裏に感じたのは、柔らかな絨毯の感触。どうやら室内に入ったらしい。まだ電気をつけていないのか、先陣を切った男の所在もわからないほど、中は真っ暗だった。


「あ~」

「う~ん」

「ひいいいいっ!」


 突然左右から上がったおどろおどろしい声に、喉から悲鳴が迸る。回れ右をして逃げ出そうとしたサラサを、少女の小さな手が掴まえた。


「お姉さん、大丈夫。あーちゃんとうーちゃんだよ」

「あああ、あーちゃんとうーちゃん?」


 ぱちり、と室内灯が灯る。明るみになった室内で改めて左右のあーちゃんとうーちゃんを拝んだサラサは、再度素っ頓狂な悲鳴を上げた。


「なっ、何よこれっ!」

「仁王像だ。どうだ、素晴らしいだろう」


 何故か誇らしげにふんぞり返っている男を、本気でどつきたくなった。

 室内の入口を左右で陣取っているものは、サラサの背丈を優に越す、おっかない顔の石像。憤怒の表情をした筋骨隆々の石像は、人が目の前を通る度に「あ~」「う~ん」と、何とも悩ましげな声を上げている。


「ほら、あーちゃん、うーちゃん。お客様にご挨拶!」

「あ~」

「う~ん」

「はい、良くできましたっ!」


 おそらく「阿吽」と言いたいのだろうが、どうしてこうも鼻から息が抜けたような声が出るのだろうか。少女が大変ご満悦の様子なので、サラサは何も言わなかったが、仁王像の製作者とこの不気味な仁王像を収集した男に、声を大にしてツッコミを入れたかった。


「中は案外広いのね……」


 祠のホログラムからは想像もできないほど、中は広く快適だった。今となっては珍しい、木材を使ったあたたかな内装。林檎型の照明に照らされて、飴色に染まる車内。左右の壁は均一に仕切られており、電子書籍が主流になった昨今では滅多に見かけない本物の紙の本が並べられている。ただし、仕切りに並べられているのは紙の本だけではない。入口の仁王像のように、いまいち価値のわからない骨董品も、煩雑に並べられていた。


(何で盆栽の中にカカシが立ってるの……)


 鶴やら魚やら子供達に人気のキャラクターやらにカットされた盆栽の山の中に、ぽつねんと佇むカカシ。傍には小さな池とししおどしまである。ツッコミたいのはやまやまだが、突っ込んだら負けのような気がした。

 なので、サラサは平常心を総動員し、勧められた椅子に座る。煩雑に陳列している骨董品は古代日本の化石のような風情だが、勧められた椅子と机は猫脚のお洒落なものだった。床に敷かれた絨毯も、ふわりと肌に馴染む上質なもの。ひどいミスマッチ感が逆に絶妙な和洋折衷を織りなしているようで、何だか悔しい。


「で、アンタのテンカについて、詳しく話を聞かせてもらおうか」


 真正面にどっかりと座った男が、細長い棒のようなものを手にしながら話す。男の背後には金ピカの棚。手にしている細長い棒も、棚の引き出しから取り出したもの。サラサにはわからなかったが、金ピカの棚は「ブツダン」で、細長い棒は「キセル」と呼ばれるものだった。


(…………目を合わせちゃ駄目だ)


 男の背後。金ピカの棚に整然と並ぶ無数の目から全力で顔を逸らしたサラサは、固く目を瞑りながら俯く。そんなサラサに何を勘違いしたのか、男の不機嫌そうな声が降って来た。


「安心しろ。林檎庵のモットーは、家内安全商売繁盛」


 何を安心しろと言うのだ。思わずぱっと顔を上げたのが運の尽き。途端に無数の目と目が合い、強ばった悲鳴が漏れた。


「そ、それっ! 反対に向けて!」

「はあ? 何を寝呆けたことを。アンタにはこの芸術性がわからないのか」


 わかって堪るか!

 思わず叫びそうになった口を、慌てて閉じる。男の背後に聳え立つ悪趣味な棚には、無数の猫と狸の置物が陳列されていた。大中小様々なサイズを取り揃えた猫と狸の置物が、真ん丸な目でサラサを見つめている。


「だって、気持ち悪いもの」

「気持ち悪いだと? アンタには招き猫と狸の信楽焼の価値がわからんようだな」


 何度も言うが、わかりたくもない。理解し合う気も更々ない。

 不機嫌そうに煙管から白い煙を吹かす男の背後で、無言の威圧を効かせる猫と狸。金ピカ棚の一段目から数えてみる。猫猫狸、狸狸猫猫狸猫……目がチカチカしてきた。


「……私、帰ります」

「はっ、この俺が格好の金づるを逃がすと思うか」

「絶対に帰ります!」


 猫脚の椅子をガタン、と鳴らして立ち上がったサラサは、一目散に暖簾を目指す。荒い足音を上げて立ち去るサラサの後頭部に、程良い具合で硬質な物体がクリーンヒットした。


「へぶしッ!」


 ふわふわ絨毯の上に撃沈したサラサへ、黒い影が落ちる。目から火花が出るほど傷む後頭部を押さえるサラサの頭上で、男がひどく冷酷な顔で林檎を手にしていた。


「子供の掌サイズで非常に甘いと評判のミニ林檎。強度も問題なし」

「何するのよ! 警察に訴えるわよ!」

「訴えれるモンなら訴えてみな。ただし、ここに足を踏み入れたからには、タダで帰れると思うなよ」


 涙目のサラサの前にコトリ、と置かれた猫。それから狸。猫猫狸、狸狸猫猫狸狸猫……駄目だ、頭がくらくらしてきた。


「逃げようとするものなら、猫と狸の呪いがもれなく付いてくるぞ」


 ミニ林檎をしゃりしゃりと頬張りながら、男が気怠げに呟く。眼前に迫った猫と狸の大行進に、とうとうサラサの理性が吹き飛んだ。


「ち、父が大事にしていた金魚を殺すのよ!」


 夢中になって叫ぶサラサの頭上で、しゃりしゃりという咀嚼音が響く。無言で先を促しているらしいが、仁王立ちの男の足元に蹲る女を続けるのは嫌すぎた。


「ユキ! 貴重なお客様をいじめちゃ駄目よ!」


 天使の声がした。

 反射的な涙のせいで滲んだ視界には、竹串に差した林檎を手にする少女。頬を紅潮させて、一生懸命男を睨んでいる。


「リンがいつも言っているじゃない。お客様は仏様ですって」

「それを言うなら神様だ。仏にしてどうする」


 ぶつくさと文句を言いながらも、大人しく椅子に座り直した男。脳天に降り注ぐ威圧感からようやく解放されたサラサは、這う這うの体で元いた椅子まで戻った。変に逃げようとするものなら、今度は猫と狸を投げられるかもしれない。ここは大人しく事情を説明した方が身のためだ。


「はいっ。トワ特製林檎飴! お姉さんもどうぞ」


 姿が見えないと思ったら、お菓子作りに勤しんでいたらしい。竹串に刺されて飴色に輝く林檎飴を、しげしげと眺める。飴なら好きで良く食べるが、フルーツを水飴で固めて作った飴は初めて見た。


「あれ、ユキ。待ちきれずに食べちゃったの?」


 男が手にする食べかけの林檎を目にして、しょんぼりと眉を垂らす少女。そんな少女を横目で見た男は、食べかけの林檎を机に置くと、ぱくりと林檎飴にかぶりついた。その姿があまりにも美味しそうだったため、気がつけばサラサもおそるおそる林檎飴に手を伸ばしていた。


「……おいしい」


 無意識に漏らせば、隣で少女が嬉しげに微笑む。


「最近ではお店で全然見かけないけど、昔はすごくポピュラーなお菓子だったんだって。ねえ、ユキ?」

「ポピュラーと言っても、祭りの屋台に限った話だ」

「マツリ?」

「豊作や先祖供養のために執り行っていたどんちゃん騒ぎだな。今ではとんと見かけなくなったが」


 何だろう、その不合理な儀式は。無意識に首を傾げるサラサを、猫と狸がじっと見つめる。豊作を願うくらいだったら、不作にならないようしっかり働けば良いだけのこと。先祖供養をするくらいなら、テンカを作ってしまえば良い。先人を莫迦にするつもりはないけれど、サラサにはその不合理さが全く理解できなかった。


「アンタがさっき言っていた金魚も、祭りで良く屋台に並んでいたものだぞ」

「そうなの? 私は富豪層のペットとしてしか売ったことがないわ。とてもじゃないけど、一般人が手を出せる値ではないもの」

「つまり、アンタの生業は金魚の販売管理か」


 男の問いに、首を横に振る。


「私は金魚師。あまり耳にしない職業だと思うけど、金魚の品種改良と飼育が主な仕事よ」

「トワ、図鑑でしか見たことなーい! 生の金魚さん見てみたい!」


 ビー玉の瞳をキラキラさせて訴える少女に、サラサは苦く笑う。男の言うマツリがどんなものか想像もつかないが、己の権力の象徴として金魚の売買に勤しむ富豪層ではなく、少女のように純粋な子供に見てもらえるのなら、不合理なマツリという風習も捨てたものではないと思った。


「私の父はその筋では名の知れた金魚師でね。父の金魚開発事業をサポートするために、海外の大手企業が投資しているくらいよ」

「ふうん。名は?」

「私? サラサよ」

「アンタの名じゃない。アンタの父の名だ」


 依頼者の名前にも興味がないとは、本当に失礼な男。ぶすりとへそを曲げながら、「ランシ」と端的に吐き捨てる。


「どこかで聞いたことのある名だな」


 左右の仕切りに所狭しと並んでいる紙の本の中から、とある一冊を引き抜いた男。眼前に差し出された雑誌の表紙には、真っ赤な金魚が悠々と泳いでいた。


「十年以上前の雑誌だが……ああ、ここだ。これがアンタの父親か?」


 パラパラと無造作に開かれたページには、父の改良した金魚が堂々と映し出されていた。尾鰭の美しい金魚の隣には、おまけと言わんばかりの小さな顔写真。申し訳程度に名前も表記されている。父の名を聞いただけでこの記事を見つけ出した男を、サラサはまじまじと見上げる。ただの傍若無人な変人店長かと思ったが、どうやらそれだけではないらしい。読めない。


「……こんな小さな記事、良く覚えていたわね。しかも十年以上前のものなのでしょう?」

「珍しい記事だったからな。個人的に興味もあった」


 この雑誌が発売されたのは、サラサがうんと子供の頃。当時、父は「蝶金魚」という名の、それはそれは美しい金魚の品種改良に心血を注いでいた。


「蝶金魚?」


 こてんと可愛らしく首を傾げる少女に、サラサは柔く微笑む。


「ほら、この金魚、尾鰭がまるで蝶の羽のようにひらひらしているでしょう? だから蝶金魚」

「へ~。ほんと、蝶々の羽みたいだねえ。きれい~」


 うっとりと目を細めて記事に食い入る少女を見ると、サラサは何やら面映ゆい気分になった。何を隠そう、「蝶金魚」という呼び名を付けたのは、幼き頃のサラサ。理由は単純。尾鰭が蝶の羽に似ているから。


「蝶金魚はね、別名、百年金魚とも言うの。金魚の平均寿命は十年前後。それを父は、百年生きる金魚を作ろうとしていたのよ」


 それが、百年金魚こと蝶金魚。人が永遠を生きる時代だ。金魚が百年生きても、おかしくはない。


「結局、百年金魚は開発されたのか?」

「あと一歩だったのよ。あと少しで開発できるところまできていた。……そんな時よ。父が病に倒れたのは」


 もともと心臓の悪い人だった。それに加え、最近では仕事が輪をかけて忙しかった。父の仕事を手伝っていたサラサの目には、仕事に追い詰められていたように見えた父。心臓が疲れ果ててしまっても、何ら不思議ではなかった。


「そのままぽっくりか」

「そういう言い方はやめて」

「つまり、父親が急逝したせいで、蝶金魚は完成しなかったんだな。父の遺言を次いで、今度は娘が蝶金魚の開発を続けているという美談か」

「残念ながら美談にはならないのよ。肝心な蝶金魚の研究資料が見つからなかったから」


 もともと整理整頓が苦手な人だったから、仕事場のどこかに紛れているだけかもしれない。だけど、二十年以上研究を続けた資料がカーペットの裏をひっくり返しても見つからないのはおかしい。サラサの探し方は甘いだけなのか。最悪、業者に依頼してでも見つけないと、マズイことになる。


「どうしたの、お姉さん? 顔色が良くないよ」


 少女に下から見つめられ、慌てて顔を上げる。猫と狸と男も、じっとサラサを見つめていた。一つ咳払いをして、背筋を正す。


「それでアンタは父親のテンカを依頼したわけか。父親の頭ン中にある研究資料を引き出すために」

「失礼なことを言わないでよ! 私は利益目的で父のテンカを依頼したわけじゃない!」


 思わず机を叩きそうになった手を、ぎゅっと握り締める。握り締めた拳はプルプルと小刻みに震えていた。唇を噛み締めるサラサの正面で、如何にも面倒臭いとばかりの溜息が落ちる。


「テンカが金魚を殺すとはどういうことだ?」

「……そのままの意味よ。テンカになった父は、蝶金魚の研究を続けるどころか、次々に金魚を殺しているの」

「だからアンタは父親のテンカが故障していると思っているのか」

「故障以外ありえない話だわ。金魚を誰よりも愛していた父が、自ら金魚を殺すはずがないもの」


 気怠げにサラサを見つめる男の三白眼には、怒りに目を燃やすサラサが映っていた。サラサ自身、自分が何に怒っているのかわからない。テンカの故障に取り合ってくれない政府なのか、テンカとして生まれ変わった途端に変わってしまった父なのか。それとも、変わってしまった父を前に、手をこまねくことしかできないサラサ自身かもしれない。

 緊迫した空気を破ったのは、少女の暢気な声だった。


「ねー。トワ、生の金魚さん見てみたーい」


 椅子から下ろした足をぶらぶらさせながら、少女がにっこりと笑う。

 金魚、金魚、と連呼する少女を横目で眺めた男が、思案するように指を頤に乗せた。


「父親のテンカが直れば、蝶金魚も完成するんだな?」

「まあ、おそらくは」

「フン。だったら俺が直してやろう。その代わり、報酬は完成した蝶金魚だ。飾るも良し、売り捌くも良し」

「売るのはだめー! 生き物は大切にしなさいって、本に書いてあったよー?」


 呆れた。ただでさえ高価な金魚、その中でも幻とされている蝶金魚を、自身の珍妙コレクションに追加しようとしているまでか、あわよくば法外な金額で売り捌く気らしい。これでは普通に報酬料を払うよりも高くつく。

 呆れてものも言えないサラサに、男は相も変わらない尊大な口調で話を続けた。


「そう言えば、紹介がまだだったな」


 男の声に、ぼんやりとした頭を持ち上げる。男の鋭い三白眼が、ほんの少しだけ和む。視線の先には、椅子に座ってぶらぶらと足を遊ばせる少女。


「ここの店員で、名はトワイライト」

「トワって呼んでね」

「そして俺が店長の雪之丞ゆきのじょうだ」

「ユキって呼んでね」

「お前は少し黙ってろ」


 ユキに睨まれて、トワがひっと悲鳴を上げる。小さくなった少女を横目に、男が呆れたように溜息をついた。


「ともかく、その依頼承った。明日テンカを連れて、もう一度ここを訪ねて来い」


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