第17章 帰宅と登校11

「ゆ~す~け~」


 雄介の名前を呼びながら、優子が顔を真っ赤にして迫ってくる。

 その様子に恐怖すら覚える雄介は、必死に織姫の拘束から逃れようと、織姫を引きはがそうとするが……。


「マジで離してください! じゃないと更にややこしい事になりそうなんで!」


「え~、ヤダ! このままが良い~」


「お嬢様その調子です! 後はベッドへ!」


「倉前さん黙っててもらえませんかね!」


 離れるどころか更に抱きしめる力を強める織姫。

 優子はジリジリと近づき、もうあと少しで雄介の元にやってきてしまう。


「か、加山さん! ストップ! 止まってください!」


「ん~? な~に?」


 雄介は近づいてくる優子に声を上げて止まるように指示を出す。

 優子は言われた通りに立ち止まり、雄介に聞いた。


「あの……その右手のロープは何でしょうか?」


 雄介はそのロープの使用目的がすごく気になった。

 おそらく優子もお酒を飲んで正常ではない、そんな彼女がロープをもって現れたのだから、雄介は気が気じゃなかった。


「う~ん……これは……縛るため…」


「一体何を?」


 そう言うと、優子はゆっくりと腕を上げて雄介を指さす。


「雄介を」


「やめてもらえますか……」


 雄介は震えた声で優子に言う。

 優子はそんな雄介を見て口元を緩め、楽しそうに笑いながら雄介に応える。


「ヤダ~、雄介の手足を縛って……グフフ…」


「グフフって何ですか!! やめて下さい! 怖いです!」


 優子は再び足を雄介の方に進める。

 座っている雄介の前に立ち、まずは織姫の排除を始める優子。


「さっさと離れてね~、この泥棒猫~」


「ふぇ? うわぁ!」


 織姫は雄介の背中から無理矢理引きはがされる。

 優子は織姫を雄介から引きはがすと、すかさず雄介に抱きついて離さない。

 雄介の胸に顔を埋め、抱きしめて離さない。


「う~ん…雄介の匂い……これ好きぃ~」


「あの……離してください……」


「や! だってまた離したら……」


「え……加山…さん?」


 優子は雄介の胸の中で泣き出してしまった。

 雄介は状況がわからず、困惑し、アタフタし始める。

 織姫は酔いが回ってしまったのか、床で寝て居る。

 

「だって……話したら雄介がまたどこかに行っちゃう……」


「……加山さん…」


 優子の言葉に、雄介は優子の自分に対する思いを聞いている気分だった。

 慎から聞いた話を雄介は思い出す。

 あの時、飛び降りようとした雄介を止めたのは、慎と優子だ。

 織姫はおそらく、その時の事を思い出して行っているのだろう。


「嫌だ……またどこかに行っちゃうなんてヤダ! もう絶対離さない……」


「……」


 雄介は優子がどれだけ自分を心配していたのかが、痛いほどわかった。

 記憶は無いが、優子の言葉の一つ一つに、雄介は重みを感じていた。

 次第に抱きしめる力が強くなる優子に、雄介は優しく優子の頭を撫で、優しく言う。


「すいません……」


 今の雄介には謝る事しかできなかった。

 記憶が無い自分は、まだ戻ってきたとは言えない、だから約束もできない。雄介はそう考えて、謝る事しかできなかった。

 優子の頭を撫で、泣きやむのを待っている雄介。そんな時、雄介は背中に違和感を覚えた。


「……加山さん?」


「………」


「…何やってるんですか?」


「ん、もう離れないように、縛ってる……」


 雄介は背中からロープを通され、優子と抱き合った状態でぐるぐる巻きに縛られていった。

 優子は器用にロープを使い、自分と雄介を縛って行く。


「加山さん! 離してください!! さっきまでのしんみりした感じは何処に行ったんですか!」


 雄介はロープから抜け出そうと、必死にもがくが、全くと言っていいほど抜け出せない。


「雄介~、ずぅっと一緒だよ~」


 優子は嬉しそうに笑いながら、ロープを巻き続ける。

 そんな優子が何だか怖くて、雄介は必死に抜け出そうと努力する。

 やがて優子は雄介を縛り終え、雄介にくっ付いたまま、スース―と寝息を立て始める。


「……加山さん……ここまで自分の事を…」


 なんてしんみりと考えたいところだが、雄介は今そんな状況ではない。

 体をロープでぐるぐる巻きにされて縛られ、加山と密着している状態だ。

 前の雄介なら、一発で気絶コースだが、今の雄介は別の問題に悩ませれていた。


「……ん、雄介……」


「う……や、やばい……」


 今の雄介は言ってしまえば、健全な男子高校生。

 同級生のしかも優子のような美少女に密着され、しかも自分の事をあれだけ好きだと言っているのだ、当然色々と反応してしまう。


「あ、あの…か、加山さん?」


「ん……」


 優子は寝息を立てて寝てしまっていた。

 雄介は優子が寝たのを確認すると、ロープの結び目を探し始める。


「あった、早いとこ解かないと……」


 雄介は丁度自分の脇にあるロープの結び目を見つけ、何とかロープを解こうと体をもぞもぞと動かしながら悪戦苦闘する。


「ん……あ……」


「お、起きないでくれよ……」


 雄介が動くたびに、一緒になって縛られている優子が声を出す。

 そんな優子に気を付けながら、雄介は少しづつロープのひもを緩めて行く。


「あ……ダメ……」


「え! な…なに…?」


 優子の色っぽい言葉に過剰に反応してしまう雄介。

 まだ優子が寝て居る事を確認し、雄介はロープを緩める作業を続ける。


「よし、あと少し……」


 段々とロープの締め付けが緩くなってきて、あと少しで腕がロープから抜けそうなところまで来ていた。

 しかし、そんな時だった、またしても雄介の背中に柔らかい二つの感触と、お酒の匂いと一緒に女性らしい良い匂いが漂ってきた。


「雄介~、私もぎゅってして~」


「お、織姫さん……起きたんですか……」


 雄介はもう既に限界だった、二人の少女の間に挟まれるという、男なら誰しもが一度は妄想しそうな状況に、顔を赤くし、背中からは変な汗が噴き出すのを感じた。


「は、離れてもらえませんか……」


「う~ん、や! このままが良い~」


「お願いだから離れてください! もう限界なんです!!」


 雄介の必死の訴えにも織姫は答えず、雄介の背中に抱き着いて離れない。

 雄介は自分の体がどんどん熱くなるのを感じていた。

 もうだめだ、雄介はそう思っていた。

 しかし、次の瞬間、雄介の元から二人を引きはがした人物がいた。

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