第15章 文化祭の開始14

「アハハ!! ほんと面白いねぇ~、人間って生き物はさぁ~。雄介、良くみなよ! こいつらのお前を見る顔をさぁ~! 化け物を見る顔だよ! 結局こいつらは他人だ! なんで、そんな他人のために、お前はそこまでする? こんな奴ら、見殺しにして、私を殺す事だけ考えていれば、状況はもう少し変わったかもしれないのにねぇ~」


「はぁ……はぁ……確かに……そうかもな……」


 雄介の言葉に、その場の雄介のクラスメイトや友人がざわつく。

 滝沢は狂った笑みを浮かべ、拳銃を倉前に向けたまま、楽しそうに雄介の話を聞いている。


「……でも……気が付いたんだよ………結局俺は、一人が寂しかったんだって……」


「はぁ~? なんだいそれは……」


「お前に全部を奪われて………でも、今村家の人達と慎と出会って………そいつらと出会って……優子と出会って………俺は寂しくなくなった……」


 雄介は力を振り絞り、立ち上がる。

 体のあちこちから血を流し、膝に手をついて立ち上がるのが精いっぱいだった。

 立ち上がり、穏やかな顔をクラスメイトと友人に向けながら、雄介は言葉を続ける。


「……俺はきっと、死にたかった……家族が……姉さんや母さん、父さんのいるところに行きたかったんだろうな……」


「ちっ! 何だいその顔! ムカつくね!! やっぱり雄介! あんたから!」


 狂ったような笑顔から一片、滝沢は雄介に鬼のような形相で迫り、腹にめがけて拳を振るおうとする。

 しかし、その拳を雄介は掴んで止め、そのまま滝沢を捕らえて離さない。


「お、お前! なんで……その力は何処から!?」


 雄介に拳を受け止められたのに驚く滝沢、更に雄介の腕を振り解こうとしても、雄介の掴む力が強く、離れる事が出来ない。


「俺は……心のどこかで、こう思ってたのかもな……お前を殺して、未練を無くして、家族の居る場所に俺も行きたかったって………」


「く…クソ! 離せ!!」


 滝沢は拳銃を取り出し、雄介のに銃口を向ける。

 しかし、雄介は表情一つ変えずに、そのまま言葉を続ける。


「でも……最近その思いが薄れて来てたんだ………あいつらと生きていたい……素直にそう思ってたんだ……でも、俺は自分に嘘をついて……あいつらに嘘をついて……死ぬ道を選んだ。そうじゃないと、今まで俺がやってきたことが無駄になると思った。父さんや母さん、姉さんにも申し訳ないとも思った。……でも、覚悟が決まった」


「何が言いたい! 私を拘束したくらいで、勝ったつもりかい?」


 滝沢はどこか焦っていた。

 雄介は先ほどまでの怒りに歪んだ表情から、どこかすっきりした表情で、クラスメイトや友人の方を見る。


「お前ら……ありがとう。こんな人間の皮を被った化け物と仲良くしてくれて……」


「ぐは!! な、なんだ……どこにこんな力が……」


 雄介は滝沢の腹部を思いっきり殴り、首根っこを持って屋上の柵の方に歩みを進める。

 そして、柵を蹴り飛ばし、屋上の端に立つ。


「な、なにをするきだい? 言っておくけど、ここから飛び降りても私は薬で強化されてるから死なないよ!」


「嘘をつくな、もう薬は切れ始めてる……きっと俺のと一緒で制限時間があるんだろ?」


「っち! 離せ!」


バーン! バーン!


 雄介は滝沢から、掴んでいた手を打たれる。

 衝撃で滝沢は雄介から逃れるが、即座に雄介に捕まり、取っ組み合いになった。


「今のお前なら! この高さから落ちても即死だ! 終わりだ! 俺たちの因縁も! お前らの組織も!」


「おまえ!! まさか道ずれに! あぁぁぁ!! 離せ! このクソガキ!!」


 滝沢は銃を雄介に向けて乱射し、雄介の腕から逃れようとする。

 雄介は体に銃弾を受ける。しかし、雄介の体には傷一つつかない。


「はぁ……はぁ……流石に3本はきついぜ……」


「まさか! 3本目を打ったのか? だからあんな力を! くそぉぉぉぉぉ!! このガキィィ!!」


「俺もおそらく死ぬ。その前に! お前も道ずれだ!!」


 雄介は滝沢を壊れた柵の前まで連れてやってくる。

 そして、滝沢を道ずれに、屋上から飛び降りようとする。

 しかし、滝沢も抵抗を繰り返す。


「ふん!!」


「グアッ! ……」


 雄介は最後の力を振り絞り、滝沢の腹部を殴り気絶させる。

 大人しくなった滝沢を抱え、雄介は壊れた柵の場所に近づき、あと一歩進めば落ちてしまうギリギリのところに立つ。


「……今行くよ……父さん母さん……姉さん」


 雄介はそのまま屋上から落下ようと歩みを進めようとした、しかし、それを許さなかった者がいた。

 雄介は肩と腹を抑えられ、動けなくなった。

 雄介の動きを止めた張本人……それは、優子と慎だった。


「ふざけんな雄介! 誰もお前が死ぬことなんて望んでねぇ!!」


「雄介! 私に言ったでしょ?! 明日は私と学祭回ってくれるって! 約束破るの!」


 慎はいつものクールな感じではなく、必死に雄介に向かって叫び、優子は涙を堪えながら雄介の腹に抱き着いている。


「う……お、お前ら……なんで……」


 雄介は優子に抱きつかれ、体が拒絶反応を起こし、体制を崩す。

 雄介はそのまま屋上の端から、安全な柵の内側に二人の手で無理矢理戻される。

 雄介は疲労と拒絶反応でそのまま倒れ込み、滝沢も気絶したまま動かない。


「な…なんで…邪魔をした……もう、俺を楽にさせてくれ……」


 雄介は空を見上げて二人に冷たく言い放つ。

 そんな雄介の頬を慎は思いっきりぶん殴った。


「ふざけんじゃねぇ……お前は勝手すぎんだよ! 何が楽にしてくれだ! お前は俺たちに言わなきゃなんねー事が山ほどあるはずだ!!」


「……慎……」


「勝手に自分ひとりで解決しようとしてんじゃねーよ! お前が居なくなって丸く収まるほど、この世の中甘くねぇんだよ!」


 慎は泣いていた。

 柄にもなく大声を上げ、雄介を叱り、いつものふざけた態度は一切ない。


「お前が知らないなら教えてやるよ! 俺たちはな、お前が……今村雄介ってやつを化け物だなんてこれっぽちも思ってねぇんだよ! 不愛想で、女子が苦手な普通の人間だとしか思えねぇんだよ!」


「………」


 雄介は何も喋らず、ただひたすら慎の話を聞いていた。


「確かに、お前が戦う姿が少し怖かったさ……でも、そんな姿を見ただけで、俺のお前に対する印象は変わんない! 他の奴はどうか分かんねぇ! でも少なくとも俺は……お前に生きていて欲しい! お前と親友でいたい!」


 慎の言葉が、雄介の心に重く響いた。

 生きていて欲しい、そう言われた雄介は心のどこかで安心していた。

 自分の隠していた姿を見られ、離れていくと思っていた友人から、生きていて欲しいと言われた。

 雄介は涙が止まらなかった。

 それと同時に、自分の馬鹿さ加減が恥ずかしかった。

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