第7章 肉食系の妹
凛と慎が、リビングで話し合っている丁度その時間、雄介は風呂場の湯に浸かっていた。
「フゥ〜、良い気持ちだな〜」
湯に浸りながら雄介は最近の出来事について考えていた。
「思えば、加山が俺に告白してきてから、ろくな事が無いな。」
加山を探して町中を歩き回ったり、不良と喧嘩したり、スマホが壊れたり。そんな事を考えながら雄介は湯に浸かっていた。
「はぁ〜、最近良いこと無いよなぁ〜」
「そうなんですか?」
「そうだよ。加山がいるとろくな事が……って、え?」
雄介が独り言をつぶやいていると、返ってくるはずの無い返答が返ってきた。
「どうしたんですか?雄介さん?」
雄介が声のした方に向き直ると、そこにはバスタオルを巻いた凛が立っていた。
「凛ちゃん!!何してるの!!」
「え?雄介さんと入りたいな〜って思って。ダメですか?」
可愛らしく首を傾けながら雄介に聞く凛。
「いや!ダメでしょ!!男と女なんだから!それに慎だっているんだよ!!!」
「お兄ちゃんが良いって言ったよ?」
「あいつ……何考えてんだよ…」
凛と口論している間も雄介は凛の姿に目がいってしまう。中学生にしては中々膨らんだ胸や細い手足など、体がもう子供ではなく女性の体になりつつあることを強調していた。
「なんでも良いけど、俺はもう上がるから……」
「え、いっしょに入りましょうよ〜」
「うわっ!ちょっと!」
雄介が湯船から上がろうとした瞬間、凛がそれを阻止しようと雄介の腕を掴んできた。
「まぁまぁ、良いじゃ無いですかたまには!」
「ちょ…ちょっと!凛ちゃん離して!いろいろとマズイでしょ!」
「大丈夫ですよ、そんな事より濡れたまんまだと風邪引きますよ!早く浴槽に入ってください!!」
次第に凛の引っ張る力が強くなっていく、雄介は前をタオルで隠しながら必死に浴室の外に出ようとしている。
「風邪引く事心配してるんだったら離してくれないかな!」
「浴槽に浸かればあったかくなりますから、我儘言わないでください!!」
「なんで俺が聞き分け無いみたいな空気になってるの!!」
「良いじゃ無いですか!男の人だったら喜ぶところですよ!!」
「俺はそこらへんが少しだけ特殊なのっ!!」
「あっ!!」
雄介は凛の手を振りほどき、慌てて浴室を出てリビングに向かった。
「おい!慎!!」
「ん?なんだよ、そんな格好で。」
慎はソファーでスマホをいじりながらくつろいでいた。
「なんだじゃねーよ!妹に何させてんだよ!」
「何って、あれはあいつの意思だよ。俺は別になんも言ってねーよ。」
「嘘つけ!!兄弟揃って人をからかいやがって!!」
「嘘じゃねーって、全く疑いやがって、大体俺がお前に特になるような事するかよ。」
慎はそう言うとスマホに目を戻す。
「俺にとってはなんの特にもなって無いんだが」
「凛のあられもない姿を見たじゃ無いか」
「べ…別に見てねーよ!!」
慎の問いに雄介は浴室での先ほどの光景を思い出し頬を赤くする。
「まぁ、そんな事は良いから服着ろ。風邪ひくぞ」
「あ……」
雄介は自分の格好に気がつき、急いで前を隠した。
「お前早く言えよ!」
「気付かないお前が悪い、気色悪いもん見せやがって」
雄介は急いでパンツを履き、寝巻きに着替えた。
「はぁ〜、これじゃあ家にいるのと変わんねーよ……」
「それはそれは羨ましい限りで〜」
雄介が着替えを終えてうなだれていると、慎がニヤニヤしながら雄介に言う。雄介は、こいつはまたからかって来た……そう思いながらため息を一つ吐いた。
「もー、雄介さん急に出て行っちゃうんだもん……」
リビングのドアから、風呂から上がった凛が声をかけてきた。
「凛ちゃん、からかうのはやめてくれ。びっくりしちゃうだろ、あんな姿で……」
「からかってませんよ〜。ただ一緒にお風呂に入りたかっただけですよ〜」
凛は話しながら雄介の隣に腰を下ろした。雄介は凛から少し離れてソファーの端っこの方に移動する。
「一緒にってところが問題なんだよ。ハァ〜、流石は兄弟って感じだな……」
「お〜い、どういう意味だ〜」
「そのまんまの意味だよ」
慎はソファーに寝転がりながら目線だけを雄介に向けて話してくる。慎の手元にまだスマートフォンが握られていた。
「そう言えば、お兄ちゃんさっきから誰と連絡とってるの」
「ん?学校の先輩だけど」
「お前さっきからスマホいじってたけど、そう言う事か。先輩って誰だよ?」
「お前もよく知ってる人だよ、まぁ気にするな」
慎はそう言うとスマートフォンを机の上に置き、軽く体を伸ばした。
「さて、暇だしなんかするか、雄介なにするよ?」
「俺に言われてもな…」
「この前の格ゲーの続きでもするか?」
慎が雄介に尋ねるのとほぼ同じタイミングで、玄関の方からインターホンの鳴る音が聞こえた。
「こんな時間にお客さんか?」
「まさか……いや、まさかな……」
「おい、どうしたんだ慎?」
「ん?いやなんでもない、出てくる。」
そう言うと慎はリビングを出て玄関先へと向かって行った。
「誰が来たんでしょうね?雄介さん」
リビングに雄介と凛の二人きりになった瞬間に、凛は雄介の隣にピタッとくっ付き距離を詰める。
「凛ちゃん?……どうしたの?」
雄介は若干戸惑うが、相手が凛という見知った相手と言う事もあり、そこまで過剰に反応すると言う事もなかった。
「雄介さん、変わりましたね」
「変わった?どこが?」
凛は少し不満げに雄介に言う。
「だって、昔は私が近付こうとすると意識して逃げて行ったのに、今こんなに近ずいても平然としていて……」
「それは昔の事でしょ、流石に慣れたよ」
雄介がそう言うと、凛は少し不服そうにジト目で雄介を見つめていた。
「じゃあ雄介さんは、私の事どう思ってるんですか?」
「え!いきなりなにを……」
凛は更に雄介の体に引っ付き、上目ずかいで聞く。雄介はその仕草に少しドキッとしたが、相手が昔から知っている相手と言う事もあり、雄介は冷静に対応する。
「私も聞きたいわね〜」
リビングのドアの方から声が聞こえてくる。雄介が声のした方に振り返ると、ドアの前に加山が立っていた。制服から私服に着替えてあったところを見ると、どうやら一回自宅に帰った後のようだった。
「お前!なんでここに!!」
「雄介の事が心配になってきたのよ!それよりその状況なに!!!」
加山は雄介と凛が密着している状況を指差し、涙目になりながら叫ぶ。その後ろでは慎がニヤニヤしながらその様子を見ていた。
「別になんでも無いだろ、普通に座ってるだけだ」
「密着してるじゃない!その子は誰なのよ!!」
加山は凛の方を指差しいう。凛は少し加山の勢いに押され気味であったが、会話の方向が自分に向いた事によって表情を変え、ムッとした表情で加山の顔を見た。
「私は山本慎の妹で凛です。雄介さんとはもう長い付き合いなんです!」
「だからってそんなに引っ付いて言い訳ないでしょ!雄介は私のものなの!」
「おい、加山。誰が一体誰のものだって?」
凛と加山は言葉を交わして早々に喧嘩を始めてしまった。雄介はそこに巻き込まれ、身動きが取れなくなってしまった。
慎はというと、先ほどからドアの後ろで笑いをこらえながらこの状況を楽しんでいた。
「雄介さんはあなたが迷惑だからうちに来たんです!さっさと帰ってください!」
「そんなの雄介の照れ隠しに決まってるでしょ!本当は私にベタ惚れなんだから!」
「誰が誰にベタ惚れだって……」
凛と加山の勢いは次第に勢いを増していき、ついには加山までも雄介の手を取り、凛と加山で奪い合いのような構図になってしまった。
「雄介!こんなところにいたら雄介の貞操が危険だわ!私の家のベットの上まで避難しましょう!」
「そっちの方が怖いわ!!」
「そうですよ!雄介さん、あの人は危ないです!!私の部屋のベッドの上に逃げましょう!」
「それあんまり変わってないからね!」
加山と凛の争いは次第に激しさを増していった。それを傍目で見ていた慎は、そろそろ助けてやるかと思い、三人の中に割って入っいった。
「まぁまぁ、三人共落ち着けって」
「慎!なんで加山を入れたんだよ!」
「雄介!それどういう意味!?」
「追い返すのも悪いだろ?それに呼んだの俺だし」
「お前、俺がなんで泊まりに来たのか覚えてるよな!」
「まぁまぁ、落ち着けって」
慎は興奮した雄介をなだめる。雄介はとりあえず話を聞こうと思い、落ち着いてソファーに座りなおす。
「んで、この状況をどうしてくれんだよ……」
雄介の右隣には凛が左隣には加山が、それぞれ雄介の腕をガッチリ掴んで離さない。
「うーん予想通りこうなったか……」
「予想してたなら、なんで加山を呼んだんだよ!」
「まぁ、俺にも考えがあってな」
「考えってなんなんだよ!お前に助けを求めたのに、逆に悪くなってるじゃないか!」
雄介は不服そうな顔をしながら慎に文句をいう。
「それは悪かったと思うが、俺にも色々とあるんだよ」
「色々ってなんだよ」
「まぁ、敵を見せてやる気を出させようと思ってな……」
慎は目線を凛に向ける。雄介はなにを言っているのかよくわからない様子で慎の話を聞く。
「なんでも良いけど、この人帰らせようよ」
「生意気な中学生ね〜、さっさと雄介から離れなさい」
「おあばさんこそ雄介さんから離れて下さいよ。雄介さん困ってるじゃないですか」
「おばさん?私は雄介と同い年なんだけど?」
凛と加山が火花を散らしながら争っている間に、雄介は二人の拘束から逃れ、反対側のソファーへ移動する。
「なぁ、雄介」
「なんだよ、俺を見捨てといて」
「見捨てたわけじゃねーよ。お前さ、なんで出会って間もないあいつらがあんなに言い争ってると思う?」
「そんなの加山が凛ちゃんに喧嘩を吹っかけたからだろう?」
「そう言うことじゃねーよ。はぁ〜、あの二人はお前を取り合ってる訳だろ?」
「それは加山に凛ちゃんが対抗しているだけで、そう見えるだけだよ。ハァ〜、なんでこうなんだよ」
「この様子じゃ、凛も大変そうだな……」
雄介は雄介で、慎は慎で、それぞれため息を吐きながら肩を落としてソファーに体を預けてゆったりする。それぞれの思いが交錯するなか、凛と加山の言い争いは一時間続いた。
「んで、二人とも落ち着いたか?」
「まぁ……今日は……このくらい…で…勘弁してあげる……」
「ハァ…ハァ…なんなんですか、この人」
凛と加山も疲れ果ててしまい、ソファーにもたれかかっている。しかし、それでも小声でお互いの悪口を言っている様子を見ると、お互いまだ元気はある様子だった。
「まぁ、もうこんな時間だし加山泊まって行けよ」
「慎!お前なに言って……」
「ありがとう!山本くん。お世話になるわね!」
加山の声によって雄介の声は途中で遮られてしまった。
「え〜、お兄ちゃんこの人泊めるの〜?」
凛が不満たっぷりに慎に言う。雄介は凛の言葉に同意するように慎の横で頷いていた。
「だってもうこんな時間だぜ、女の子一人返すのは危ないだろ?」
「まぁ、確かにもうこんな時間か……」
雄介がリビング時計に目をやると、時刻はすでに夜中の11時を過ぎていた。凛も時計を見て納得したのか、大きくため息をついていた。
「そんな訳で、加山はとりあえず風呂入って来いよ。俺と雄介で寝床の準備するから」
「そういえば、雄介さんとこの人はどこに寝てもらうの?」
「雄介は俺の部屋で、加山はお前の部屋で良いだろ?」
「えー!私この人と寝るの〜?」
「随分失礼な良いようね、妹ちゃん?」
凛は自分の部屋で加山が一緒に寝ることに、かなり不満がある様子で、加山の方を見て嫌そうな表情を浮かべていた。その表情を見た加山は、嫌味っけたっぷりに言い返す。
またしても喧嘩が始まってしまいそうな空気に、雄介は「この二人を一緒に寝かせて大丈夫だろうか?」そう考えてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます