[2] 前哨戦
中央軍集団は7月1日の時点で、ミンスクとドニエプル河の中間を流れるベレジナ河の西岸に、3か所の橋頭堡を築いていた。ボブルイスクとスヴィスロチ、モスクワ街道上のボリゾフである。これら3か所の橋頭堡はすべて第2装甲集団が占領していた。
第2装甲集団司令官グデーリアン上級大将は第47装甲軍団をボリゾフに派遣して、3か所の橋頭堡を拡大しようと考えた。だが、第4軍司令官クルーゲ元帥がボリソフへの前進を禁止する命令を下した。グデーリアンはこの命令をしぶしぶ受け入れるしかなかった。装甲集団は開戦時から同一軍集団に所属する「軍」に補給を依存しており、第4軍が第2装甲集団の補給を担当していたためである。
ところが第47装甲軍団の一部(第17装甲師団)が停止命令を受領せず、ボリソフへの進撃を継続してしまった。クルーゲはグデーリアンが故意に命令を無視したと思い込み、グデーリアンを第4軍司令部に呼び出して厳しい口調で叱責した。
両者の対立は溝が埋まらないまま、ヒトラーは7月3日付けで第2装甲集団と第3装甲集団を第4軍の直轄指揮下に置くよう命じた。第4軍はホトとグデーリアンの両者を統轄する司令部のみが残され、同軍に所属していた4個軍団(第7・第9・第13・第43)は戦略予備の第2軍(ヴァイクス元帥)に移管された。
この頃になると、ミンスク包囲網で掃討を終えた歩兵部隊と物資を積んだトラックが、先行していた装甲師団に追いつくようになっていた。ヒトラーの決定をグデーリアンは当然ながら苦々しく思っていたが、装甲部隊がドニエプル河への東進が再開できる状態に戻りつつあり、その怒りも次第に収まっていた。しかし、第2装甲集団の正面にはボックの懸念が的中するかのように、ソ連軍の新手の機械化部隊が待ち受けていたのである。
7月3日、第18装甲師団司令部に航空偵察の報告が入った。その内容を読んだ第18装甲師団長ネーリング少将は、衝撃を受けた。
「強力な敵戦車部隊。少なくとも100両の重戦車が、ボリソフ=オルシャ=スモレンスク街道の両側を前進中。現在、オルシャ。これまで見かけなかった重戦車あり」
ボリソフに出現した「これまで見かけなかった重戦車」とは、すでに北部と南部で姿を現していたT34であった。少数のT34を含む100両以上の戦車を抱える第1モスクワ自動車化狙撃師団(クレイゼル大佐)と第13軍の残存兵から成る機動集団が、ボリソフの橋頭堡を潰そうと反撃に乗り出したのである。しかし、この反撃も戦局を変えるには至らず、2日後には撤退を余儀なくされた。
7月4日、第2装甲集団の南翼を進む第3装甲師団(モーデル中将)はドニエプル河に接するロガチェフに進出し、ドニエプル河への一番乗りを果たした。この知らせを受けたクルーゲは事前に何の相談も無く、部隊を動かす「部下」のグデーリアンに対する怒りをさらに募らせる結果となった。
クルーゲとグデーリアンの間に生じた確執は、その後も作戦方針を巡って再燃した。両者の確執は次第に、中央軍集団全体の動きに影響を与えることになる。
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