第14話

「 いてててて。大丈夫ハルくん、サクちゃん」

「大丈夫じゃないかも」

「俺は大丈夫だよ。それよりも俺たち本当に落ちたの?」

確かに穴の中に落ちたと思ったのだが落ちる前と今で雰囲気も何も変わっていないように思える。

「ここってさっきまでいた教室と何も変わらないよね」

「ねぇ。ちょっとここ見て」

サクちゃんが指したのはグランド側にある窓だった。

その窓にはたくさんの傷跡があった。

そして隣の部屋からは「キャー」と悲鳴と「あ、そこは・・・・あはらめ~」などとすごい声もした。

ハルくんはその声の主が気になるようで一人で廊下に出ようとした。

その後春翔はるとの頭には二つのたんこぶが出来ていた。

私たちは何が違うのか探索しに行こうとドアに手をかけた時私たち以外の声がどこからかした。

「今日は大量だすな」

不気味な声だった。

私たちは恐る恐る後ろを振り返った。

するとそこにはヴェアハノンがいた。

「大量ってどういう事よ」

「そのままだすよ。うちのエサが大量だと言っているだけだすよ」

この時三人は分かったこの空間は元いた空間とは違い緑色のヴェアハノンの食事場だと。

多分ここには逃げ場はないだろう。

そしてあの声は私たちの目の前にいる緑色のヴェアハノンが女の子の体液を吸っている所だったらしい。

しかし、一人の女の子からとれた体液は少なかったらしく角がまだ伸びている。

緑色のヴェアハノンはどんどん迫ってくる。

このままでは体液を吸い取られるだけ。

ならばやることはたった一つしかない。

自分たちで倒し脱出するのみ。

「アーカイブの記録を頼りマグマよ我に力を」

「アーカイブの記録を頼り槍よ我に力を」

「アーカイブの記録を頼り銃よ我に力を」

三人は変身した。

「なんだすか。あの時のやつらかだすか。まあいい、この場で俺うち勝てるやつはいないだす」

だすだすと言いながら走ってくる緑色のヴェアハノンは私たちと二メートルくらいの距離まで来たところで消えた。

漫画やアニメなどではこういう場合後ろに回っていて攻撃されるのがベタなのだろうが後ろにもいない。

「どこにいったの?」

さくらが槍を無造作に振り回しているとイテッと声をあげたさくらは尻もちをついた。

「どうしたの?」

春翔が尻もちをついたさくらに手を差しのべるとさくらの足元にまきびしが、置いてあるのに気づいた。

「なにこれ?これじゃあ向こうにいけないじゃん」

槍を武器とするさくらにはこの場は最悪な戦い場だろう。

どこからか影分身の術のいう声がし、あたりを見回してみると緑色のヴェアハノンが私たちを囲めるくらいの分身を出していた。

やっと起き上がったさくらと春翔の間にとてつもない速さで何かが飛んできた。

間一髪二人は避けることか出来た。

何が飛んできたのか確認する間もなく次々と四方八方から飛んでくる。

三人はまきびしがあるので、身動きの取りづらいこの場所で避けるため腕が顔に当たったりなど相打ちばかりしていた。

「ぶざまだす。うちはまだ直接攻撃はしてないのにもうおねんねだすか?それではトドメをさしちゃうだす〜」

「ふん。お前の遊びに乗ってあげただけだよ」

春翔は緑色のヴェアハノンの挑発に乗ってしまい、引き金を引き命中率upのモードに変え銃を乱雑に乱射する。

追尾の能力ではないのでスピードの速い緑色のヴェアハノンは当たらない。

「ハルくんダメだよ。いくら命中率upだとしてもそんな適当に撃ってちゃ当たらないよ」

春翔に冷静さを取り戻してもらおうと言うが聞き耳を持たない。

乱雑に乱射したたまが運良く緑色のヴェアハノン腕に当たった。

緑色のヴェアハノンは変な声をあげてどこかに行ってしまった。

その時のヴェアハノンの角は約十センチメートルから約十五センチメートルまで伸びていたように見えた。

そのおかげで分身は消え、そのままどこかへ行ってしまった。

その後、三人はもともといた教室に帰ることが出来たが、ひーちゃ・・・・・・中野先生に怒られた。

中野先生に予約しておきながら遅れたことについてだ。

五分くらいならまだ小学生だから許してくれるとは言ってくれているが今回は一時間も遅れたのだ。

事情が話せないのはとても苦しいが何とか誤魔化しきれた。

しかし、中野先生はその後も中学生になったら時間にルーズな生徒は・・・・・などと叱られた。

心の中ではそれよりも何で緑色のヴェアハノンは私たちを逃がしたのか。

体液を吸いたいのなら私たちから吸えばいいのに。

そしてなぜ人目を気にして襲ってきたのか私たちは気が気でならなかった。

しかし、今そんなことを考えても下がないと思い後運動会のやり方をきいて、帰った。

今年の競技の個人種目はダンス・障害物走・大玉転がしで、クラス団結種目は全員リレーと騎馬戦だった。


次の日のホームルームでは隣のクラスの女の子が見知らぬ男性に汗などを舐められてという事件があったと聞いた。

私たちは昨日の悲鳴が隣のクラスの女の子だと知り申し訳ないことをしたと心の中で何度も謝った。

うちのクラスはまだ被害者が出ていないからけらけらと男女とも笑っている。

しかし昨日の私たちや隣のクラスの女の子の体験を一人でもしたらこの空気は冷めるだろう。

ある男の子がひーちゃんに「男を狙うやつなんか、いないっすよね」なんて聞いていたが「男のほうが好きってやつもいるらしいぞ」と聞いた途端おびえたのか黙ってしまった。

その後ひーちゃんは、

「はい。はい。危ない人がウロウロしていると大変だから今日からは一人での下校はやめ集団で下校してください」

放課後に誰がどの種目に出るかの話し合いをした結果、小春とさくらはダンスでハルくんは障害物走をやりたかったらしいがジャンケンに負けて大玉転がしになった。

小春とさくらはもともとダンスを習っていたらしく、先生から先に習いそれをクラスメイトに教えるというコーチてき存在となった。

濱小の伝統で、行事の時は先生から数名が教わり、それをクラスメイトに教えるというのが伝統らしい。

それで、クラスの中をもっと良くしようとする昔の校長先生が考えた案らしい。

そうして今日の学校は終わった。


今日からダンスの練習がはじまった。

「ダンスの曲はこれだから」

ダンスの曲は学校がダンスは有名な歌手の曲を使うのではなく、学校が作ったノリのよい曲で踊るらしい。

「まぁ一度聞いてみな」

Aメロ→Bメロ→サビで、よくある流れだが私はこの曲が好き。

Aメロは女子らしさを表すようなふわふわをイメージした曲調。

BメロはAメロと対象的に男子らしさを表すような元気で明るさをイメージした曲調。

サビは男子らしさも女子らしさも入れた団結力をイメージした曲調で、盛り上がること間違いなしと思われる曲を作ってくれた。

「先生! 私この曲が好きです」

「私も好きです」

二人は目をキラキラと輝かせる。

曲も聞いたのでさっそくダンスを覚えることにした。

Aメロでは体をくねくねさせたりしながら曲調に合うように女子らしさをアピールした振り付けだった。

「ここまでは簡単だね」

「そうだね。でも、小春少しばててない?」

二人は息を整えながらいう。

Aメロ振り付けはカチンコチンにならないでくねくね出来れば誰でも出来ると思う。

少し休憩してからBメロの練習をはじめた。

本当なら今日はAメロだけの予定だったがあまりにも二人には簡単すぎてすぐに覚えてしまったのでBまで練習することにした。

BメロもAメロ同様曲調に合わせた振り付けなのでAメロと対象的に男子らしさを合わすような荒々しい振り付けだった。

Aメロは指先まで神経を使いくねくねさせるので神経を使いBメロは体力を使うので、体力がない人は大変だと思う。

 実際二人とも息が上がっている。

「もうだめ」

「小春もうリタイア? 私はまだまだ――――」

さくらは尻もちをついてしまった。

そのくらい二人は疲れているのだろう。

先生もここで終わりにしようといい、解散となった。

宮殿には行かず、いや行けず家に帰ると二人は夕食も食べずに熟睡してしまった。


次の日の放課後今日もダンスの練習をする。

昨日習ったAメロをさくらは完璧に踊れていて、Bメロは小春が完璧に踊れていた。

二人ともほぼ覚えていたので軽くAメロ・Bメロは通して確認してサビの練習をすることにした。

サビは団結力を表すため全員で同じ動きをランニングマンのように合わせて踊るらしい。

今までは隣同士違った動きをするダンスだったが、今回から同じダンスになるのはかっこいいと思い早くやりたいと二人は思った。


練習が終わり、今日も立てないくらい疲れていたが、私たちはまた緑色のヴェアハノンが現れて襲わないか心配で放課後の校舎に残った。

今まではずっと私たちの帰りを待っていてくれていたついで?見回りのついでに私たちを待っていたので?ハルくんはひとりで見回りをしてくれていた。

「今日は来ないんじゃないの」

ハルくんが飽き始めてしまった。

自分の知りたいことはとことん調べるくせにほかの人の手伝いなど自分が関心を持たない者には一切興味を持たずすぐに飽きてしまう。

そこがまた可愛いところなのだが。

その後も待ったのだが一向に緑色のヴェアハノンは現れなかった。


次の日もその次の日もそもそも次の日も待った。

ダンスの練習をしている時にはハルくんひとりで見回りをしていたが、一向に緑色のヴェアハノンは姿を見せない。

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