第30話  毒

話は少し巻き戻る、飯川光誠と遊佐続光が温井紹春の毒殺計画をたてた一ヶ月後くらいの頃だ。温井紹春は各家に間者を放っている。この今風にいえばスパイというヤツである。その中で飯川光誠に仕える間者がある報せをもってきた。



「毒?じゃと」

「はぁ何でも飯川殿は茶に入れる毒を所望しているとか」


基本的には温井続宗が温井家の当主ではあるが、父紹春は以前よりも政務に関わる機会は多くなっていた、続光のせいである。続光に執着するあまり、また頻繁に政務に顔を出すようになっていたのだ。


「何に使うのでしょう?」


続宗がぼんやり疑問を口にすると紹春が鼻で笑う


「ワシに使うにきまっておろう」


この言葉に続宗驚く

「飯川光誠を討ちましょうぞ」

「まぁ待て」


温井紹春はこの時期、本気で戦国大名に脱皮するチャンスをうかがっていた。何か理由をつけて畠山義綱、義続親子を追放し名実ともに能登国を手中に収めたかったのである。


(これは使えるやもしれん、これを上手く使えば畠山家を葬れるかもしれんぞ)


問題は相手がいつ毒を使うかである、そしてそれが万人に分かる形で晒さなければならない、そうすることで温井家は大義名分を得て下剋上をすることができる。


そうこうしていると、どうも光誠が警備の10人に関する情報を集めている事がわかった。これは飯川光誠がこの計画を知るのを最小限に抑えていた為に自ら色々調べなければならなかった為であった。結果的に光誠の用心深さが仇となったのである。



「“連歌の宴”じゃな、十中八九間違いない」

「なにゆえにござる?」


紹春は眉毛をへ文字に変える


「相変わらずそこもとのおつむは屍のままじゃの“連歌の宴”はワシの護衛兵共がワシから離れる場ぞ、年間でほぼ唯一な」


「なるほど・・・」


「これで茶に入れるというのも理解できた“連歌の宴”でワシの湯呑に毒を入れて毒殺するつもりであったか」


そして当日の出席者と席割をみて確信したのである。


「毒を入れるのは飯川宗春」

「久々に歌会に出てきたと思ったら、この席割ではワシの右隣じゃ、ここまで分かりやすい策を敷いてきたとはの・・・まぁよい」


「席割は畠山家の差配により決められまする、つまり義綱様も共謀と踏んでよろしいかと」


「うむ」


ここで連歌の宴の二週間ほど前に飯川光誠以外の七人衆を集めた。


「実は飯川殿が謀反を企んでいる」


この紹春の発言に一同驚いた


「まことでございましょうか?」


長続連も驚いた様子だ


「うむ、ワシを毒殺するつもりらしい」


「そこでじゃ奴等がワシに毒をもった事を確認出来次第、すぐに飯川屋敷と奴の領地を襲ってほしいのじゃ」


一同が黙ってうなずいた。


ここで続宗が口を開く


「では領地の方には三宅殿、七尾の飯川屋敷には長殿、あとの者はこの事は家臣にも口外せず、己の胸の内に閉まってくだされ」


「承知」「承った」「・・・」


そして当日が訪れたのであった。

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