第21話 続光の策
続光が率いていた兵は総勢5000人の大軍団だった。
続光がどうやって兵を集めたのか知らないものにとってはまるで続光は手をこすりあわせたら軍勢があらわれる壺でも持っているのかと思うだろう。
それほど能登の諸将にとって遊佐続光という存在が不可解な者に映っていた。
【 戦に負け、権威は失墜し、温井が恐くて逐電した男が雲のような大軍を連れて戻ってきたのである 】
これは最早出来の悪いジョークみたいなものだ。
もちろん、この世に魔法なんてものはない、軍勢の現れる壺も続光は持っていない。
続光がもっていたのは家柄と知恵だった。
1年半程前・・・続光は七人衆にはとりたてられたが、同時に生命の危機も感じていた、しかし、どうすればいいのか分からないまま時間がすぎる。
そして起死回生の策を思いつく、それこそ捨て身の策である。
現在の七人衆のうちの温井派ではない面々を味方にする為に
【敢えて紹春に温井派ではない七人衆の席を剥奪させる】という策である。
続光は元々紹春が温井派で七人衆をかためたい意思をもっている事を知っていた、どのタイミングで動くのか分からないが“紹春は続光を含めた温井派ではない、伊丹、平、長”をどこかで切ると想定していたのだ。
だが、待てど暮らせどタイミングが訪れる気配がなく、仕方なくそのタイミングを自分で作る事にする、そう逐電である。これはかなりの賭けだったが予想どおり温井一族は温井一派以外の七人衆の席を同時に外した。
そして続光は彼らに近づくのである。七人衆の席を取り戻したいかと。
これらの話と並行して続光は加賀の一向宗と河内の守護代の河内遊佐家に軍勢と資金の支援の交渉をすることになる。
一向宗や河内遊佐家と交渉する時の謳い文句はこうである
「我等の勢力は既に強大です、平・伊丹を中核とする能登の半数が某の味方にござる」
一方、平・伊丹と交渉する時には
「すでに一向宗と河内遊佐家がワシを支援しておる」と言い切る。
無論、交渉時点ではどちらも続光の勢力下にはない。
その後、両者共に続光のペテン話を信じ
一向宗は兵を河内遊佐家は資金を、平家と伊丹家はどちらも続光と共に闘うことになった。
まさしくペテン師である。
しかし、これらのペテンは成立させてしまえば魔法なのだ。
こうして能登の魔法使いは5000人の軍勢を得たのであった。
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