カウンターアタック

羽合タスク

カウンターアタック(掌編)

 大きな水槽のある、薄暗いバー。四人がけの席は半個室状に区切られている。幻想的なムードの中、今夜の私はまるでシンデレラだ。……変身前の。

「じゃあ、今度行こうよ」「僕達あの辺り詳しいし」

 一部上場企業のイケメン達はハモるように言った。あくまでもTOは七海で、私はCCだ。二人とも体が完全に七海の方を向いていて、視界にも入っていない。ずっとこの調子だ。私が何か言っても「あ、電波悪いみたい」って感じの生返事が返ってくるだけ。

 なんかもっとこう社交辞令っていうか、取り繕うくらいの努力してみせろ。どんだけ露骨に扱いが違うんだ。小皿のアーモンドを噛み砕くと、口の中に怒りの欠片が広がった。

 今時、メイクやおしゃれに気をつけていれば誰だってそれなりにはなる。私だってそう。だけど。七海の前では、そんな努力に頼るのは本物でない証拠だと思い知らされる。

「えー、めんどくさい」

 アルコールで濡れた桜色の唇は気だるく言う。天然の小悪魔ガールは男に媚びたりしない。態度が悪くたって、ツンデレだなんだとチヤホヤされる。いつもそう。みんな七海の虜になってしまう。やりたい放題。しかも当人は片っ端から男どもを誘惑しちゃってる事に割と無自覚だったりするから、自分がどれだけ周囲に妬まれているかなんて気付いていない。そういうのどこかで教えたげた方がいいんだろうけど、え、それ私の仕事? って感じだ。

「いや、俺、送り迎えするしさ」

 焦ったイケメン君は急に早口になって、一人称も俺になる。七海は軽く笑って、うんともううんとも言わない。イケメン君、更に焦る。

「えっと、あの、何か怒ってる?」

「えー、怒ってないよ。私いい人だし、ふふ」

 いい人は合コンでドンペリ入れさせたりしないだろ。頭が痛くなる。某頭痛薬の半分は優しさで出来ているらしいが、七海の殆どは自己中で出来ている。にも関わらず……。いい加減、メラッときた。私はいつもいつもアンタの添え物になるために合コンに来てるわけじゃない。

 振り切れた私は、わざと前を遮って七海のケーキの苺に思い切りフォークを突き刺した。ずぶり。

 そして言う。

「ちょっとちょうだい」

 ぶつかる視線。粒子の粗いラメが瞬きする。引き立て役の思わぬ逆襲に驚いているのか。そう思っていると、七海はにこっと音が出そうな笑顔を見せた。

「欲しいの? いいよ、全部あげる」


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