箸休め 語源百景 神話・宗教篇③ 食卓に潜む坊さんたち

 まだまだ続く今回の箸休め。第三回目の今回は、カレンダーと同じく日々向かい合う食卓に目を移してみたいと思います。

 意外と知られていませんが、普段何気なく箸を伸ばしているお皿には、宗教にちなむ名前が溢れています。

 主菜から菓子まで幅広く使われるインゲン豆は、江戸時代の僧侶・隠元いんげん隆琦りゅうきの名を頂いたと言われています。隠元いんげんは1592年にみんの国で生まれた高僧で、日本三禅宗ぜんしゅうの一つ黄檗宗おうばくしゅうの開祖として知られています。1654年に来日した際、中国からインゲン豆を持ち込んだと伝えられているそうです。


 同様に高僧の名前が付いているのが、日本の食卓に欠かせないたくあんです。語源になったのは江戸時代の人物、沢庵たくあん宗彭そうほうだと言われています。

 沢庵たくあんは1573年に生まれた臨済宗りんざいしゅうの僧侶で、江戸幕府三代将軍・徳川とくがわ家光いえみつの相談役を務めていました。沢庵たくあんが初代住職を務めた東海寺とうかいじは、家光亡き後も幕府の庇護を受けています。

 一説によると、たくあんの名付け親はその家光いえみつだと言われています。

 家光いえみつ東海寺とうかいじを訪れた際、沢庵たくあんは自分の考えた漬け物を食べさせました。その味に感動した家光いえみつは、当時まだ名前のなかったそれを「沢庵たくあんけ」と名付けたそうです。


 お坊さんではありませんが、褐色の恋人こと「スジャータ」も、仏教に由来する名です。

 スジャータは複数の経典きょうてんに登場する村娘で、苦行によって命を落としかけていた釈迦しゃかに、ミルクで煮たお粥を捧げたと言います。彼女のおかげで釈迦しゃかは見事に快復し、後に悟りを開いたと伝えられています。


 食べ物からは外れますが、「ダルマ」も僧侶の名前です。語源になったのはぜんしゅうの始祖と伝承される人物で、「菩提ぼだい達磨だるま」と言います。

達磨だるま大師だいし」の名で知られる達磨だるまは、九年間にも渡り、壁に向かって座禅をしたと伝えられています。ありがたいそのお姿を模したのが、縁起物のダルマなのだそうです。手も足もないのは、九年間も座禅を組んでいる内に四肢が腐ってしまったからだとか。

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