どーでもいい知識その⑩ 「ビーナスの誕生」の作者はボッティチェリ
「へ~、みんな素直なんだね。小春ちゃん独り騒いだ程度で信じるなんて」
これ見よがしに感心し、改は何度も顎を沈めてみせる。
「怪人とヒーローが戦ってた? 俺ならいい病院紹介しちゃうけどね、ミケランジェロさんが通院してるとこ」
「ああ、あそこはいい病院だぞ♪ 心が穏やかになるお薬をくれるんだ♪」
「しゃ、写メ!」
「ああ、少しは考えたんだ」
スローモーションな拍手を送りながら、改は小春のスマホに目を向けた。
予想通り、墓場も闘牛士も曇りガラスを挟んだようにピンボケしている。配置もデタラメ。月が
小春が通りすがりのカメラマンで、世界から拒絶されているわけではない。
〈ダイホーン〉には「いない」と言う大嘘を、世界に信じ込ませる能力がある。
〈
〈
「いない」ものを撮ろうとしたカメラは、ダリの絵画に似た幻覚的な一枚を写してしまう。デジカメにスマホと最近の街は高性能なカメラに溢れているが、今まで改たちの存在を断言する画像がネットにアップされたことはない。
「コンクールに出してみちゃえば? なかなか芸術的だし、いい線いっちゃうかもよ?」
改は小春のスマホをひっくり返し、写メを彼女に突き付けた。
自作を目にした小春は、声を詰まらせ、ただ目を見開く。
彼女自身知らなかった才能に驚愕しているのだろう。
「じゃ、また月曜日、学校で」
そそくさと別れを告げ、改は小春に背中を向けた。続けて、他人を痛めつけるのをやめた途端、また顔色の悪くなったミケランジェロさんを
相変わらず軽い。一五〇㌢そこそこの小春でも、ウサギの延長で運べただろう。Fな
「待って! 待ってよ!」
小春はしきりに呼び掛けるが、
なかなか楽しかったが、これ以上押し問答に
餓鬼はハゲモグラの集合体だった。一匹倒したところで、大群を殲滅しない限り、ハッピーエンドにはならない。自然に繁殖しているにしろ、何者かが操っているにしろ、一刻も早く本部に戻り、対策を講じる必要がある。
どうやら、明日のケーキ屋デートは延期になりそうだ。あと一回でポイントカードが満タンになって、「ご休憩無料券」がもらえたのに。あ、四人連れ込めば、四つハンコを押してもらえたかも知れない。
「待てって言ってるだろ!」
ついに小春は絶叫し、残り火を風上に振る。
なぜそこまで
「あのねえ、あんまりしつこいと友達なくすよ」
鬱陶しさも極まった改は、唇を尖らせ、背後の小春を軽く睨む。
ジャミラがいた。
先ほどまで着ていたパーカーをブレザーを国際会議場のように踏み付け、脱ぎかけのセーターを頭に
一体、何が狙いだ!?
一〇〇万度の炎でも吐く気か!?
ジャミラの正体を知ったイデのように困惑する改を
半透明のボタンが
明らかに発育不全な果実は、レモン色のスポーツブラに収まっている。高校生の
名誉のために断言しておくが、小学生以下の洗濯板ごときに改の下半身は反応しない。と言うか、最近は一般的JKが服を脱いでも、「トリンプだな」としか思わなくなってきた。
そもそも女体相手に慌てて目を覆うなど、オカン以外の異性と風呂に入ったことのない坊やが取るリアクションだ。改はむしろ、オカンとシャワーを浴びた回数のが少ない。
ミケランジェロさんがお馬さんを見に行った翌日には、玄関に全裸が漂着している。造型はビーナスだが、胃の中身がエーゲ海しているので、ボッティチェリはしない。
「言ってやる……」
不気味にほくそ笑んだ小春は、舌なめずりするように唾を
「交番行って、お前にらんぼーされたって言ってやる!」
「ら、らんぼー?」
オウム返しした途端、改の視界の端から変身中しか見えないはずのクワガタさんがやって来る。「エクソシスト」のワンシーンばりに背中を反らした彼は、地面スレスレに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます