小さな娼婦編 第45話
暗闇の中、目を覚ます。
窓から入る月の光に照らされて、少し寝ぼけた風合いの色違いの瞳が密やかに輝く。
しばらく眠って目が覚めたものの、開いた目に映るものはよく分からないものばかり。
ただ、全てが柔らかなものに包まれている感触だけははっきりとわかる。
雷砂は安らいだ思いで唇を綻ばせ、愛しい人を起こさないようそろそろと体を動かそうとして、それを背中に回された細い腕に阻まれた。
「ん~……起きたの?雷砂」
「ごめん。起こしちゃったな」
少し舌足らずな、眠そうな声。
申し訳なさそうに言いながら見上げれば、トロンと眠そうな菫色の瞳が雷砂を優しく見下ろしていた。
「疲れ、とれた?」
「うん。セイラのおかげで」
「私の、抱っこのおかげ、ね?」
ふんわりと、セイラが微笑む。
「そうだな。セイラが抱いててくれたおかげだ。すごく安心して、よく眠れたよ」
微笑み返して素直に答えると、それを聞いたセイラがクスリといたずらっぽく笑った。
「ふふ。安心したより、気持ちよかったって感想が欲しいところね。抱いた方の立場としては」
セイラの瞳が艶っぽくきらめき、雷砂は一瞬きょとんとしてセイラの顔を見返した。
だが、セイラの言葉の意味するところを遅れて理解すると、その顔が見る見る内に赤く色づいていく。
「ち、ちがう。そういう意味じゃなくて!!」
ぱっと起き上がり、自分の顔を片手で隠す。
もう幾度となく体を重ねて来たのに、雷砂は今だにこんな風な初々しい反応をすることがある。
むしろ最初の方が淡々としていた。
はじめの頃は、その行為に対して特別な感情がなかったせいかもしれない。
だが、それも徐々に変わってきた。
セイラが雷砂の恋人と名乗りを上げ、それなりの時間を、ともに過ごす内に。
最近の雷砂はとにかく可愛い。
出会った頃ももちろん可愛かったが、今の雷砂は、なんというか色が出てきた。
無色透明な彼女がふいに色づき、それが艶を生む。
そんな時の雷砂は壮絶なくらいに可愛らしく、息をのむような色気を放って、セイラの心をこれでもかというくらいに煽るのだ。
セイラの唇が弧を描き、その手が延びて己の顔を隠す雷砂の手をとる。
慌てたようにもう片方の手が上がるが、そっちの手も素早く戒めて、セイラは優しく雷砂の唇を奪う。
舌先をのばせば、雷砂の唇はうっすらと綻んで。
その隙間をぬって舌を差し入れ、自分のものより小さな舌をそっとからめとった。
甘いけれど、激しい交わりに、雷砂は小さく鼻声を漏らす。
子犬が親に甘えるようなその声が可愛くて、セイラは強く雷砂の舌を吸い上げた。
そうやってしばらく楽しんでから、雷砂の唇を解放する。
雷砂はトロンとした目でセイラを見上げ、それからはっとしたように、
「だ、だから、違うんだって。オレは、そんなつもりじゃなくて」
再びそう繰り返す。
そんな雷砂の様子が可愛くて、セイラはクスリと笑って、
「大丈夫、ちゃんと分かってるわよ。ごめんなさい、ちょっとからかっただけ」
と悪びれず返した。
「から、かった、だけ?」
「うん。ごめんね?」
謝りながら、雷砂の頬を撫で、その手は首筋を通って雷砂の胸元へ。
可愛らしい蕾を見つけて、きゅっと摘めば、
「んぅっ……」
雷砂の唇から、堪えきれない声が漏れる。
「さっきのキス、イヤだった?」
妖艶な笑みと共に投げかけられた問いに、雷砂の瞳がぼんやりとセイラの顔を見上げ、それからゆるゆると首を振る。
その手が縋るようにセイラの服を掴んだ。
「イヤ、じゃない」
「……それから?」
促すようなセイラの声に、雷砂はちょっと迷うように唇をかみ、だがすぐに潤んだ瞳でねだるようにセイラを見上げた。
「もっと、して?」
「はい。よく出来ました」
雷砂の頬を愛おしそうになで、まだ濡れている唇と唇を触れ合わせる。
二人の甘い夜は、まだ始まったばかりだった。
月明かりの下、まだ幼い体が汗に濡れ、かすれた声が甘やかに響いた。
華奢な白い背中をセイラの唇がさまよい、その刺激に雷砂の背が弓なりにしなる。
時間をかけて体中を愛でられた雷砂は、もう息も絶え絶えだ。
潤んだ瞳が恨みがましくセイラを見つめる。
今日のセイラの愛撫は優しすぎた。
気持ちいいが決定的な快楽を得ることが出来ず、うつ伏せになった雷砂の可愛らしいお尻が何かをねだるように揺れるのを、セイラはうっとりと眺めた。
今日こそは雷砂の口からおねだりを引き出したいと、徹底的にじらして、じらして、じらし続けた。
そろそろ頃合いかもしれないと、セイラは唇に笑みを浮かべた。
目の前の雷砂は全身を薄紅に紅潮させ、とろとろにとろけている。
時間をかけて、セイラがとろけさせたのだ。
「雷砂、どうしてほしい?」
指先で内ももをつうっとなで上げながら、答えの分かり切った質問を投げかける。
「セ……ラ。お、ねがい、だから」
かすれた声が耳朶を打ち、縋るような眼差しに背筋が震える。
下腹部が熱くとろけ、もうどうでもいいからそのお願いを聞いてあげたいような気持ちにさせられる。
だが、もう少し、もう少しだけ粘ってみるつもりだった。
ムラムラとこみ上げる気持ちのまま、雷砂の形のいい耳にむしゃぶりついて舌を差し入れると、雷砂の体がまだびくんと震えた。
「はぁ、ん……も、おかしく、なっちゃ……っふ、ぅんん……」
「どうして欲しいか、ちゃんと言ってくれないと分からないわよ、雷砂。ね、どうしたらいいの?」
敏感になった耳に息を吹き込むようにして囁く。
雷砂はすっかりとろけた顔で、だが少しだけ困ったような顔をして。
ゆっくりと体を仰向けると、おずおずと足を広げた。
とろとろにとろけた割れ目がちらりと晒されてセイラは思わず息をのむ。
ついつい目を釘付けにされていると、雷砂の手が伸びてきてセイラの体を自分の上に引き寄せた。
我慢できないとばかりに雷砂の唇がセイラの唇をふさぎ、貪るように舌をからめ取られる。
激しく舌を吸い合いながら、その口づけに没頭するセイラの手に小さな手が伸びてきて、彼女の手を己の足の付け根へと導いた。
びしょびしょになった自分の割れ目へセイラの手を押し当てて、
「ん、ちゅ……触って?がまん、できないよ」
キスの合間に泣きそうな声でねだられたら、もう我慢は出来なかった。
雷砂の一番敏感な部分を指先で捜し当て、優しくこすってやれば、
「あ、あ……もっと、強く……強く、して」
強い刺激を求める雷砂の声に応えて、セイラは指を1本だけ、雷砂の中に潜り込ませた。
浅いところで指を動かしながら、同時に敏感な突起の愛撫も続ける。甘い甘い声を聞きながら。
雷砂のはじめての証をもらうのは、もっと雷砂が大きくなってからと決めていたので、指を1本以上使うことはなく、深い場所に潜らせる事もしない。
浅いところだけでも十分な快感を得ることが出来るし、雷砂のそこは指1本でもキツいくらいなのだ。
セイラは雷砂が苦痛を覚えていないかその表情を伺いながら、刺激を与え続ける。
だがそれは長くは続かなかった。
長い時間、ギリギリまで追いつめられていた雷砂の体は、思った以上の早さで頂上へのぼりつめていく。
「セイ、ラ……セイラぁ……あ、あ、あ、ふぅぅぅん、ぁんんっ……ダメ、ダメぇ……お、かしく、なるっ。んんぅっ」
「雷砂、可愛い……いいよ。おかしくなって。可愛い。大好き」
「んぅぅっ、あああああ……」
セイラの言葉がきっかけになったように、雷砂の背中がぴんっと伸びた。
次いで弛緩して、くたりとベッドの沈み込む。
セイラは愛おしそうに、とろけきったその顔を見下ろし、優しい仕草で汗ばんだ額に張り付いた髪を、そっと指先で整える。
それから雷砂を腕の中に抱き込むようにしてベッドに横たわると、雷砂の頭にそっと頬を寄せた。
「汗、かいちゃったねぇ」
「んぅ……」
帰ってくるのはとろんとした、眠そうな声だ。
セイラはそんな雷砂の様子に口元を微笑ませながら、
「お風呂、はいる?」
「ん。セイラが一緒なら入る」
そんな甘えた返事に頬がさらに緩んだ。
夜の雷砂は、普段の雷砂より甘えん坊だ。
凛々しい雷砂も良いが、こんな甘々な雷砂もたまらない。
セイラはにまにましながら雷砂に服を着させ、二人は仲良く連れ立って宿の地下にある温泉へいそいそと向かうのだった。。
「……恥ずかしすぎて、死にたい」
雷砂は両手で顔を覆い、ぼそりとこぼした。
その顔を、耳まで真っ赤にしたまま。
お風呂に入ってしばらくは、ぽやぽやしていた雷砂だが、時間と共に余韻が薄れて正気に戻ってきたのだろう。
色っぽく色づいていた頬の色を徐々に失わせ真っ青になり、そのあと色々思い出し再びその顔に血を上らせて、さっきの言葉に繋がる。
ちなみにセイラはそんな雷砂を後ろから抱きしめる姿勢で共に湯に浸かっている。
もうすでに、互いの体も髪も洗いっこした後だ。
さっきまでの甘えっこ雷砂も可愛かったけど、羞恥にもだえる今の雷砂も可愛いなぁなどと無責任に思いつつ、その頭に顎を乗せた。
「死んじゃダメ。いいじゃない。可愛かったんだから」
そんな変な理屈の意見を雷砂の頭の上から述べるセイラの頭も、大分とろけているのだろう。
「可愛いとかそういうんじゃなくて……ま、いいかぁ」
セイラのとろけた意見に反論しかけて途中でやめ、雷砂は肩の力を抜いて小さく笑う。
「いいの?」
「うん。気持ちよかったからいいや」
「そう?気持ちよかった!?」
「すごく、よかった。溶けちゃうかと思った」
「そ。よかった」
雷砂の答えに満足そうな顔をし、それからふと何かを思いついたように雷砂の顔を横からのぞき込んだ。
「安心、した?」
いたずらっぽいきらきらした目でこちらを見るセイラを見て、雷砂はクスリと笑って彼女の方へ体の向きを変える。
「そうだなぁ。相手がセイラだから、安心と言えば安心だったけど、でも、どちらかというと」
「どちらかというと?」
「ドキドキ、した」
そう答えて、ちゅっと触れるだけのキス。
目と目で微笑み合い、セイラの首に腕を回してぎゅーっと体を押しつけた。
甘えるように抱きつく雷砂をそっと抱き返して、それからさっきから思っていたことを口に出す。
「そういえば、雷砂。ちょっと大きくなったでしょ?」
「おっきく??背、伸びたかな」
「背も伸びたかもしれないけど、そっちじゃなくて」
「???」
きょとんと首を傾げる雷砂の様子に笑みを誘われながら、セイラは人差し指をその場所へ突きつけた。
まっ平らといってもいい、雷砂の胸元へと。
「ここよ、ここ。ちょっと大きくなったわよね?」
「ええ~?そうかぁ??」
不審そうな声をあげながら、両手を胸の上にぺたんと乗せる。
その指先が少しだけ、本当にほんのすこーしだけふよんと沈んだ。
雷砂はその感触に少し目を見開いて、
「あ、ほんとだ。ほんのちょっとだけど。よくわかったね、セイラ」
と感心したようにセイラを見上げた。
「そりゃあね。雷砂の胸に関しては、雷砂よりも詳しいもの、私」
えへんと胸を張るセイラを、雷砂はちょっと呆れたような目で見つめ、
「こんな夢も希望も無い胸の、どこがいいのさ?」
今まで思っていても中々聞けなかった質問を口にした。
こんなぺったんこで面白味のない胸のどこがいいのだろう。
どうせ触るなら、ふかふかの胸の方が楽しいと思うけどなぁと、セイラの胸を見つめてそんな事を考えつつ。
「ええ~?どこって、全部に決まってるでしょ?触るとすぐにツンと固くなって主張する敏感なところも可愛いし、日々がんばって成長しているところももちろん素敵だと思うわ。何より、私が手に塩をかけて育ててあげたという事が感慨深いわよね」
うんうんと頷きながら、そんな恥ずかしいことをセイラが熱く語る。
「誰になにを言われても、落ち込んじゃダメよ?私は雷砂のおっぱいの味方だからね!」
「う、うん。あり、がと?」
がしっと手を握られて、雷砂はセイラの勢いに気圧されたように答える。
なんでセイラがそこまで雷砂の胸のことで熱くなるのか分からないが、とりあえずお礼を言っておいた。
ちょっと疑問系になってしまったが。
二人の間に、何とも言えない空気が漂う。
そんな空気を追い払うように、雷砂はくすりと小さく笑って、少しのぼせて来たのか、赤くなったセイラの頬を手のひらで撫でた。
「そろそろ、出ようか?」
「そうね。さすがにのぼせてきたわ」
セイラも小さく笑って答える。
二人揃ってお湯から出て、脱衣所へ向かった。
その途中、セイラは雷砂の手をしっかり握ったまま、にっこりと微笑む。
「寝る前に、もう一回おっぱいマッサージ、しときましょうね」
「え?」
「しましょうね?」
「う、うん」
セイラの迫力に負けて頷きながら、雷砂は思う。
後でもう一回お風呂にくる羽目にならないといいなぁ、と。
夜というには朝が近く、朝というには夜に近い。
そんな中途半端な時間に再開された甘い時間は、結局明け方まで終わる事はないのだった。
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