小さな娼婦編 第15話
窓口に戻って依頼の完了処理を終える。
その頃には、ミヤビも流石に再起動を果たしており、他の冒険者の対応をしていた。
目が合うと申し訳なさそうに手を合わせて来たので、気にしなくていいよと軽く手を振る。
そうして再びアトリに向き直り、
「えっと、これでランクアップ出来るはずなんだけど、どうかな?」
首を傾げて尋ねると、アトリはうーんと唸って腕を組んだ。
「そうねぇ。ポイント的にはOKだけど、今日の今日でしょ?ちょっと確認が必要だから、明日もう一回来てもらえない?それまでに上に確認しておくから」
アトリの返事に、
元々それほど簡単にランクアップできるとは考えていない。明日中に何とかなるなら御の字だ。
明日以降の計画は、これから相談できそうな人物が来るはずだから、それで何とかなるはず。
きょろりと周りを見回してみるが、まだその人物の姿は見えなかった。
「わかった。じゃあ、明日」
頷き、窓口を離れようとしたとき、後ろから誰かにすごい勢いで抱きつぶされた。
頭の後ろでつぶれる柔らかな感触と、懐かしい匂い。
雷砂は口元を綻ばせて柔らかく微笑んだ。
その笑顔にアトリが見とれている事に気づくことなく雷砂は顔を上向かせ、真上から自分を見下ろす人の顔を見上げながら、
「久しぶり、ミカ。元気そうだな」
にかりと笑った。
深紅の髪をワイルドに伸ばした彼女は、切れ長の目元を本当に嬉しそうに細め、
「雷砂も、おっきくなったじゃんか。すっげー久しぶり。オレも、会いたかった」
特徴的な八重歯を見せて、人懐こく微笑んだ。
「ガッシュに聞いた?」
「おう!兄貴め、もったいぶって中々教えねぇから、ここに来るのが遅れちまってさ。早く雷砂に会いたかったのに」
唇を尖らせて子供っぽい表情の年上の女性を微笑ましく見つめながら、雷砂は周囲を見回し首を傾げた。
彼女の兄であるガッシュの姿が見えなかったからだ。
「あれ?ガッシュは?一緒じゃないの??」
「兄貴は店の予約に行かせた。せっかくの雷砂とのご飯なのに、店が一杯で入れないと困るからな。安心しろ。ちゃんと一発入れといたから」
ニッと笑うミカ。
相変わらずワイルドな行動力に苦笑が漏れる。
ミカ相手に優越感に浸った代償はちゃんともらったみたいだなぁと、ガッシュの顔を思い浮かべながら。
そこでやっと、自分とミカが窓口の前を占拠したままだという事に気づいて、慌てて周囲をみる。
幸い後ろに列は出来ていなかったが、このまま占拠し続けるわけにはいかないだろう。
退去の挨拶をしようとアトリの方を見ると、彼女は雷砂とミカを見比べて、なるほど~と言うような納得したような表情でこちらを見ていた。
目が合うと、にやりっと笑って、
「夜が長くなるって、これのこと?」
「ん~、まぁね。ここでミカに会うような気がしてたんだよ」
「まぢ?そりゃ、もう、運命だな!うん。運命。アトリもそう思うっしょ?」
「ミカも相変わらずだねぇ。雷砂を抱きつぶさないように気をつけてよ?」
「誰が大事な雷砂をつぶしたりするもんかよ。大切にするさ」
「あれ?2人って結構仲いいの?」
「ん~、同じ女同士だし、たまにミヤビを交えて一緒にランチするくらいにはね~」
そんな雷砂の質問に、アトリが苦笑混じりの答えを返す。
「ギルドの窓口はお高くとまった奴も多いけど、アトリとミヤビは気の良い奴らだからな。兄貴の顔ばっか見てても飽きちまうし、たまには綺麗どころを侍らせてメシを食うのも楽しいしね」
「変わらないなぁ、ミカは」
「昔からこんな感じなの?」
「そうだなぁ。二年前に一緒に行動した時はもうこんな感じだった」
「なるほどねぇ。恋人の1人も出来ないわけねぇ」
「オレより弱い男なんてこっちからお断りさ。そこらの軟弱な男より、よっぽど雷砂の方が魅力的だよ」
「あ~、それは確かに」
「だろ!?アトリも分かってるじゃんか。でも、雷砂はやらんけどな」
「ってか、あんたのもんじゃ無いでしょ!?」
「ま、それはおいおい」
「ったく、ミカは。困った奴ね~。ま、程々にね?」
「ん~なんでも良いけど、ミカ、おっぱいが重い」
長くなってきたミカとアトリのやりとりの間、乗っかりっぱなしのミカの大きな代物が、地味に重たくなってきたのだ。
唇を尖らせる雷砂のほっぺたを楽しそうに指先でつつきながら、ミカは更にぐりぐりと柔らかい二つの固まりを押しつけてくる。
「なんだよぉ。柔らかくて気持ちいいだろ?結構自慢なんだぜ、これ。男のスケベな視線をいつだって釘付けなんだからな」
むふ~と笑いながら、ミカは自信満々だ。
まあ、確かにこれほどの代物だったら、男性諸君の欲望を煽らずには居られないだろう。
だけど、雷砂はこれでも一応女の子なのだ。まあ、おっぱいは嫌いじゃないけど。
雷砂の頭の上でむにむにと形を変える固まりに集まる欲望に満ちた視線と、己に集まる男達の嫉妬の眼差しがうっとおしい位だった。
雷砂が思わずため息をもらした瞬間、真横から誰かの手が雷砂の体をミカから奪い取った。
「なっなっなっなにやってるんですか、こんなちっちゃい子に!ハレンチですよ、ミカさん!!」
飛び込んできたのは、真っ赤な顔をしたミヤビだった。
ミヤビは守るように雷砂を抱きしめて、きっと涙目でミカを睨んだ。
「なんだよぅ。相変わらずお堅いなぁ、ミヤビは。ちったぁ、オレを見習ってみたらどうだ?男にモテるぜぇ」
「見習うって、ミカさんの何を見習えって言うんですか!?私よりよっぽどガサツじゃないですか!!」
「ん~、服装とか……胸?」
「そんな布地の少ない服装は絶対ムリっ!!むっ、胸の事は、いっ、言わない約束でしょう!?」
「あ~、悪い。つい」
全然悪いと思っていないミカの謝罪に、ミヤビがう~っと唸りながら真っ赤な顔で涙目に。
雷砂はふむ、と一つ頷き、ミヤビの腕に身を任せた。
頭と体をしっかり抱え込まれて密着された背中には、ミヤビの控えめではあるが柔らかい膨らみが感じられる。
それは十分に女性的で魅力的だと思った。自分の平らな胸部に比べれば。
ほんのちょっぴりアンニュイな気持ちになりながら、雷砂はそっと自分の平らな胸部を触って、それからミヤビの顔を見上げた。
「ミヤビの胸は、別に小さくないと思うけど」
「えっ?そっ、そう??」
「うん。十分に柔らかくて気持ちいいもん」
その雷砂の言葉に、ミヤビの顔がこれ以上ないくらいに赤くなり、なにっという顔をしたミカが、
「オレのおっぱいとミヤビのちっぱいと、どっちが良いんだ、雷砂!!」
そう言うなり、真正面から胸を押しつけてきた。
柔らかな肉に顔を包まれて、雷砂は沈黙する。
答えを返そうにも返せないのだ。
暴力的なまでのボリュームの二つの固まりは、雷砂の呼吸すらも圧迫する。
(ア、アトリ……助けて)
もう1人、この場で会話に参加していた人物に助けを求めて、手をさまよわせると、その手のひらにふよりと魅惑的な固まりが押しつけられた。
「おっぱい勝負なら、私だって負けてないよ~」
聞こえてきたのはそんな脳天気な声。
最後の頼みの綱のアトリまでもがおっぱい合戦に参加して来たため、ピンチの雷砂を助けてくれる者は誰も居なくなった。
降参だと、ミカの背中をそれなりの力でタップするも、頑丈な彼女は中々気づいてくれなくて。
やばい、もうだめかもと思い始めた頃、雷砂の危険な状態に気づいてくれた野次馬達が割って入ってくれて何とか事なきを得たのであった。
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