水魔の村編 第10話

 食事を終えて部屋に戻ると、ベッドに腰掛けていた少女が怯えたようにこちらを見上げた。

 雷砂らいさは安心させるように微笑み、その微笑みをみた少女が再び頬を赤くする。


 雷砂の後ろから入ってきたセイラとリインを見て、慌てて立ち上がろうとする少女を制止し、雷砂は彼女の前に膝を着いてその手をそっと握る。

 少女は狼狽えたように雷砂の顔を見たが、その手を振り払うことはしなかった。



 「大丈夫。無体な事をするつもりはないよ。村長から、何か言われてるの?」



 優しく問われ、少女はわずかに逡巡を見せたが、思いの外素直に口を開いた。



 「あの、求められた事にはすべて応えるように、と」


 「それは、他の人達も?」



 重ねられた問いに、少女は小さく頷いた。



 「あの、でも、私がお世話する相手はまだ小さいので、心配はいらないとも言われました。他の人達は、村長に他の部屋に呼ばれてもっと何か話を聞いていたみたいですけど」


 「そうか。よく話してくれたね。ありがとう」


 「あの、この話、村長には……」


 「分かってる。オレ達だけの秘密だ」



 雷砂は優しく目を細め、微笑んだ。

 セイラもリインも、少女を怯えさせないようににこにこしている。

 少女は少しずつ緊張を解き始めていた。

 だが、この先自分がどうなるのか、やはりどうしても気になったのだろう。



 「それで、あの……私はなにをしたらいいんでしょうか?」



 おずおずとそんな問いかけを発した。



 「今夜は疲れているし、本当になにをするつもりもないんだけど、うちの舞姫と歌姫が抱き枕代わりに添い寝して欲しいんだって」


 「だっ、抱き枕!?」


 「うん。大丈夫。女同士だし、変な事にはならないよ。この部屋は男子禁制だし。君は、オレ達と朝までぐっすり寝て、それから村長に楽しい夜を過ごしましたって報告してくれればいい」


 「な、なにもしないんですか?」



 少女は赤い顔で雷砂を見ている。

 雷砂はそんな様子にまるで気づかずににこっと笑って、



 「うん。何もしないから安心して」



 そう断じた。

 少女は少しだけ残念そうだったが、やはり安心もしたようでほっと息を付き、やっと愛らしい笑顔を見せてくれた。



 「雷砂、話は決まった?」



 タイミングを見計らって、セイラがそう声をかけてくる。

 雷砂の説明が一通り終わるのを待っていたのだ。



 「雷砂、もう眠い」



 セイラの横で、演技なのか本当なのか、目を擦りながら眠そうにリインが続けて言葉を放つ。

 セイラはそんな妹を愛おしそうに見つめ、



 「リインもこう言ってるし、もう寝ましょう。あなたも良いわね?」


 「ひゃ、ひゃい」



 いきなり話しかけられ、びっくりした少女が素っ頓狂な声で返事をする。

 雷砂はそんな少女を微笑ましく見つめ、



 「はい。じゃあ、準備します」



 と従者らしい口調を心がけながらセイラに向かって返事を返す。

 そしてそのまま服を脱ぎ始めた。

 それを見た少女も、慌てたように雷砂に習う。


 恥ずかしがって中々脱がないかと思っていたのだが、思いの外豪快に脱いでくれた。なぜか下着まで。

 本当は、そこまで脱いでもらう予定じゃなかった。

 今回は特に夜着の用意をしてきてないので、下着で寝ようと考えていただけなのだ。


 だが、少女は全部脱いでしまった。

 恥ずかしそうにしながらも、今やすっかり生まれたままの姿だ。


 雷砂は考える。

 ここで実は下着はつけていても良かったのだと伝えたら彼女は傷つくだろうか、と。

 恐らく傷つく。


 ならば、と雷砂は潔く下着を脱ぎ去った。

 ごくりと背後から唾を飲み込む様な音がして振り返ると、セイラとリインが真っ赤な顔でこっちを見ていた。

 今まで何度も一緒に風呂に入ってるのに、何でそんな反応なんだと思いつつ、



 「さ、舞姫と歌姫もお早く」



 にっこり笑って促した。

 彼女達は恥ずかしそうにもじもじした後、覚悟を決めたように全部脱いだ。

 その光景をもしジェドが見たらこう言うだろう。眼福である、と。

 雷砂も、何度見ても飽きない、変わらぬ美しさの彼女達の裸身に思わず見とれた。

 村の少女もぽーっと見ている。


 セイラは全裸のまま、ただ立っているのはやはり恥ずかしかったようで、リインの手を引きいそいそとベッドに這い上がり、薄い掛け物を掛けた。

 布越しに柔らかな曲線が浮かび上がり、それもまた艶めかしいのだが、セイラもリインも気づいていないようだ。



 「2人とも、早くいらっしゃい。あ、雷砂は明かりを消してから来てね」



 お姉さんらしくそんな指示を飛ばし、雷砂は部屋の明かりを落とすと少女を促してベッドの側へ歩み寄る。



 「はい、じゃああなたはリインの横ね。で、雷砂は私の隣」


 「……」


 「夜は恋人の領分、でしょ?リインお姉さん?」



 リインは不満そうだが、仕方ないと諦めたようだ。

 雷砂は苦笑し、だがセイラの指示通りに彼女の隣に滑り込む。

 少女も、おずおずとリインの隣に身を横たえると、



 「あ、あの、よろしくお願いします」



 何がよろしくなのかは分からないが、そう言ってリインに小さく頭を下げた。



 「ん。大丈夫。寝るだけ」



 リインはかすかに微笑み、その言葉の通りに目を閉じた。

 抱き枕代わりの少女にそっと腕を回して。



 「ひゃあっ。あの、胸、胸がぁ」



 小さくそんな悲鳴が聞こえてきたものの、リインはあっという間に寝てしまったようで、少女の声に答える人は居なかった。

 雷砂もかすかに微笑み、目を閉じる。

 そっとセイラの腕が雷砂の背に回り、彼女の胸に抱き寄せられる。


 半ば彼女の胸に顔が埋まってしまったが、なんとか呼吸路だけは確保して、雷砂もセイラも、程なく眠りについた。

 疲れのためか、心地よい人肌の為か、その日は思いの外深く眠ることが出来た一同なのだった。


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