水魔の村編 第9話
「で、これからどうするの?」
村からあてがわれた家へ戻ってまずは少女をベッドで休ませ、セイラとリインと3人でリビングへ戻ってくると、セイラの口からそんな言葉が飛び出した。
向こうではほとんど手をつけていなかったが、なかなかおいしそうだった。
イスに座るとなぜかセイラとリインが両脇にイスを運んできて座る。
テーブルは広いんだからそんなに密着して座らなくてもと思うのだが、2人にそんな理屈が通じないことは一緒に旅するうちに良く分かっていたので、雷砂は苦笑するだけに止めた。
「あの場では、とりあえずあの村長の思惑に誰かが乗っておいた方がいいと思ったんだ。なんとなく、あの村長は胡散臭かったから」
「そう?良い人そうに見えたけど」
「そう見せかけているだけだ。オレの勘、みたいなものだけど」
「ふうん?」
「で、まあ、別にイルサーダやジェド達にお持ち帰りをしてもらっても良かったけど、好きでもない男に持ち帰りされるのはお姉さん達も本意じゃないだろうし、セイラ達が男を持ち帰るのは論外だし」
「それで、私達があの子をお持ち帰りする事になったと」
「まあ、そんな感じかな。一番無難かと思って」
「今頃、あの場に残ったオヤジ共は、私達が4人で楽しんでると思ってるわよ?きっと」
「そう思ってもらうように振る舞ったんだから、いいんだよ」
「そうよねぇ。ほっぺにチューしたり、のりのりだったもんね?」
「えっと、セイラ?」
何となくセイラの声が不機嫌そうだったので、食事の手を止めて彼女の顔をのぞき込んだ。
「耳元で囁いて、あんな純情そうな子を気持ちよくさせちゃったり」
「セイラ、もしかして怒ってる?」
おずおずと尋ねると、セイラはちろりと雷砂を横目で軽く睨む。
「怒ってないけど、ちょっと妬いてはいるかも」
そんな風に言われて、雷砂は戸惑う。あれは妬かれるような事だったかな、と。
でも、現にセイラは焼き餅を焼いているのだから、フォローは必要かもーそう考えて、雷砂は心持ちセイラの方に身体を向けて、様子を伺うように彼女の顔を見上げた。
そして、打ち明けるのは少し恥ずかしかったが、素直に本音を唇に乗せる。
「その、オレも焼き餅だったんだよ?」
「え?」
「セイラ達の所には男の人が来ただろ?あの人達がセイラにべたべたするのはやだったんだ。でも、腹グロ村長の前だと、オレもあんまり強く出られそうになかったし」
雷砂はセイラの手をぎゅっと握り、口元に寄せて口づけを落とす。
「だから、早くセイラをあの場から連れ出したかったんだ」
セイラの手を裏返し、今度は手首へキス。
そのまま腕の内側を唇でたどりながら、肘、肩、鎖骨へと唇を押し当てていく。
雷砂の反対隣のリインはそんな2人を見て、真っ赤になって口をぱくぱくさせていた。
セイラの首筋へ赤い跡をあえて残してから、頬を優しく吸い、それから唇を奪う。
セイラの首へ腕をまわし、しっかりと身体と唇を密着させた。
いつもセイラから教えられているように、舌を差し入れて彼女の舌をからめ取り、たっぷりと愛撫した。
「んぅ、ん、ん、ちゅ、ちゅ、ちゅる、んんぅぅ……っはぁ、ら、雷砂」
雷砂からの情熱的なキスに、セイラは潤んだ目で小さな恋人を見つめた。
雷砂は少し困ったように笑う。どこか、切なそうに。
「あれ以上あそこにいたら、やっぱりセイラの隣は、オレみたいな子供じゃなくて、大人の男の方が似合うなぁって思っちゃいそうで、嫌だったんだ」
思いがけない告白に、今度はセイラが言葉を失う番だった。
あうあうと口を動かし、少し恥ずかしそうに目をそらす雷砂を見つめる。
それから、瞳を細め、とろけるように笑って雷砂の身体をぎゅっと抱き返した。
「もう、なんて可愛いこと言うのよ。ねえ、雷砂。私がどれくらい雷砂を好きかなんて、良く分かってるでしょ?雷砂が私をいらないって言うまで、私はずっと雷砂のものよ」
「……セイラをいらなくなんて、ならないよ。こんなに大好きなのに」
「じゃあ、ずっと、おばあちゃんになっても、私は雷砂のものって事ね。うれしい……」
そうして再び唇と唇が重なり合う。
そんな2人の横で、
「セイラと雷砂が仲良しなのは嬉しいけど、リインの事も、忘れないで欲しい……」
珍しく長文で、リインがぽつりと哀愁たっぷりに呟くのだった。
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