水魔の村編 第6話
朝になっても霧は晴れなかった。
後で話を聞かせてくれればそれで良いとイルサーダには言ったのだが、二度手間になるから面倒くさいと無理矢理連れてこられた。
目の前の男達はお互いをちらちら見るだけで中々話し出そうとしない。
お互いの様子を伺っているのだ。
どうやら一番最初に口を開いて後で責任を押しつけられるのが嫌なのだろう。
(これ、いつまで続くのかな)
なんだか面倒になってきて思わずため息が漏れる。
それにびくりと反応した若者の1人が、覚悟を決めた様に口を開いた。
「さっ、昨夜は、その、助けてもらってすまなかった」
「いや。助けられる者を見捨てるのは性に合わなかっただけだから、気にしないで」
そんな風に、自分が勝手にやったことだから気にするなと言う雷砂の言葉に、その青年は力なく首を振る。
「君が居なかったら、俺達は死んでいたと思う。心から礼を言わせてくれ。昨日は、そのう、血にまみれた君が恐ろしくてきちんと礼も言えずに申し訳なかったと思ってる」
そう言いながら、青年はまじまじと雷砂を見つめた。
日の光の元で見る雷砂の幼さと愛らしい美しさを。
「その、失礼な質問だが、君は本当に昨日助けてくれた人と同一人物なのか?」
「そうだよ。なに?今のオレはそんなに弱そうに見える?」
「正直に言わせてもらえるのなら、そうだと答える他ない。昨日の君は鬼神のようだったが、今の君は普通の子供の様に見えるよ。俺達大人がきちんと守ってあげなくてはいけないような」
「そう、見えるかもな。でも、昨日のオレも今日のオレも同じ人物だよ。こう見えて、結構強いんだ」
「そうなんだろうな。ただ信じがたいだけだ。俺の頭が固いんだろうな、きっと」
そう言って、青年は気弱に微笑んだ。
それから両脇の男達の確認をとるように彼らを交互に見て、それからすっと頭を下げた。
「昨日も助けてもらった上に、更に助けを求めるのは申し訳ないと思う。だが、俺達には他に頼れる当てがないんだ。どうか、俺達の村を、助けてくれないだろうか?」
「いいよ」
一息に吐き出すように告げられた依頼を、雷砂はさらりと受諾した。
決死の覚悟の申し出が余りに簡単に受け入れられ、男達は困惑したように雷砂とイルサーダを見る。
雷砂はちらりとイルサーダを見上げ、
「もともと、あんた達が助けを求めたら受けようと決めていたんだ」
そう答えて微笑む。
「ええ。困ったときはお互い様、ですよ」
イルサーダも、霧が晴れたら知らんふりして彼らを放り出そうと考えていたことなどおくびにも出さずに、にこにこ笑って見せた。
「では、ここからは大人の話ですので……」
そう言って、今度はイルサーダがちらりと雷砂に目配せをする。
大方依頼に対しての報酬に関する話でもしたいのだろう。
雷砂は軽く肩をすくめ苦笑いをし、
「わかったよ。じゃあ、もう子供は退散する」
そう言い置いて、あっさりと天幕を後にした。
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