第7章 第12話

 イルサーダと共に村に戻ると、宿屋の前には一座の面々と共にセイラもいて、ジェドやアジェスと何か話しているようだが、とてもイライラしている様子が伺えた。

 それに巻き込まれないように遠巻きに、女の子達やリインが見ていたが、何かを感じたのか、不意にリインがこっちを見た。



 「雷砂らいさ



 鈴の音のような声が、雷砂の名前を呼ぶ。

 その瞬間、男達に噛みついていたセイラがこちらを振り向いた。


 疲れ切って、青ざめた顔。

 いきなり雷砂と引き離され、仲間の元へ戻ったら戻ったで、座長が龍だったとかなんとかと訳の分からない話を聞かされ、雷砂の無事も分からずに不安で仕方なかったのだ。

 今にも泣きだしそうな、雷砂の無事な様子を見てほっとしたような顔をして、セイラは雷砂を見つめている。


 雷砂は歩く足を早め、セイラの前に立ち、彼女を見上げた。

 セイラの手が伸びて、雷砂の存在を確かめるようにその頬に触れた。

 彼女の手の上に雷砂も手を重ね、



 「セイラ、心配かけてごめん。もう、大丈夫だよ。今度こそ、終わったから」



 そう言って微笑んだ。



 「も……ほ、ほんとに、心配、したんだからね」



 彼女の瞳から涙がこぼれるのを見て、雷砂は精一杯背伸びしてその涙に唇を寄せた。



 「うん。ごめん」



 すがりつくように彼女の腕が雷砂を抱き寄せ、雷砂も彼女の体に腕を回す。

 そして彼女をなだめるように、ぽんぽんと優しく背中をたたきながら、



 「もう、ほんとにほんとに大丈夫だから」



 そんな言葉を、セイラが落ち着くまで優しくささやき続けるのだった。








 「じゃあ、キアルは家に帰ったんだね?」


 「ええ。ここに一緒に連れてこようとしたんだけど」



 しばらくして、セイラが落ち着いてからキアルのことを訪ねると、セイラは困ったようにそう言った。

 一緒にいこうと言うセイラに、彼はどうしても家に戻りたいと、1人走り去ってしまったらしい。

 追いかける途中で彼を見失い、仕方なく仲間の泊まる宿へ戻ってきたのだそうだ。



 「ごめんね、雷砂。彼のこと、任されたのに」


 「セイラは土地勘がないし、仕方ないよ。気にしなくて平気だからね?

キアルの事は、これから行って様子を見てくるから」



 言うなり出かけようとする雷砂の手をセイラが掴む。



 「出かけるのは良いけど、その前に服、着替えない?」



 そう言われて、雷砂は自分の格好に思い至り、苦笑いを浮かべた。

 服をぼろぼろにされ、一応イルサーダにもらった布で覆っているものの、あまり人前にさらしていい姿では無いだろう。



 「確か、何枚か着替えを置いてあるでしょ?私の部屋に」


 「うん」


 「キアルの事は確かに気になるけど、着替える時間くらいは大丈夫よ、きっと」


 「わかった。そうする」



 じゃあ、着替えてくるよーそう言って宿に向かう雷砂の後を、セイラも追う。雷砂は、後ろからついてくる彼女をちらりと見て、



 「ん?セイラも来るの?」



 そう問いかけると、彼女は嬉々とした表情で、



 「ええ。もちろん」



 そう答えるのだった。







 セイラの部屋に入り、自分の着替えを入れたタンスを探っていると、後ろから手が伸びてきて体に巻き付けていた布をするりとはぎ取られた。

 すると、ぼろぼろに引きちぎられたような服の残骸が現れて、それをみたセイラの瞳がすうっと細められる。



 「雷砂?ちょっとこっち向いて立って」



 ひんやりした声でそう言われ、雷砂は作業を一時中断してセイラの言うとおりにした。逆らうのは、何だか危険な気がしたから。

 正面から見ると、雷砂の姿は更に悲惨だった。

 服はぼろぼろで少女の幼い体を隠す用途を為してないし、白い肌の上には赤黒い小さな痣が転々と残されている。

 セイラはその痣を指でなぞるようにしながら、雷砂の瞳をのぞき込む。



 「これって、キスマークでしょ?」



 怒りを押し殺した、感情の見えない声で問われ、雷砂はしばし考えてポンと手を打った。

 そう言えば、あんまり気にしてなかったけど、なめ回されながら、色々なところを吸われたりもしたな、と。

 あの時は正直、村がどうなってしまうかという方が気になって、あの男にされていた事はあまり気になってなかったのだ。

 気にする余裕が無かったという方が正しいのかもしれないが。

 まあ、舐めたり吸われたりする以外のことはされなかったのだから問題ないだろうと、雷砂はなんの悪気もなく、隠すこともなく、その痣が出来た経緯を語った。

 それがセイラの逆鱗に触れることになるとも知らずに。



 「そんな、事を。ひどい」


 「や、オレは別に気にしてない。何してるのかを、気にしてる暇もなかったし。だから、大丈夫だよ、セイラ」



 ショックを受けたようなセイラの反応に、雷砂は慌ててそう言い募る。だが、それではセイラの気持ちが収まらなかったらしい。

 きっと涙目で雷砂を見据え、きっぱりと言った。



 「雷砂、脱いで」


 「へ?」



 思わずそんな声が出る。

 きょとんとしてセイラを見上げると、



 「さ、早く脱いで。ちゃんと消毒しとかないとね」



 彼女はそう言って、とっても良い笑顔で笑った。







 「ぬ、脱いだけど」



 抵抗しきれずに、結局脱ぐ羽目になってしまった。

 どうせ着替えの為に脱ぐはずだったし、と自分に言い聞かせながら小さくため息。もちろん下は脱いでない。

 セイラは、はい、良くできました、と微笑み、


 「で、キスはされたの?」


 そう切り込んでくる。



 「キス?どうだったかな……あー、されたかも。唇をなめ回されたけど、口は開けなかった、よ?」


 「ふむふむ。キスはされたけど、舌は受け入れなかった、と。じゃあ、唇の消毒からね」



 ふわり、と彼女の唇が降りてくる。柔らかい唇。甘い彼女の匂いが鼻孔をくすぐった。

 目を閉じ、彼女の唇の心地よさに力を抜くと、その隙をつくように、彼女の舌が口腔に忍び込んできた。

 びっくりして目を開けると彼女もこっちを見ていて、微笑むように目を細めた。

 その間も、彼女の舌は雷砂の口の中を優しく蹂躙する。歯をなぞり、口の中を柔らかくかき混ぜ、舌をからめ、刺激する。

 2人の唾液が混ざり合い、淫らな水音をたてた。



 「んぅ……ぅんっ、ちゅぅっ……っはぁ。だ、だから、舌は入れられて無いって」


 「ちゅっ、んんっ……ふふ。ごちそうさま」



 唇をとがらせる雷砂に、セイラは妖艶な笑みで答える。

 唾液に濡れた、雷砂の唇が艶っぽくて、セイラは己の下半身が熱を持つのを感じた。



 「もう、セイラは、あ、んっ……んんっ、そ、こ、くすぐったい、よ」



 雷砂の、熱い吐息混じりの抗議を聞きながら、セイラは首筋を丁寧に舐め、他人が残したマークに唇を押し当てて強く吸う。

 そうやって上書きしながら、セイラは丁寧に丁寧に、雷砂の白い素肌に舌を這わせていく。

 鎖骨の辺りや、胸に散った無数のマークを余すことなく上書きしていく。


 マークを残した外道は、雷砂の胸がお気に入りだったようだ。

 こんな小さな子に欲情するなんて、まったく、変態なんだからーと自分の事は棚に上げ、心の中で罵りながら胸とその頂は特に念入りに消毒した。


 途中、刺激に耐えきれずに体をふるわせた雷砂が座り込みそうになったので、その体をベッドに横たえてしつこいくらいに更に消毒した。

 消毒の激しさに比例するように、どんどん熱を増す雷砂の可愛らしい声は、セイラの劣情をこれでもかというくらい刺激してくれたが、今にも下半身に伸びて自分を慰めようとする手は何とか押しとどめた。

 これはあくまで消毒なのだ。そう、自分に言い聞かせて。


 わき腹の傷口の血を舐め取ってみると、驚いたことに、そこにあった傷口はもうほとんど塞がっていた。

 痛くないのか、と訪ねると、痛くないと、不思議そうな声が返ってきた。自分でもどうして治っているのかが分からないようだった。


 消毒もほぼ終わり、潤んだ瞳でこちらを見上げる雷砂に触れるだけのキスをする。

 やっと終わったかと、ほっとした顔をする雷砂に悪戯心を刺激され、



 「ズボンは脱がされて無いみたいだし、雷砂のココが無事で安心したわ」



 悪戯っぽく告げ、雷砂の大事なところをそっと、だがそれなりの刺激を与えるように考慮しながらなで上げた。

 雷砂の背筋がピンと反り返る。



 「っんんん……」



 押し殺したような声を上げ、雷砂がきつく目を閉じた。体を震わせて、荒い息をつく。

 セイラは愛しそうに雷砂を見つめ、乱れた金色の髪を梳いて整えてあげた。

 だが、感じやすくなっている体はそれすらも快い刺激となるようで、雷砂は無意識のうちに、小さくあえぎ声をあげてしまうのだった。






 しつこいくらいの消毒が終わり、何とか着替え終わった雷砂は、赤みが抜けきらない頬で、恨みがましくセイラを見つめた。

 セイラは大人の余裕で雷砂の眼差しを受け止めてにっこり笑う。



 「じゃあ、気をつけてね、雷砂。帰ってきたら、一緒にお風呂に入りましょうね?」



 悪びれずにそう言うと、雷砂は少しあきれたような顔をした後、仕方ないなぁと言うように破顔した。



 「うん。行ってきます、セイラ」



 背伸びをして、彼女の頬にキスをして、離れようとしたら逆にセイラに捕まって唇を奪われた。



 「……行ってらっしゃい、雷砂」



 見ているだけで幸せになるような彼女の微笑みに見送られて、雷砂はキアルの家へ向かうのだった。


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