第40話 2087年12月23日 日本国 山口県 下関市 関門海峡 関門トンネル 両袖

山口県下関市 関門海峡を潜る関門トンネル前の下関側の入口には、第三次世界大戦時のバラ線が未だ無尽に張り巡らされる


丁寧にバラ線をペンチで断ち切っては前に進む、堂上と近賀

堂上、近賀にペンチと軍手を渡し

「近賀さん、ここまで来れば十分です」

近賀、憮然と

「時間掛かったな、どうしても行くのか」

堂上、飄々と

「行きますね」

近賀、嘆息しては

「本当に死んだらどうする その前に尾は、尾は無いのか」

堂上、思いを馳せては

「尾は、もう米上が受け取ってますよ」

近賀、歯噛みしては

「お前な、離縁状渡しっ放しもどうかだが、いい加減上さんを名字で言うな」

堂上、微笑

「そう言えば、ずっと米上のままですね」

近賀、溜息

「呆れた奴だ、その距離感何なんだよ」

堂上、不意に

「離縁状も、士道覚悟の俺だけの記入と、総理の一筆で役所で受理されましたしね まあ米上に離縁状押し付けては、早々に提出してくれたから、さすがに諦めてくれたと思いますよ あと少ないけど生前分与もしましたしね」 

近賀、語気も荒く

「おい堂上、何が生前分与だ、日本中が貧乏だからって、勘違いするなよ それにだな、財務省庁舎に足しげく通ってる米上から聞いたぞ、それでも諦めてないからな 一旦離婚した上で、お前と再婚引継訴訟起こすつもりだ、どうしてもふんだくって、5000万円の婚礼費用を立て替えろってさ、お前の生前分与で賄いきれるかよ、こら、」

堂上、悩まし気に

「そう来たか、財産家だろあいつ 近賀さん、何とか松藤に言い含めておいて」

近賀、溜め息も深く

「お前も、業が深い男だよ いい加減、米上と元鞘に収まれ」

堂上、視線を定めたまま

「近賀さん、こう見えて、俺何かに飢えてるんだよ、米上に普通の幸せを満たせられると思うの」

近賀、厳かに

「何の為に、誓いの言葉を宣誓した」

堂上、微笑

「米上が幸せになるなら、神様も融通しますよ」

近賀、軽く拳を振り上げては

「融通なんてするわきゃ無いだろう、お前が足掻くんだよ堂上 ふん、いいか死ぬなよ」拳を柔らかく繰り出す

拳を払いのける、堂上

「宮武は手を抜かない真面目君ですよ」

近賀大仰に

「本当呆れるよ、武士はよ、おおよ、士籍、皆の奪うか、厚生部に言っておくか、おい、」

堂上、腰の虎徹を構え直し

「話長くしようとしても無駄ですよ、行きます」歩み始める

近賀、吠えては

「まだ聞けよ、オイ!」

陽気に手を振る、堂上

「生きてたら、ぼたん鍋奢って下さいね」

近賀、不意に涙

「ああ、いくらでも食わせてやるから帰って来い、ここで待ってるからな!」



遂に関門トンネル内 照明も間引きされ薄暗く、 腰迄有る木の柵を押しのけては進む、堂上

そして足音が響き、長いトンネル向こうから一人歩いてくる男、不意に足音が止まる


細面の面差しが、ゆっくり照明に照らされる その男、宮武

「追い詰めますね、堂上さん」

堂上、偉丈夫にも

「出迎えとは、礼儀が出来てるな」

宮武、苦笑しては

「チリ州、ベネズエラ州と来て、こちらの準警戒地域九州で暴れられたら、何様ですよ、堂上さん、帰りません」

堂上、くすりともせず

「これも、宮武との因縁だ、ここで片を付けるぞ」

宮武、従容と

「そうしますか とは言え、この先の境界の警備は特に固いですからね ここで終りにしましょうよ」

堂上、尚も

「ひりひりするのは、それかよ」

宮武、見据えたまま

「ええ、こちら側はまるで刃の上ですよ」

堂上、柄に手を掛け

「九州、物騒なんだな いいか始めるぞ」

宮武、柄に手を掛け

「どうでしょう堂上さん、関門橋の方が眺めが良いですよ」

堂上、不意に

「俺としてはこっちが好都合なんだよ」等間隔に置かれた監視カメラを指差す

宮武、呆れ果てては

「まあこの際、どちらでも構いません しかし良く来てくれましたね、堂上さん ですが、ここから先は本当に地獄の一丁目なんですけど知ってますか 万が一出られたら愕然としますよ」

堂上、柄に手を掛け構えては

「後の事はどうでもいい 宮武よ、来ざる得ないだろう、座敷犬にしては太刀筋が良すぎる、今の内に腕の筋叩斬るしかないだろう」

宮武、同じく柄に手を掛け構えては

「怖いな、そちらの現所属団体ローマ参画政府は私闘禁止ですよね、やはり止めましょう、果たし合いなんて滅茶苦茶噂になりますよ、そう、寄合所でも口止め出来ないかな どうです、観光とは言えませんが、九州の現状の案内はしますよ、それでお帰り願えません、仲良くしましょうよ、お願い」懇願するように

堂上、みるみる漲る

「もう遅いな、ローマ参画政府にはお暇は出してきた、ついでに離縁状もな、俺はヤル気だよ、最悪道連れも辞さんよ」

宮武、柄に掛ける右手を開いたり握ったり

「仕方無い、全力で行きますか」

堂上、確と柄に手を掛ける

「ああ、全部引き出して、無茶な行い懺悔させてやるよ」


堂上と宮武、同時に抜刀するも“ガン”凌ぐ音が関門トンネルに響き渡る


堂上と宮武、二手三手次々繰り出し、すんでで躱すも剣が峰 

宮武つい覇気に押されるも、堂上と宮武の放つ剣圧が次々木の柵がここまでかと木っ端微塵に吹き飛んで行く

宮武、目を見張るも

「あーあ、獣止めの柵が、この先の順序あるんですよ、無茶しないで抑えて下さい」

堂上、恫喝

「俺にかよ、知るか、」

宮武、下段の払いを往復

「もう、どうにもこうにも、真っすぐなんだな」

堂上、交わし跳ねては

「宮武が生っちょろいだけだ、まっすぐ生きてみろ」

宮武、エーテルを循環させては円月を描く

「殺す気満々なのに、それは頂けないでしょう」

堂上、同じくエーテルを循環させては円月を描く

「結果として死ぬ前に、剣の道の厳しさ教えてやる、心と体に刻み付けろ」

見る見る、堂上と宮武の覇気が漲り、共に繰り出す

「ハー」一閃、真っ向から打つかり合うも、尚も剣が峰 剣圧で周囲の木の柵が炸裂吹き飛んで行く 


常軌を逸した、剣技が続き、堂上の右手のリングと宮武の左手のリングが灯り始める

身の縮む刀の鍔迫り合いの音が、延々続く

二人のリングが薄暗い照明の中煌々と照らして始め 増々上がる剣圧で、ひび割れたコンクリート壁から次第に海水が染み渡って来る


健闘するも一方的に押される、宮武

「まずいな、海水漏れて来てますよ、ここまでやっちゃいますか、」

堂上、只吠える

「だから、手加減は無しだ」

宮武、尚も堂上の剣技を受けては

「だからさ、ここで戦うのは無謀ですよ、堂上さんも死にますよ」

堂上、振りかぶっては

「それくらいの覚悟が無ければ、武士は務まらん、びびるな、」一刀両断しようと

宮武、確と堂上の虎徹を抑えてはエーテル循環、

「ならば、その刀を折るのみ」宮武の左手のリングが強力振動、空気の揺れる音が両方の入り口に響いて行く

堂上、まなじりが上がり

「まだまだ、温いんだよ、分かってるのか、」堂上のリングも唸り、宮武のリングと振動共鳴、空気をも斬り裂く勢い 関門トンネルのあちらこちらから軋む音が響き始め、壁面からの海水侵食がまたもや増える


堂上の圧倒的な剣圧に、一方的に押され始める宮武

後退する関門トンネル北九州方面には、第三次世界大戦中の旧中国の新旧装甲戦車が所構わず擱座する

尚も剣が峰、勢い余った剣先が擱座した新旧装甲戦車を屠る


宮武、恐縮しても集中、宮武のリングが青く灯る

「すいません、俺、ここで勝たないと、ニューヨークに店持たせて貰えないんですよ、師匠厳しいな、」

堂上、容赦なくも剣先多く

「俺が代わりに経営するから、心配するな」

宮武、仕掛けようとするも、堂上に隙無く

「いやー師匠の直営だから、無理かな それに良い縁談があるとか、ああでも美久里さんと誓紙書いたの、師匠聞いてないのかな」

一気に詰め寄る、堂上

「お前、誓紙書いたのに、美久里さんどうするんだよ」横に薙ぎ払う

宮武、真っ向から受け、鎬を削る

「そこは師匠の進める縁談ですから、そっちが優先です、まずはそっちかな」

堂上、怒り心頭、

「ふざけるな!」勢い余った斬撃が、右横の擱座した装甲戦車を真っ二つ

宮武、只目を見張る

「本当にやる気ですよね、ふざけるも何も、そう、美久里さんともっと深く会話してないですよ、全然セーフ、」堂上の一瞬の隙を逃さず突きを繰り出すも

堂上、難無く宮武の突きを弾き返す

「死線潜れば、一蓮托生、一生の伴侶だ、誓紙侮るな、」

宮武、後退しては構え直す

「その割に、米上さんに離縁状渡しましたよね、師匠の所にも来たそうですよ 酷い方ですよ、あなた、堂上さん」

堂上、腰を据え構える

「武士の習わしだ、」

宮武、隙を窺いながら

「どうせ捨てるんだったら、俺も縁談くらいの女性で丁度良いですよ」

堂上、怒髪天を衝く

「宮武、美久里さんにも、縁談の人にも失礼だろ!」

宮武、尚も窺う

「失礼と、甲斐性無し、どっちが酷いですかね」

堂上、吠える

「俺と、比べるな、背負ってるものが違う」

宮武、右から左と構え直すと、左腕のリングの灯りが増す

「如何にもの理由で、逃げないで下さいよ 米上さん、師匠の所で泣き喚いたとかですよ、追い出そうにもフル装備とかで追い出せず、朝から晩迄話聞かされては、流石にうんざりとかです 師匠もついほろり寸前とか聞きましたが でも、あの師匠がほろりするかな」

堂上、虎徹の鎬に乗るエーテルを見やる

「少しは同情してやれや、」

宮武、無形の位

「それ、堂上さんにそのまま言いたいです あなた、米上さんの事思っては一度も泣いた事ないのですか」

堂上の村正が、薄暗い照明の中でも鈍く光る

「絶対、ぶっ殺す」

宮武、深く息を整え、村正の鎬にエーテルが乗り始める

「そうはいきません ああでも、このまま美久里さんに合えなかったら、少しは寂しいかな 愛おしいって、こういう事ですよね、堂上さん、結婚してたならあなたもそうですよね」

堂上、一閃

「四の五の言うな、俺の道は俺のものだ」

宮武、負けじとと一閃

「あなたって、人は、」

共に対峙、鎬を削る音が耳を劈く、堂上の虎徹と宮武の村正に乗ったエーテルが、強力な共振波を齎し、擱座した旧中国の全新旧装甲戦車の残弾に誘発、一気に炸裂 

爆煙に包まれる関門トンネル、壁からの浸水が尚も増す


尚も、

爆煙の中から、同時に出る堂上と宮武、牽制しては共に目が吊り上がったまま、威を発する

宮武、歯を食いしばっては

「凄え閃光、死ぬ所でしたよ」

堂上、尚も

「まだ、余裕があるんだろ、とことん行くぞ」やっと疵を負った虎徹を、振り抜く


堂上、宮武を圧し続けるも、目の前には強固な巨大鉄柵

「この鉄柵邪魔だ、開けろ!」

宮武、やっと堂上を凌いだまま

「開けろって、開けるのに認証で10分も掛かるんですよ、置いて行った旧中国に文句行って下さいよ」

堂上、まんじりともせず

「旧中国って、戦車でも弾き返しそうだな、延々内地で戦争しやがって」

宮武、たじたじと

「そうでしょう、今日は帰って下さいよ、ね」

堂上、尚も一擲

「ここで帰ったら、宮武との勝負負けになるだろ、後戻り出来るか、」

宮武、鋭い一擲受けるも、右腕を村正からつい離す

「痺れる もう、ハードル高いですよね、俺を倒して、九州に抜けるなんて、堂上さんでも出来ますか」

堂上、エーテルを循環させると、右腕のリングが青く灯る

「やってやるさ、」一喝、虎徹を振り下ろしては一刀両断、“ガーーン”鈍い衝撃で倒れる巨大鉄柵

宮武、透かさず後退するも

「ですから、これ戦車避けなんですけどね」倒れた巨大鉄柵に軽々乗りついでは

追い縋る、堂上

「知るか」続いて巨大鉄柵に上がる


数え切れない対峙からの衝撃で、見る見る関門トンネル壁面から海水が一気に噴き出す


宮武、じりりと

「あーあ、酷いな、早く抜けないと」

堂上、不意に

「少し計算外だ」

宮武、うんざりと

「これ、かなりですよ」割れた巨大鉄柵の上から跳ね、漏れる海水の張りつめる車道に着地

追う、堂上


尚も堂上と宮武の鍔迫り合い、海水が足元を更に満たして行く

宮武、疵を負った刀身を見やる

「まずいな、お互い死にますよ、そろそろ鞘に入れません」

堂上、吐き捨てる

「するか、油断禁物、俺は死ねないよ」

宮武、切に

「もう不意打ちも出来ませんよ そう、守るものがあると、足元救われますよ いやそれも、よく考えたらもう無いし、そもそもが全部俺絡みじゃないですか、仲良くしましょうよ、もう堂上さん、何か頭固いな」

ますます熱り立つ、堂上

「宮武もだろう、ここで無様に逃げ回ると師匠から切腹言い渡されるぞ」

宮武、深い溜め息

「はあ、そっちもですか そうだ、女に心残りでは、一生浮かばれませんよね、見逃してくれません」

堂上、視線を見据えたまま

「女として見てる以上、ぬかるぞ」

宮武、吠える

「切り分けますって、本当しつこい、」

堂上、捲し立てる

「器用に出来るなら、美久里さんは決して泣かない 美久里さんの逞しいの知ったつもりだろうが、俺は見てるんだよ、美久里さんが宮武の事で何度も泣くのをだ」

宮武、叫ぶ

「言うな、一々引き合いに出すな、出来ます、」

堂上、改め

「出来るのか、愛が欲しければ、吠えろ、叫べ、訴えろ、美久里さんがどうしても好きなんだろう、」

宮武、熱り立つ

「だから一々、説教するな!」左手のリングが灯り、最高の打擲を繰り出す

堂上、寛然と宮武の打撃受けながらも

「もっと、来い、腹の中から叫べ、」吠える

堂上と宮武のエーテル波動が一気に共振、

「おおおーー」二人のリングが薄暗さを払拭、

関門トンネル側面の壁に仕込まれた旧中国のトラップ爆弾が瞬く間に誘発してゆく

側面決壊、海水が一気に噴き出す


爆煙立つも、海水の飛沫に忽ち消され、堂上と宮武の憔悴しきった姿が浮かび上がる

堂上、うんざりと

「何で爆弾撤去しないんだよ、」虎徹をきつと握りしめる

宮武、辛うじて踏ん張る

「知らないですよ、だから閉鎖してるんでしょう、」村正をきつと握りしめる

堂上、尚も迫る

「最初に言えよ」

宮武、受けては尚も対峙

「言う隙さえ無いでしょう、どうせ、言っても来るんでしょう」

ますます鋭さを増す、堂上と宮武の続く斬撃

そしてついに、意を決した両者最高の一閃、空気をも斬り裂く斬撃、すれ違い様に宮武の尾がついに千切れ飛ぶ

宮武、不意に後ろ髪に手を当てるも

「強え、」

堂上、透かさず千切れとんだ宮武の尾を宙で掴んでは、

「当たり前だ、」宮武の尾をコートのポケットに捩じ込む


こことぞばかり打擲を繰り出す、堂上

「宮武の負けだ、刀捨てる迄、打つぞ」

宮武、消沈するも、尚も対峙

「くそ、これ刀技じゃないでしょう、村正でも流石に折れますよ」

堂上、尚も渾身の打擲

「だったら、第一級品使え」

“バキン”宮武の村正が砕け散り、もはや柄だけ、それさえも力無く落とす

「痛え、痺れる、」余りの痛さに片膝を付く

堂上、透かさず宮武の襟元を掴み上げ

「当たり前だ、ここで終りだ」

宮武、苦痛を耐え

「これじゃ、調理も出来ないよ、仕事に穴開けちゃうな」

堂上、宮武の襟元を何度も揺さぶっては突き放す

「当て身だ、骨は砕けてない、そのうち痛みは消える それより九州に入れろ、俺が手伝ってやる」

宮武、苦笑い

「それは有り難いですけど、九州のトラップ解除、命懸けですよ」

堂上、尚も

「死ななきゃいいんだろう」

宮武、痺れる手でポケットから包帯取り出し、痺れ不器用ながらも自らの手に巻き付けては

「皆そう言いますけど、最後は義体になっちゃうんですよね」

堂上、宮武の手を取り、きつく両手の包帯を縛り上げる

「自己責任だ、気にするな」


膝迄浸かった海面を掻き分け足早に急ぐ堂上と藤田、来た道なり通りに関門トンネルが一気に崩壊、見る見る海水に埋まる

崩壊を辛うじて交わす二人、前方の天井が一気に崩落するも、堂上エーテルを研ぎすまし薙ぎ払っては真っ二つに道をこじ開ける 不意に“パキン”堂上の虎徹の力無き折れる音

「ここまで、良く持ったな」感謝の意を込めつつ、折れた虎徹を投げ出し、足迄浸かった関門トンネルをひた進む


尚も障壁は続く、目眩のする位の獣除け柵、太腿まで浸かった海水を押し分け進む堂上と藤田

宮武、じりりと

「もう、柵邪魔だな、進めない」

堂上、尚も柵の隙間を抜け進む

「とっておきの虎徹あればな、もっと弾き飛ばせたのに」

宮武、堂上追う様に

「もう寒い、きつい、死にたくないですよ、」

堂上、振り返りもせず

「声出すな、振動で落ちて来るぞ」


愕然とする堂上、目の前にはこれでもかと強固な鉄条網電流鉄線、浸かった海水から電流の火花が散る

「何でこんな鉄条網有るんだよ、」

宮武、宥める様に

「声が大きいですよ ですから人と獣除けです、本州から興味本位で流れて来て死なれては、北九州から人を割けないから、新たに設置ですよ」

堂上、目を見張り

「ふざけるな、とは言え、事情が事情か、おい、今日ここで何で閉めるんだよ」

宮武、苦い顔で

「ええ、誰のための柵とお思いですか、もう数日前から下関のバラ線切ってはこちらの警報鳴りっ放しですよ、もううんざり、はあ、今からだと潜って本州にも抜けられないですよね」

堂上、電流迸る海水の中、掻き分けて進む

「俺の性かよ、兎に角押そう」

宮武、追い縋っては

「だから堂上さん、流石に直接の接触は危険です、強力な電流流れてますから、防磁コートでも感電しますよ」

堂上、振り向いては

「いいから、宮武も防磁コートだろ、押すぞ」

宮武、苦笑しては

「本当、必死だな、互いに尾が無いのですから、ここで潔くも有りですよ」

堂上、思いを巡らしては

「いやだね、まだ会いたい人がいるんだよ、渕上さん、天上さん、階上、楠上、花彩、逆井、御船、人美、源、葉村さん、葛本さん、とものさん、鶴見、菜穂子、あと華辺さん親子、最後は早乙女さんか」鉄条網を押し通電

宮武、通電しつつ呆れ果てては

「知ってる人多いですけど、それ、ひょっとして全部女性じゃありません、モチベーション高いな って米上さんいないですって」進み出ては鉄条網を押し通電

堂上、通電の中、不意にくすりとするも、

「それは言うな、少々心が痛む あと、美久里さんな」

宮武、歯を食いしばっては鉄条網を押す

「言いたい事、分かりますよ、」

堂上、歯を食いしばっては鉄条網を押す

「分かってるなら、いい」

宮武、尚も押す

「しかし水圧で動きませんって、それにまだ2つ有りますからね」

堂上、尚も押す

「2つもか、本当に死にそうだな」

宮武、くすりと

「さっきの威勢は何ですか」左手のリングが灯る

堂上、くすりと

「それもそうだな」右手のリングが灯る

エーテルの波が集約し、二人のリングの灯りが、仄暗い関門トンネルを煌煌と照らす



“バーーン”、いよいよ関門トンネルが耐えきれず一気に決壊、トンネル内に激しく海水が流れる

海面に、堂上と宮武の刀の鞘が浮かび、そして沈み、また浮かぶ

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