第31話 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 プラザコースト ラグジュアリールーム1204号室 

RPG−7の硝煙の残ったスイートルーム15階から代替えのラグジュアリールーム12階に移った廊下に、刀を下げた男の影


深夜、ラグジュアリー1204号室のドアが開く 疲れて窓際のソファーに眠りこける米上

机の上には豪快に書かれた【戻ったら絶対起こしてね!】の便箋

堂上、苦笑しては

「とことん疲れてるか、起こす勇気無いよ」


躊躇うかの時間が流れる

堂上、米上の向かいのソファーに座っては、眠る米上を見つめる、出る言の葉

「美久里さんから聞いた谷地ビュッフェで晩飯食べていたら、八反さん来て話したよ 結界の外から見つめては、旧大統領府州知事公舎で溝端倒したの見たんだって、凄いよ 何でもあの完全武装を駆使して圧倒だったそうじゃない、そりゃそうだ、あれだけ改良したら溝端も勝てないよな それでさ、八反さんに言われたよ、お前等庇い合って二人死ぬって そうかなと思ったけど、まあ恐らくそうだろうね、栄子の方がもう抜きんでてるってさ、堂上お前は温いままでいいのかって、延々八反さんから説教 やはり武辺の家系同士は一緒になっちゃいけないんだな なんて言うんだろう、今日迄の日々、強者が次から次へ途切れなくやってきては、心休まる日なんてほんの僅かだったし、いやそれはそれで愛おしい日々だけど、何れは死に別れるんだなって、今日になって実感したよ そう、多分俺が先に死ぬんだろうけど、そうなると栄子きっと泣くよね、恐らく再婚もしないよね、子供もまだだし、この先も寂しく生きるんだろうなって朧げに感じちゃったり、それって女として幸せなのかな 鈍い丈流に言われたくないって、その顔にありありと出てるか」ただ苦笑


堂上、尚も淡々と

「八反さんから、一旦上家衆抜けて、武者修行出ろとか言われたけど今更なんだよね、俺だったら只の一人旅になってしまうって言ったら、それでいいってさ、それって宮武守るためでしょうって言ったら、それもあるってさ 横から合流してきた、貴志さんとかもさ、名前隠して国連に来いって誘われたけど、それもどうかな、俺そんな玉じゃないから断ったけど、駄目だったかな って、上家衆抜けたら栄子も追って来るよね、そうなると上家衆も穴が開くのか、どうすべきかな」


堂上、深い溜め息

「でも、もう決めてるんだ 宮武、あいつ危険だよ、あの胆力で善にも悪にも振り切られたら、俺等も世界も堪ったものじゃない、振り回される」

堂上、米上の顔を見つめては

「なあ、宮武追うべきだよな まあ、返事もしないか、起きたら起きたらで泣くだろうし、さてね」


堂上、不意に

「そう、そこの谷地ビュッフェで、大戦車の戦災を一緒に救護していた和服の日本人女性と男の連れとディナーしてたんだけど、早乙女さんって知ってる? 何かさ、よく俺の事知ってるんだよね、熱烈なファンかな 昔程人気薄らいだけど、いるんだなって、どんどん話込んじゃってはこんな時間になっちゃって、ああ綺麗だったけど、そんな気は無いからね」


堂上、暫し沈黙

「早乙女さんにも言われたよ、今別れた方が傷も浅くて済むって 栄子、俺の為に戦って深い傷を背負っても、それさえも愛おしく感じる筈だって、今迄考えた事も無いよ 共に恒久和平の為に尽くしてきたけど、何か栄子にはそぐわないよ、そう上家衆の米上でなくても、変わりはいる筈さ」


堂上、徐に立ち上がり、ベッドから毛布を持ち寄ってはポツリ、

「やっぱり俺、結婚向いてないわ、」

堂上、毛布を米上にそっとかけ、米上ほつれた髪を優しく搔き上げる

「聞いたら、怒るよね」


堂上、深くソファーに沈み、眠りこける米上に向って

「なあ、初めて合った日とか覚えてるかな、多分覚えてないだろうな、まだ小学生だった頃の正月の道場開き知ってるでしょう いやそこまで覚えて無いか、足が冷たいってピーピーうるさいのなんの、で何で俺が手で暖めないといけないんだよ 皆も冷たいのに、俺に迄視線が厳しいの何の 親父にも怒られたけど、まあ今となっては、放っておけなかったんだろうな、それは今もなんだろうけど、でもこの雰囲気ならもう一人でも賢く生きていけるよね」優しく頬笑む


堂上、ふつふつと思いを巡らしては 

「そう言えば前を通るといつもいたよな、渕上さんの茶房さ、入り浸っては、デカプリン頬張って、あんぐりと、多分あれって俺が通るの待ってたんじゃないの、ねえ、聞いても起きないか、まあいいや あの席いつの間にか指定席とかで、俺達の結納にあやかりに来てる人いるとかだぜ 何十年でも恋は叶う席とか勝手に謳い文句付けて、渕上さんの茶房もえぐいよな」声を出しては苦笑


堂上、ただ逡巡 

「そう結納だよ、あの時の重たい空気なんだったんだろうな、まあ栄子の妹出て行って、門前で声張ってたけど、何言ってたの、ここいつも栄子はぐらかすよね まあ義妹に聞けば分かる事か、それも何れ挨拶がてら聞くよ でもさ、栄子の妹って変わってるよな、昔から俺に瞳くりくりさせて懐いてくるんだもんな、俺本当の兄貴かよって言う位 それに張り合っったんでしょう、高校生のくせに一張羅で着飾り百人お茶会しようだなんて、皆栄子の着飾ったロココ調のドレスに目を剥いててたけど、そりゃ浮くよ、高笑いかよ、家宝の扇子扇いではお前フランス人かよ、何食わぬ顔で最後迄通し抜いてどうかしてるよな 確か、それ怒られたんだっけお父さんとお母さんに、こんなバカ騒ぎにホテルの大広間貸した訳では無いって、勝手にお客様のお洋服着るなって、それも凄いよなどんなお客さん抱えているんだよ、舞鶴睡蓮ホテルさ まあ3日の謹慎だったかな、学校には風邪って言ってたけど、うちの弟曰くもうバレバレだったてさ、ああそうだよ、その年の京都十大事件として洛陽新聞に載ったよな、そうそれ、俺達迄そんな目で見られてどうするんだよ、平安の人皆くすくす止まらなかったってさ」苦い顔で


堂上、次から次へと思い出が溢れ、愛おしむ様に

「ああ京都か、高校の時の夏、不意に真夏の狐の嫁入り、覚えてるかな 逃げる様に渕上さんの茶房に飛び込んだけど、生憎傘出払ってるとかでさ、今考えたらそんな訳ないよな まあいいや、稽古の時間に間に合いそうもないって困ってた時に、栄子寝そべってる所ガバッと起きてさ、送って行くって聞かなかったもんな いつものお迎えの車に待たせたらマズいって俺怒られるって断ったのに家迄送っていくって頑として聞かなかったもんな いや待てよ、そのお迎えの車で家に送れば良かっただろ、そうだろう ふう、まあいいや あの時の事鮮明に覚えてるんだよね いつもより無口で、何で捲し立てないのとか思ったえば、何か視線が合っては不思議な感じで、このまま延々時間流れてもいいかなと思ったり 今思えば、あの空気、あの顔、あの瞳、恋に落ちる瞬間なんだろうな そう家に着いてあの最後の手の振り方、いつも栄子と違うよね ふっつ今更か、照れ臭いよ、成る程ね自分でも知らない内に封印してたかな あの頃から、こんな俺を必要としてくれるんだな、そりゃ頑として俺の後を着いて来るか」


不意に寝返る、米上


堂上、近付き、米上のロングカーリーに手櫛

「本当に眠ってるんだな そう眠ってるから言うけど、そっちの勝爺が、臨終間際になんて言ったと思う 栄子が駄目なら、充子いいぞ、艶っぽいぞだってさ ふう、出来る訳無いでしょう栄子の妹、いや弟の恋人をさ それでさ返事に窮してつい言っちゃたよ、栄子でいいですって 究極の選択過ぎるだろ、それで笑顔で往生だよ、勝爺何安心しちゃったの、まだまだ妹の方も見届けてから往生するんでしょう、栄子、どれだけ勝爺に心配させてるんだよ それだよ、それからが米上家の延々詮議だよ、貴様何言ったって、言葉で止めを刺すってどういう了見だって、米上家の人達に詰め寄られたけど言えないよな、まさに一触即発、まあ渕上さん登場しなければどうなってたやら、渕上さんの翳した和紙が見る見る“栄子でいいです”と埋まって、皆卒倒したよな、辛うじて渕上さんと一緒に逃げ失せたものの、栄子追いかけて来て、ありがとうって叫んだよね えーと、これって、俺がプロポーズした事になるのかな、そこか ああ、でも勝爺に義理は果たしたし、こっちはセーフ、そう思うでしょう、そう義理は果たしたよ」こくりと頷く


堂上、不意に綻ぶ

「あと結婚式か、結納交わしたっきりで長らくそのままだったよな ネーデルラント連邦開国宣言した後に、何故か天上さん休暇くれてさ、手持ち無沙汰にしてたら、栄子から北米行きのチケット貰って付いていったら、あの小高い丘の教会、バージニア州のヨハネス教会にいたよな、えーと、長い黒髪の小顔の若いお姉さん、そう茅野さん 上京聖教徒大学出身とかで、京都の俺等の事何でも知ってるの何の、さすがにたじたじだよ しかし何でだろ、何でその勢いのまま、おい待った、何でそこで結婚式上げたんだ 茅野さんに泣かれたんだっけ、お二人のハッピーエンドが見たいんですとか、今なら婚約指輪が有りますとか、私のお手製のウェディングドレス5着選べますとか、閑散期なので結婚式無料ですとか、それ凄腕のブライダル営業だろとか まあ栄子がすっかりその気になって、日本人誰も見てないしちょっと試しに真似事してみないとか、実は家族代々の結婚指輪あるのとか、いやー普通持ち歩くかねそんなの まあ俺も一回くらい結婚式の雰囲気味わいたいなって気持ちで軽く真似事に付き合ったら、茅野さんがっつり進行して、何かおかしいと思ったら、茅野さん最後に私は司祭ですよだって、もう取消は出来ませんって、抜かったよ女性の司祭さんって新世紀以降、ローマ参画政府に認められたんだよね、これ知ってたよね栄子、何で隠すかな まあ今更なんだけど、あの瞬間心弾んだし、まあいいかなとか」くしゃりと


堂上、一際感慨深く

「そうだね バージニア州のヨハネス教会、もう一回行きたかったかな 丘の上の白い漆喰の教会、あの陽気な歓声とか、バンジョーの演奏とか、ひまわりのコサージュのウェディングドレスとか でもきっと思い出すよ、多分死んじゃう前とかさ ふっつ縁起悪いかな」立ち上がっては、米上の顔を覗き込む

堂上、不思議顔で 

「そう栄子さ、本当は起きてるとかじゃないの ねえ、聞こえないか、ねえ、ひまわりのコサージュのウェディングドレス姿、最高に綺麗でしたよ」米上の両頬に両手を添える、

堂上、頬笑む

「やれ、本当に熟睡か」


堂上、堂々と身支度を整え、徐に鞄から机の上に、2通の手紙とループタイカメラをことりと置く

「それじゃ、行くよ これだけ言って起きないのも、どうかしてるけどね」微笑



ラグジュアリールームフロア廊下、1203号室前 

堂上、美久里の部屋の前にて、ドアの下の隙間からゆっくり封筒を通そうとするも、”カチャリ”恐る恐るドアが開く

堂上、不意に

「あっつ、開いた、」

美久里、不思議顔で

「えっつ、堂上さん、皆さん心配していたのですよ ええ、ああ、それより、堂上さんが生きてるって事は、うっつ」瞳が潤む

堂上、微笑

「ああ、宮武ね、大丈夫生きてるよ、しかも五体満足、今頃疲れて眠ってる頃だね」

美久里、崩れ落ちる様にへたり込む

「良かった、ありがとう堂上さん」

堂上、屈み込み美久里を見つめる

「やはり、心配で眠れなかったかな」

美久里、破顔

「いえいえ、それは、私は長い習慣で眠る時間が極端に遅いだけです 不意に物音がしたので、ドアを開けたら堂上さんだったので驚きました 私に何か御用なんですよ」

堂上、手にした封筒を美久里に差し出す

「これ、八反さんから レニーワイナリーの招待状だって、いつでもお越し下さいだってさ」頭を掻いては「行くなら、早い方がいいかな」

美久里、察しては

「宮武さん、旅立たれるのですか」

堂上、真顔に戻っては

「朝には、もういないと思うけど、菜穂子なら美久里さんだけにひょっとしたら教えてくれるかも」

美久里、不意に

「それ、ちょっと寂しいかな」

堂上、思いも深く

「会えなくても、宮武の思い出は残っている筈だから、部屋を片付けられる前に早く行ったほうがいいよ」

美久里、頬を拭い破顔

「そうします、私思い出だけで、白御飯3杯は行けますからね」

堂上、頬が緩む

「大丈夫、いつになるか分からないけど、きっと俺が宮武連れて美久里さんの所に行くから、心配しないで」肩をぽんと叩く

美久里、堂上の手を取り咽び泣く

「堂上さん、ありがとう、」廊下に響く涙声



ラグジュアリールームフロア廊下、進む堂上の前に、1207号室前で佇む男 

廊下に、憮然と立つ男、島上

「行くのか、」

堂上、立ち止まり

「ええ」

島上、従容と

「やはり、尾を切られると験が悪いんだな」

堂上、くすりと

「ひょっとして止めますか」

島上、淡々と

「いや、武士に例外無しだ、伸びたら戻って来い」

堂上、ただ道化ては

「そうだなー、その間に他の女性とくっ付いていたら、どうしよう そう、あれからドキッとした和服の日本人女性に会いましたよ、早乙女さんって人 いやね、やたら品があって緊張しちゃいましたけど、早乙女さんってどこかの偉い人じゃないかな、結構タイプ、まあワインの効果有りでのそれですけどね」

島上、苦笑

「ふん早乙女か、まあ、その時は仕方ないだろう、絶対米上には内緒だからな」

堂上、頬笑む

「普通ここ止めますよね、島上さんも米上の嘆願書に名前書きましたよね」

島上、見据えては

「お前の人生は、もう決まってる、あとは信じるだけだ」

堂上、目を剥く

「すげ、真面目」

島上、事も無げに

「そこは敬虔だ もう行け、保科さんが気を利かせて車を回してくれてる 極上の美人の顔覚えてるくらいだから、どうせワイン一杯に抑えてるんだろ、全米連邦の法律ならセーフだ、ほら」車のキーを渡す

堂上、車のキーを恭しく受け取っては

「島上さん、また、いつか」

島上、堂上を指差しては

「または余計だ、そう、生きて帰って来いよ」

堂上と島上のハイタッチの音が廊下に響き渡る

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