第20話 2087年9月21日 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 インテグレートテクノロジーファクトリー

モニュメント競技場を望むインテグレートテクノロジーファクトリー 偽装と思しき義体工場には工員が通すまじとバリケード 睨み合う北浜始め一同と州警察


北浜、切に

「おい、通してくれよ、全米入植準備局の捜査権限だってあるんだ」全米入植準備局のIDカードを何度も示す

工員達、声を荒げては

「俺等が不法就労してるって言うのかよ」

「北米でもこうするのかよ」

「南米嘗めるな!」

北浜、州警察の刑事達に詰め寄る

「おい、何時迄も見合ってないで、何か言えよ」

刑事、憮然と

「捜査令状が間に合ってないんだ、署長からはただ付き添ってろとの厳命だ」

北浜、吐き捨てては

「まさかここまでとはな、州裁判所に本当に令状申請したのかよ」

刑事、怒りも露わに

「北浜、チリ州警察嘗めるなよ」

北浜、食い下がる

「俺が黒だって言ってるのに、見てるだけかよ」

刑事、尚も

「分かってる、だからお前が何とかしろ」

北浜、けんもほろろに

「見て見ぬふりか」


阿南、遠目で

「この工員の数、数百名か、意外とシンパいるな」

花彩、不意に

「ジリ貧の工場がここまで人夫雇いますかね、この時点で真っ黒ですよ」

島上、只見渡し

「そう黒な、大方煽ってるだけだろ、何をしてるかさえも知らんだろ」

渕上、懐に手を伸ばそうと

「ちょいと、皆さん眠らせましょうか」

島上、慌てては

「やめとけ、こっちにも耐性無い人がいるだろう」

堂上、ただ眺めては

「このまま睨み合いかよ、広瀬さんに情報流すか」

米上、腕組みのまま進み出る

「今更でしょう、私が行くわ、口では負けないわよ」

島上、制する様に

「いいって、ここは全米だ、北浜に任せろ」

美久里、趨勢を伺う

「うーん、北浜さんは頑張る人なんですけどね」

花彩、進み出る

「それでは私も頑張りましょう」

美久里、慌てては押し止めようと

「ちょっと、花彩さん」

渕上、美久里を制して

「ここは、ポンとで宜しいですよって」


北浜、ただ切に

「だから、内部監査だ、そんな物騒な物作ってるのかよ、何だよ」

チリ人の工場長

「我々の義体によって、全米は恙無く暮らしてしてるんだろ、全米連邦だって大幅に障害年金削減出来ているのに、その言い分はなんだ」

北浜、何度も

「だからな、全米に納品している義体じゃなく、他に卸している違法義体も作ってるんだろ、それを見せろって」

工場長、うざがっては

「知るか、我々は忙しいんだ、帰れ、」

花彩、州警察刑事達を掻き分け、毅然と

「北浜さん失礼しますね 工場長さん、事前に全米連邦の衛生局に行きカルテを見させて頂きました、ここで作られているであろう違法義体の製造番号で拒絶反応を起こされた方が少なく有りません、一掃する為にもプログラムを拝見させて下さい 放っておけば違法義体対象者が電子圧で不眠になりますよ」

工場長、烈火の如く

「何を言う、プログラムは完璧だ、」

北浜、あんぐりと

「吐くのかよ、ああ」

花彩、尚も

「キールOSは優秀でしょうが、古いヴァージョンですよ」

北浜、目を見張り

「詳しいな花彩さん、」

花彩、綻ぶ

「ラテラノ大学の保健は必修科目です」

工場長、わなわなと

「おおお、小娘にプログラムなんて分かるか、儂がとことんデバッグしたんだぞ、その苦労が分かってたまるか、」

花彩、凛と

「分かるも何も、神経接続プログラムが出鱈目です、無理矢理違法義体に神経パルスを合わさせようなんて本末転倒です、なけなしのお金払う価値などありません」

工場長、吐き捨てる様に

「限りなく、仕様書に準拠している、これがあるから工場で生産も可能だ、知ったかぶりするな」

北浜、身を乗り出しては

「だから違法義体を自慢するな、まずその証拠を見せろと言ってるんだよ」

花彩、淡々と

「特別仕立てと思わしげな回路は認可の回路と似通っていますが、こんな違法義体の正体を知ったら、誰も買いませんよ」

工場長、歯噛みする

「今日は回路図の入ったパソコンの管理者が出張している、話はまた今度だ、いいから帰れ」

渕上、毅然と

「それでしたら、尚更査察ですな、義体製造には神経接続プログラム1級者が常駐しないといけませんよって」

北浜、悠然と前に進む

「これで分かったな、だから査察なんだよ、入るぞ」

工場長、頻りに手を振っては

「誰が通すか、おい警備通すな」

進み出る、体格の整った東洋系の警備員3人、徐に上半身の服を脱いでいくと、義体の両腕の筋肉板が反り返り膨らむ

花彩、見据えては

「見聞するに、麦秋海軍の義体の違法コピーですね パワーアップで過負荷が掛かると、違法コピーなら反りが割れるはずです 堂上さんを呼びましょう」

北浜、悠然と前に進み出て

「いや任せろ、麦秋海軍なら演習で立ち会った事がある おら、来いよ」手招きしては挑発

警備員3人の筋肉板が一気に膨らみ、北浜へ飛びかかる

「オオオー」

北浜、次々警備員3人の手の甲を掴んではマーシャルアーツの四方投げ、力の行き場を失った義体両碗が豪快にひび割れてはスパーク、神経パルスが逆流しては只管翻筋斗打って失神

「こんなもんだ、」

島上、呆れ果てては

「北浜さ、違法義体だからこれだけど 軍用だったら仕掛け絶対あるからな、気をつけろ」

北浜、ドヤ顔で

「大丈夫だ、組み手で何度か感電して失神してる」

阿南、苦笑しては

「本当に大丈夫かよ、タフもいい加減にしろよ」


ざわめき始める工員達


前に進む、島上

「おい、誰が煽動してるか顔覚えたぞ、横に出ろ西欧人」手を寄せては

一目散に逃げる幹部社員と思しき社員等

渕上、溜息混じりに

「ほな、逃げましたな」

島上、唾棄しては

「ほっとけ、仕事がやりやすくなる」声を一際上げては「残ったお前等、よく聞け、ここの違法工場のいいなりになって働いたら、えらい事になるぞ、隠れて何を作ってるか分かるか、ナノマシーンによる神経毒だ、これが散蒔かれたらどうする、チリ州の信用ががた落ちになって、一気に関係の無い工場も臨検入って閉鎖されるぞ、いいか黙って道を開けろ」

固まって動けない工員達

花彩、止めを刺す様に 

「島上さん、その神経毒で、31人も死んでますよ」

工員達、一斉に怯んでは道が開く


工場内を巡視する一同 正規の義体は僅かで、違法義体のラインが圧倒的に占める そして残された地下施設への入口


閉鎖された地下施設 鉄の施錠扉の前で立ち止まる一行

工場長、立ち止まる

「ここしかないぞナノマシーン設備と思われるのは 俺の権限でも、この先には入れない 研究員はさっきの騒ぎで何処かに逃げたし、もう諦める事だ」

島上、不意に

「堂上、やれ」

堂上するりと抜刀、一手二手三手で鉄の扉を、紙の如く斬り裂く

「普通か、」

渕上、目を丸くし

「阿呆違います、溝端が罠仕掛けてたらどうするんですか」

島上、ドアを蹴飛ばしては思いっきり開く

「心配するな、ここからが奴のうんざりさせるところだ」

近代施設の廊下には幾つものアナログツマミ各所に並ぶ

阿南、目眩がちに

「待てよ、このダイヤル全部正解じゃないと、どうなるんだ」

花彩、事も無げに

「間違いなく工場がドカンですね ああ、それとこの部屋に入った以上、何もせずに出たらも工場がドカンの筈です」

米上、声を荒げ

「ちょっと島上さん、何、旦那に刻ませたのよ、死ぬのよ私達、ねえ」

美久里、耳をそばだて

「皆さん、このパルス音何でしょう」

花彩、淡々と

「クロック数ですね、既に20秒越えました 溝端さんの事ですから、恐怖心増す為に多分600秒で設定している筈ですね、優しいですね 解除かこの間に証拠押収して強行突破するかですが、どちらも仕掛けが有る筈です 素直に解除しましょうか」

一同、後ずさりしては

北浜、唇が青ざめ

「おいおいおい、溝端って、本当にやばい奴か」

渕上、微笑

「そら、たがが外れてますよって、常識通用しません 花彩さん、手っ取り早く解除しなはれ」

花彩、鞄から簡易工具一式取り出しては、道なりのカーペットを一気に剥がすと、現れ出るナノ配線の海原

「さて皆さん、歩かなくて良かったですね、何処から切りましょうかね」

一同、目を見張り

島上、わなわなと

「これって、正解あるのか」

花彩、嬉々と

「もちろんです」次から次へナノ配線を絶縁ハサミで切り込む

一同、絶叫

「うわーー」

美久里、只一人

「ひょっとして、この印刷数字って掛け算、解は頭の桁なの」

花彩、飄々と鞄から電卓取り出し叩いては

「ええ、この先電卓使ってる暇も無いですよ 美久里さん、銀行員ならどこまで暗算いけます」

美久里、じわりと

「京までなら、すんなり」

花彩、破顔

「助かりました、60秒は足が出てましたよ」

北浜、首を何度も振るう

「すげえよ、この面子、なんだよ」

阿南、悶絶

「花彩さん待った、死んだのですか、死んでたのですか」

花彩、美久里の読み上げる数字を元に、尚も配線を切り込む

「改めて、皆さん心強いですね ここで強引に逃げて工場吹っ飛んだら、中途半端な証拠しか集められず隠滅ですからね、溝端さん張り切りもしましょう」

渕上、流石にまなじりが上がる

「勿論ですよって、ふふ、ここで溝端がビビらして私等追い散らすなんて織り込み済みですよ」


パルス音、クロック数が561秒でやっと鳴り止む

一斉に肩の荷が降りるかのような一同


厚いドアを押し開き地下ナノマシーン設備制圧、正面の壁にはハーケンクローツの旗が掲げられたまま

美久里、吐き捨てる様に

「まさに悪党の工場ですね」

島上、吐き捨てては

「ここまで堂々としてるとは、恐れ入るよ」

堂上、腕組みしては

「でも、ちょっとやばくないです」

北浜、揚々とハーケンクローツの旗をガバッと引き摺り下ろし

「全く、全米連邦が第三帝国匿ってみたいじゃねえかよ」

渕上、見渡し

「ここだけ切り取ったらその通りですよって、さあ査察始めましょうか」


ナノマシーンの小分けにされたプラントタンクを尻目に、査察する一同


花彩、集中管理パソコンと思しきもの見つけては

「おお、PowerMacintosh9500ですよ」

渕上、見入っては

「兎に角立ち上げて下さいな」

花彩、作業机のマウスに触れては画面が立ち上がる

「スリープあっさり解除 OSは定番の汎用キールOS、やはりバージョンが古いですね そして付属ソフトのノバカードで延々分岐指令の基盤作るなんて、安上がりなんですね」

渕上、訝し気に

「花彩さん、ついでに第三帝国の団体名簿無いですか、絶対有る筈だから探して下さいな」

島上、呆れ果てては

「そんなのデータ管理するわけないだろう」

花彩、飄々とファイルを次から次へ開く

「いえいえ、コンピューター持ってしまうと、昔も今も電子化したくなるんですよ、このサムネイル“excellent”、ほーこれですかね、有りましたよ」

島上、覗き込み

「あるのかよ、杜撰だな」

花彩、透かさずファイルをクリック

「おお、まさかのノーパスワード、ここはノーパソコン世代なんですね」

島上、辟易しては

「それで何万人いるんだよ」

花彩、お得意の高速スクロール

「3万人弱のレコードですね」

渕上、逡巡しては

「3万人弱、縁者辿ればそんなところでしょうな、」

花彩、てきぱきとこなしては

「ソートしますね、ふむ9割がチリ州に居住しています」

渕上、頭をもたげ

「結構いますな、でも、今更第三帝国に靡く訳無いでしょう、名簿だけでしょうな」

島上、食い入る様に画面を見つめる

「いや、若い衆もいるか、いくばくかの賃金かで互助会名義で活動してる線もある とにかくここの工員、全員しょっぴくか」

渕上、うんざりと

「ここの工員さん百人はいますで 州警察が一杯になって、家族さん押し掛けデモしてはで、即時開放ですがな そうなったら二度目の捜査令状は躊躇して取れませんな ええ段取りにですな」

島上、盛んに

「その互助会連中が堂々とハーケンクローツ掲げるか、このPowerMacintosh9500が証拠だ、いいからしょっぴけ、北浜呼ぶぞ」

花彩、タブファイルを展開

「ちょっと待って下さいタブを開くと、ドル換算の年間活動資金提供者らしきものが出ます、この同調者含めると構成員が結構な数になりますね」

島上、逡巡しては

「やればやるほど全体像が見えんな、渕上、兎に角この名簿の全容疑者の訴追状だせ、ローマ参画政府名義なら従うだろ」

渕上、事も無げに

「そこにはお金で靡いた人達もいますよって、罪状問えど知らぬで勾留期間過ぎては開放です、落ち度があれば済し崩しに事が流れますよって、丁寧に幹部さん達仕留めましょう」

島上、尚も

「人が増えるとどこも増長する、付け上がる前に難癖つけるんだよ」

渕上、困り顔で

「大体、ローマ参画政府が別件逮捕など、威信が地に堕ちますよ ハウルは背負うかもしれませんけど、尚更慎重に行くどすよ」


ナノマシーンを生成するプラントタンクを巡視する米上と堂上

堂上、プラントタンクをノックしては大きく響き、落胆

「すでに空か」

米上、次々ノックしては大きく響く

「さぞかし、テスト完了ね 渕上さん達のサンパウロの事務所カチ込みで早速悟った様ね」

堂上、飄々と

「面子足りなかったか、」

米上、淡々と

「いいえ、欧州で31人も密殺したから、時は満ちた筈よ」

堂上、尚もナノマシーンプラントタンクを巡視

「そんな大量虐殺、どこでやるんだよ ん“運動神経活性サプリ”これって」

米上、憮然と

「ああそれね、巧妙化してはオリンピックの度に、ドーピングで引っ掛かるわよ それもこれも優秀選手の遺伝子目当てで、謎のスポンサーが報奨金を右肩上がりにするから、よく売れる訳 全く夢が無いお話よ」

堂上、まんじりともせず

「オリンピックも義体のパラリンピックも、同じ土俵になったのにナノマシーンは駄目かな」

米上、声を荒げ

「駄目よ、違法ナノマシーンによる遺伝子崩壊病解明されてないのに、安易に危険な違法なナノマシーン投入するから、皆最後は寝たっきりよ」

堂上、従容と

「金の為に哀れだな」


堂上と米上の巡視は尚も続く

堂上、殺気を探りながら

「さて、やはり奴がいないな、当てが外れたな」

米上、堂上をチラリ、物腰も柔らかに

「溝端だったら、手っ取り早くまとめて皆殺しでしょうけど、こちらがややオールスターでは、敵わないと思ったのよ ほら旦那強いし」

堂上、従容と

「ここだけの話、このまま溝端出て来ない事を願うよ きっと誰かが死ぬ」

米上、捲し立てる

「何言ってるの絶対死なさないわよ ねえ、旦那が倒さないと誰が溝端倒すの、絶対仕掛けて来るから、皆との連携絶対守ってね」

堂上、微笑

「上家衆4人か、束になって行くしかないな」

米上、堂上の右手を掴んでは

「いい、絶対五体満足で溝端仕留めてね」

堂上、思いを巡らせては

「俺か、」

米上、尚も

「何を今更、ネーデルラント連邦開国前の分離独立維持派の内乱忘れたの、旦那、いい知名度よ」

堂上、思い出しながら

「あれ、天上さんにそそのかされて、一歩間違えれば共倒れだったな あそこからネーデルラント連邦開国なんて信じられないよ」

米上、身震いしては

「アムステルダム戦容赦無かったわね、二度と天上さん渕上さんとは戦いたくないわ」

堂上、嘆息

「結局、あれって新エンジン:ジェネレーションを公開して良かったのかな」

米上、憮然と

「いいのよ、いつまでも石油モーターに頼れないでしょう アリゾナでのトゲトゲトレーラー大爆発忘れたの、あんなのに巻き込まれたくないわよ」



阿南と北浜、中央の赤いプラントタンクを周回しては的を得たり、皆を集める

阿南、凛と

「渕上さん、ドミネーターの培養プラント見つけましたよ、ですが空の様です」プレートの“ドミネーター”を指差す

渕上、無粋にも

「えらい、分かり易いですな」プラントタンクをノックするも、響く音

島上、困り顔で

「それ、どこに持ち出したんだ」

堂上、溜息混じりに

「またトラックの配送票調べるか」

米上、溜息

「ああ、あんなに捲って、また手が荒れるの勘弁してね」

渕上、大仰に

「この禍々しさ、配送票あったとしてもダミーでしょうな」

美久里、拳を固めては

「物騒ですね、これで世界征服なのですか」

花彩、従容と

「いえいえ、ドミネーターはプログラミング次第ですよ」



一同、集中管理パソコンの席に戻っては、ドミネーターの培養プラントのモニターチェック

花彩、プログラムオブジェクトを辿り

「更新ログを探ってこのプラントタンクと、最終仕上げは完了した様ですね、それでこのプログラミングコード諸々はと」PowerMacintosh9500のモニターとにらめっこ「ええ報告通り、交換神経を過剰に刺激して決壊、死に至る仕様のようですね」

渕上、瞠目

「一発で死ぬんと違うのですか」

花彩、立体ファイルを開く

「ドミネーターのこの基盤は、立体ファイルをぐるり見ますとオンライン付きの製作ですからね、毒針仕込める部位は、どこにも無いですね」

島上、感嘆しては

「それって、まだまだ改良出来るって事か、それでも試作品なのかよ」

花彩、思い巡らし

「そうですね、バイオ配線の改良次第で未だ開発出来る部位は有ります、総じて開発ナンバーが若いのはそのせいかな」

北浜、唾棄しては

「逃げた奴いたな、どうするんだよ」

花彩、理路整然と

「逃げたとしても、この規模の工場がないと製作は不可能です、バイオ配線のプリントはとてつもなく時間が掛かりますからね」

島上、慌てながら

「それって踏み込んでも、所詮はここもダミー工場って事か」

渕上、逡巡しては

「さて、意気込んできたもの外れですか、」

花彩、凛と

「そうとも言えません、試作品として完成して納品しているんですよ、今工場の製造シリアルログを精査していますのでお待ち下さい」モニターは高速スクロールで人が視認出来る能力を凌駕する

渕上、花彩の方を撫でながら

「花彩さん、改めてましてですが、そんなん出来るのどすか、早よですよ」

美久里、ただ目を見張る

「この早さ、うそ、信じられない」

渕上、頬笑む

「そうそう、花彩さんはお飾りでは無いですよって」

花彩、空読みで

「殺害された31人のドミネーターの製造シリアルと一致しました、これ証拠になりますか」

渕上、嬉々と

「大いによろしいです、この証拠があればよろしい」

花彩、粛々と

「もう少し踏み込みたいですね、PowerMacを更に参照と、遺伝子学は勉強中なので詳しくは分かりませんが、」更に高速スクロール「議事録が添付されてました これから更に、量産出来るとしたらオンラインの部位をそっくり毒針に替えて時限式にすれば云々と…でもこれ悪魔の所行ですね」

美久里、果敢にも

「相手は第三帝国、今に始まった事ではないわ」

花彩、頷き

「そう、試作品の段階ですでにオンライン操作による神経毒と言える虐殺ナノマシーン:ドミネーターです、確かにハリガネムシそのものですね 後はオンライン操作の無効化プログラムをナノマシーンカウンターにプリントでしょうか」

渕上、小躍りしては

「正しく、それですがな、優秀ですな花彩さん」

島上、呆れては

「渋ってたのに、よく言うよ」

渕上、島上を叩く

「内緒話話さんでよろしい」

北浜、刮目しては

「おいおい、本当にそんなのに脳奪われるのかよ」

渕上、淡々と

「突然身悶えては敢え無く昇天のようですな」

阿南、目を見張り

「また、ホロコーストとインドパキスタン戦争に続く、悪夢か」

美久里、拳も固く

「絶対、阻止します、なんとしてもです」

花彩、ぽつりと

「でも、プロジェクト進行表搔い摘みますと計画が行き詰まってますから、そんなに数は無いですよ、1ロット1000個だけです」

渕上、目を覆う

「だけって、それでも結構な数ですな」

阿南、思案顔で

「1ロットでその数なら資金調達に問題ですかね」

美久里、毅然と

「ナノマシーンのオンライン部位はプリンシバルマシナリーの特許独占で高いですからね、不法入手ともなればとてつもない金額5億ドル相当、そこで違法義体の儲け注ぎ込みましたか」

渕上、感嘆しては

「銀行員さんには勿体ない知識どすよ」

美久里、笑顔を取り繕う

「たまたま銀行にある計画書を読んだまでです」

米上、憮然と

「いいえ、そもそもプリンシバルマシナリーのプロテクトがそう簡単に外れるのかしら」

花彩、尚も高速スクロールのモニターに釘付け

「そこですよ米上さん、プリンシバルマシナリーを使用せず、そのオンライン部を研究している技術者から博士までの改良設計図を掻き集めてたようですね、人の体を乗っ取りうる結構な配線図の量は500MBも占領、そして全ファイル開いてはと、ふう終りました、タグ無いから一枚一枚確認でしたよ」

阿南、透かさず

「なるほど、資金調達ではなく、本当の試作品故の1ロット1000個か」只唸る

米上、さすがに目をしばたく

「花彩さん、その動体視力、完全驚異だわ」

島上、くすりと

「米上、ファンになるの遅いだろ」

渕上、我が事の様に

「最後尾の馴染みさん程、目が肥えてるものですよって」

島上、苦笑混じりに

「渕上は何を言っても被せるな」

渕上、顎を上げ

「ここで乗るのが定石ですよって」


花彩、尚も高速スクロールで配送票を捲り上げる

「そして、この凶悪なドミネーター試作品のシリアル1000個の配送票なんですが…」

島上、何度も柴田気

「まだ続くのかよ、その捲り方、こっちが目眩しそうだ」

花彩、高速スクロールをはたと止める

「はい、かろうじてチリ州ですね」

渕上、歩み寄っては

「花彩さん、本当に他国に流れていないのですか」

島上、押し止めては

「そんな訳あるか、小さいから、後は人の手で流れた筈だ」

渕上、嘆息

「そうでしょうな ハウルが含んでましたから、幾重にも渡っては31人の粛正、そんなところでしょうな」

阿南、ぼやいては

「すでに流通経路有りか、恐怖だな、水も飲みたくないよ」

堂上、不意に

「公共施設に散蒔いて、何の得があるんだよ、オンライン出来ないと意味無いんでしょう」

花彩、得心しては

「堂上さんの仰る通りです、端末が行き届かないと無差別殺人は不可能です」

美久里、鞄からiParentを取り出し

「ねえ花彩さん、駄目元でオンライン部位の国際広域特許番号教えて貰える」

花彩、空読みで

「確かに有りましたね国際広域特許番号、イングランドですかね、IL22457812です」

美久里、素早くフリック

「IL22457812、iParentで検索したけど、あるわね 用途は違えどこの権利かの帰属問題で、きっと第三帝国と拗れたのね」

渕上、溜息混じりに

「賢すぎるお人ばかりで、なんやスコットランドヤードがアホみたいどすな」

島上、思いを巡らし

「ハウルが絡んでるんだぞ、何かある」

渕上、淡々と

「それもそうですな いや兎に角、31人の密殺事件はこれで調書も進みます」

美久里、iParentの液晶画面をスクロールしては

「でもこの用途、これだとホーム端末からの範囲は半径100mですよ」

花彩、目を見張る

「ふむふむ、凄いアプリ使えるんですね、見せて下さい」

美久里、画面を見せる

「どうぞ」

花彩、iParentの液晶画面に触れスクロール

「おお確かに一番の出来と思われるオンライン部位です オンラインは半径100m、簡易検査用としての申請ですね、しかもホーム端末無いとまるで意味が無いです」

渕上、溜飲が下がる

「世界征服は程遠いですな 1ロット1000個回収出来ないものの、無効である事は証明できました、あとはナノマシーンカウンターへの受信不可のプリントですな」

島上、安堵の溜息

「辛うじて防いでるか」

渕上、尚も

「ですが十分はったりには使えますな このドミネーターが体に入ってるかなんて、ナノマシーン服用検査試薬使わないと分かりませんよって」

島上、訝し気に

「俺等はナノマシーンカウンター服用してるから大丈夫だろ、まあそのせいで風邪薬も効かんそうだが」

渕上、頭をもたげては

「でも、何か引っ掛かりますな」

堂上、重い腰を上げ

「さて、世界征服の野望をどう絶やすか、第三帝国はどこにいる」

米上、ぴしゃりと

「それは軍隊の仕事よ、深く関わらないで」

渕上、捲し立てる

「堂上さんの心意気は分かりますが、第三帝国しばくのは誰のミッションでもあらしまへん と、その前に物騒ですな」人知れず地下全プラントの主電源を切る

地下ナノマシーンプラントタンクの全モーター音が一斉に止む

美久里、驚愕

「えっつ、何故電源落とすんか」

島上、押し止める様に

「おい、証拠全部消すなよ、報告書どうするんだよ」

渕上、尚も

「ハウルの指示は”胴元を探し出しドミネーターの破棄” 本来なら施設の爆破ですが、この工場は溝端によって爆弾まみれですから、近隣踏まえて、それもようよう出来もしませんな」

花彩、不意に

「報告書は大丈夫ですよ、プログラミングが残っていますから、それで十分です」ハブリーダーからSDカードを引き抜く

堂上、不意に

「この残った証拠、全部が罠じゃないの、」


我に返り静まる一同


米上、腰に手を当て何度も首を振る

「それは無いわね、溝端の思惑に完全に乗ってるわ 奴は悠々自適に、慌てる私達を見て笑い転げてる筈よ」

島上、尚も

「溝端な、今捕まえても証拠不十分だ、プラントタンクも電源切ったし、どうする」

渕上、笑いを挟み

「島上さん、なんなら、この赤いプラントタンクに飛び込んで、まだ生きてるの捕まえたらよろしい」

島上、大手に振っては

「だれがするか」

渕上、安堵の溜息

「これで第三帝国が胴元とはっきりしましたし、オンライン指示を阻止出来るナノマシーンカウンターを作成すれば、こちらの重要案件は一先ず完了と 後は、やはり懸念の溝端です、のさばらせる訳にはいきませんな」

阿南、食い下がる

「いやいや、他の工場にプラントタンクあったらどうするんです」

花彩、立ち上がり

「その可能性は低いですね、ここの地下プラントタンクで手が一杯ですよ、常温管理維持に人手を持っていかれますからね 阿南さんが頑張る事も有りません」

阿南、尚も

「いやこの地下で働いていた奴らが逃げています、捕まえないとまた事件が起きますよ」

「阿南、捜索は全米連邦FBI案件だ、絶対捕まえさせる」

花彩、モニターを一瞥

「プラントの管理者名も残っています、北浜さん後程プロフィールをプリントアウトしますね」

島上、赤いプラントタンクを見据える

「全く毎日こんなのと向き合って、朝礼の挨拶に立ち会いたいぜ」

渕上、赤いプラントタンクを一瞥

「私は結構ですよって さぞかし高邁な思想とやらにいかれ、罪の意識は無いですよって」



州警察も漸く動く 違法義体工場をぐるりと警戒線が張られ、工員達も事情聴取の為のマイクロバスに乗せられる

何事かと、押っ取り刀で駆け付けるマスコミもちらほらと


屋外に出てきた一同

米上、見据えては

「さて、報道屋さんもちらほら、渕上さんどうしましょうか」

渕上、事も無げに

「もちろん素通りですよって」

島上、苦い顔で

「ああ、こんなの大ぴらに出来るか、早く出るぞ 米上、マスコミにきつく言っとけ、絶対報道管制絶対敷けよ」

米上、陽気に

「了解、皆私の事好きみたいだから、どうにかしちゃうわよ」

堂上、くすりと

「ニューヨーク・メディアズに怒鳴り込んで、半日居座って編集長泣かせた件、皆に伝わってるからだろ」

米上、怒りも露わに

「私達のゲラの半分が想像記事だもの、旦那腑抜け扱いしたら、そりゃ怒るわよ」

花彩、くすりと

「夫婦円満なんですね」

米上、一気に破顔

「あらー、やっぱり分かるのね、嬉しいわ」花彩の手を取り小躍り

堂上、不意に

「渕上さん、逆に記事にしないから、第三帝国刺激しないかな」

渕上、まなじりを下げては

「堂上さん、ここまで来たらどう転んでも何事も有りは有りですな ですが記事にされては生意気にも第三帝国復活の威厳を保つ事になります、第三帝国復活の狼煙が豪快に上がっては、利権を求めてやんちゃが靡きますよって」

阿南、割込む様に

「尚更、公になる前に第三帝国を潰すまでですよ、渕上さん ローマ参画政府は詰めが甘くないですか」

渕上、果敢にも

「ハウルは、溝端までが含みです 第三帝国即刻潰滅など、何夢見てるのですか阿南さん、足元見ましょう」

堂上、不意に

「いや、このチリ州で切先を制すれば、第三帝国を沈黙させれます」

阿南、堂上を激しくハグ

「堂上、」

渕上、呆れ果てては

「さて、堂上さんは突撃戦はお手の物ですからね」

島上、思い倦ねては

「次の一手が分かれ目だな」

渕上、困り顔で

「えらい成り行きになりましたな」

北浜、憮然と

「ローマはここまで呑気ですか、この様子なら次の恫喝もありますよ」

渕上、にべもなく

「北浜はん、責付いても何もでまへんよ」

美久里、意を決し

「そうですね、それも有りますね」iParentを掲げ通話開始「専務、お時間よろしいですか」

花彩、ときめいては

「おお、本当の本当の、スマートフォン、電話してますよ、こんな所で巡り会えるとは、ここまで来ると大昔の有り難みを感じ得ないです」

美久里、iParentの通話口を塞いでは頬笑み

「そんな大層ね その昔、両親から買ってもらった大切なものです」再び「専務続けます、チリ州内の大口小口取引で怪しいバンクネットワークは口座の洗い直しお願いします …忙しいから無理、そうですか、その即答誠意が全く見受けられません、子供みたいな嘘は止めて頂けますか、…帰って来きて下さい、いいえ!この件が終る迄帰れません、これは一橋銀行の命運が掛かっています、おやりなさい」ピシャリと通話を切る

阿南、慌てふためき

「美久里さん、勢い余って上司に啖呵切るのはまずいですよ、謝りましょう、私が代わりに謝ります、さあ」

美久里、頬笑み諭す様に

「阿南さん、専務も私の気性分かっていますから、何も問題有りませんよ」

阿南、尚も

「いや、しかし美久里さん、銀行員がこんな沢山休みを取っていいのですか、もうかれこれ一ヶ月ですよ、そこの経緯も私から説明しますので、是非通話お願いします」

美久里、微笑

「そこはご心配無く、一生分の有給は沢山有りますよ」

渕上、破顔

「ほんま個気味良いお姉さんですな 阿南さん、美久里さんの齢は無粋ですよ、ここまでにしましょう」

阿南、困惑しては

「おお、そこか」

美久里、意を決し

「さて、準備は整いました、乗り込みますよ」

北浜、微笑

「美久里さん、次は何処ですか」

美久里、毅然と

「勿論州知事庁舎です、この勢いのまま殴り込みです」

渕上、口を結ぶも

「えらい気っ風がいいですな」

阿南、制する様に

「美久里さん、ブットである証拠も無いまま乗り込んでも、足は出ませんよ」

北浜、間に入っては

「阿南、ここは勢いなんだよ、美久里さんの尋常じゃない佇まい感じろよ」

美久里、微笑

「えへ、力みすぎましたかね」

渕上、くすりと

「美久里さん、無理に崩さんと、正直がよろしいですよ それにどうでしょうな、ここは反応見る為にも日を改めては乗り込みましょう、朝一の怒鳴り込みなら州知事も会わざる得ないでしょうによって」

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