第21話 2087年9月23日 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 中央市場

調査の裏付けも一段落し、気分転換と遅い昼食に中央市場に流れる一同


中央テラスで昼食を終えた渕上島上花彩の席に、和服羽織の男女が歩み寄る

渕上、不意に身構える

「これはこれは大和さん、珍しい所で合いますな」

早乙女さおとめ、襟足を整え、白で揃えた和服羽織と紅の帯も鮮やかに

「渕上さん、少々騒ぎ過ぎではありませんか」

忍足おしたり、ソバージュに藍の着流しに黒の羽織で

「そうそう、こちらの入植案件が滞りますよ、何とかなりませんかね」

渕上、苦笑混じりに

「手代が張り切って口出しますか、このチリ州の実情知ってて、それですかいな」

島上、顔を背ける

「ここに来て、こいつらか、」

早乙女、凛と

「こちらは誠心誠意、正しい仕事先はちゃんと教えてますよ」

渕上、空いてる席に二人を促しては

「まあ座りなはれ しかし番頭さんともなると、毎度仕事に張りも出ますな」

花彩、まじまじと

「渕上さん誰ですか、この方々、お味方と拝見しますが」

早乙女、綻んでは

「さては、あの花彩さんね、そう敵ではありませんよ」

渕上、見据えては

「ふん、よくも、商売敵ですがな この早乙女さんと忍足さん、大和のまほろば相談所の方で、サイドビジネスがやたらとお盛んですがな」

忍足、思い出し笑い

「ワンコさんにとやかく言われくないですな」

早乙女、忍足の掌をぴしゃり

「それ言っちゃだめよ」

花彩、不思議顔で

「何です、ワンコさんって」

渕上、鼻息も荒く

「ふん、、」

早乙女、必死も堪えるも口元隠せず

「花彩さん、渕上さんね、うちらの総代に挨拶した時、思わずお手してしまったんですよ」

渕上、わなわなと

「飛鳥さんには、無理も無いでしょう、皆そうですよ」思わず机を叩く「そう、あんたらも嗅ぎ回ってはワンコに違いないでしょう」

早乙女、毅然と

「こちらは政策ですよ、入植も増えれば第三帝国も黙りましょう」

忍足、ぐさりと

「そうそう、万が一でも州知事公舎に怒鳴り込みは無しですよ、今は渕上さん等と同じ日本人に思われたくないんですよ」

渕上、口角が上がる

「しょうもうない、花彩さん、堂上さん米上さん呼んで来なさい」

花彩、一目散に市場を駆けようと

「はい、」

島上、腕組みを解き

「やるのか、」

渕上、早乙女を見据える

「技の繰り合いでは、五分ですよって」

早乙女、余裕の笑み

「渕上さん、勝てないわよ、私達に」

忍足、苦笑混じりに

「京都さんは、合わせ技しませんからな、一人でその高みに登りつめられるのは何人もいないでしょう」

渕上、吐き捨てる様に

「小賢しいですな、忍足さん、お気遣いの高説は入りませんで」

島上、制する様に

「おい怒らすな、こいつらの特性はまずいぞ」

渕上、怒りも露わに

「そうですな、時間を減速させては、動きを鈍くします、おかげでおでんも食えませんでしたわ」

早乙女、笑みを隠す様に

「かれこれ20年も前の話ね、早々にネタばらしは良く無いわ、あの時はたった三日じゃない」

忍足、口角が上がる

「ネタバレ違いますけど、今日は自分もいますから、固い物は切れませんよ」

島上、はっとしては

「渕上、ちょっと待てよ、堂上と米上を撒き餌にするつもりか、」

渕上、聞かぬ振りも

「ここで勝たんと、最後の最後でやられますよって」

早乙女、口角が上がる

「よく分かってるのね」

忍足、印を結ぶ素振り

「さて、仕掛けますか」

早乙女、余裕の笑み

「忍足さん、撒き餌が揃ってからにしましょう」


緊迫する空気に触れたか、白いソフト帽の男が席へ歩み寄って来る

飄々と白いソフト帽の男、京塚きょうづか

「よう、この重々しい空気何だ へー誰かと思えば、京都に大和じゃないか メンチカツ食うか、油が安いけどな」メンチカツの入った紙袋を開けて、見せつける

渕上、うんざり気味に

「丹波さん方まで、何をしてはるんですか、次から次へと無法地帯ですか、それと安っい油なら結構どす」

早乙女、微笑

「京塚さん、いいワイン出すお店知ってますよ、ここ終ったらいきましょうね」

忍足、飄々と

「白身魚のフライもいけますよ」

京塚、ほくそ笑んでは

「いいねいいね、それで渕上倒しちゃえばいいの」

渕上、目を見張る

「あーもう、京塚さん、大和は第三帝国にべったりでっせ、何を言うてますの、、」

京塚、事も無げに

「あっそう、それはまずいな、それじゃ渕上につこうか」

渕上、右手を思いっきり引き

「ゲット、」

早乙女、間髪入れず

「京塚さん、ここは手打ちにしません」

忍足、仰け反らせては

「京塚さんには、さすがに勝てないですわ」

京塚、近くのゴミ箱に紙袋放り込み

「俺で、あっさり手打ちするのは禍根残るだろ、ここはよく話し合えよ」

渕上、捲し立てる

「間接的ですが、第三帝国と手打ちなど断固拒否します」

京塚、一々頷く

「まあ、ごもっとも」

早乙女、理路整然に

「全米連邦の入植業務に潜り込むに、何年掛かったと思いますか、南米地域はもう移民規制で飽和状態ですよ この先、チリ州上層部がすげ替わったとしたら、再び交渉しては途方に暮れますよ」

京塚、一々頷き

「まあ、さすがに大和の原資は限り有るし、一理ある」

渕上、焦りつくも

「京塚さん、味方じゃないんですか、矛収めてどうします、ここはグサですよって」

京塚、制しては

「まあまあ、来たばかりだし、言い分聞かないと」

忍足、ほくそ笑んでは

「一歩リードですな」

京塚、首を振る

「いいや、新たに確かな州知事用意すれば、それで丸く収まるだろ」

早乙女、凛と

「京塚さんの推薦なら、立派な御仁ですか」

京塚、席にゆったり座り込み

「まあ、角は立たん、あとは日本人会の票読み次第だな」

渕上、逡巡しては

「えっつ、日本人どすか、」

京塚、事も無げに

「まあな、保科さんなら妥当だろ」

早乙女、毅然と

「プラザコーストの宿泊は、中高所得層が相手ですよ、誰が喜びますか」

京塚、微笑

「そうかな、プラザコーストの月一回のデジタルサイネージ花火は、皆喜んでるだろ」

忍足、手を頭の後ろに組み大仰に

「確かに、先月も活況でしたね」

京塚、口角が上がる

「俺、渕上が頑張ってるところ好きなんだよね、第三帝国潰し応援するよ」

渕上、笑い止まらず

「いやー、もう照れますがな、」不意に真顔に「えっつ第三帝国潰し…えっつ、京塚さんが言うなら、気張りましょうかね」忽ち破顔

島上、呆れ顔で

「渕上お前、本当に年上好きだな」

渕上、剥れては

「そこは、人格にどすよ」

早乙女、意を得たり

「後任がいるなら結構です、その線なら大和も元も取れましょう ですが三日です、三日は目を瞑りましょう、総代の飛鳥さんにごめんさい出来るのはそれ位ですよ」

京塚、淡々と

「飛鳥には、俺からも一筆入れる、それでいいだろう」

渕上、京塚の手を鷲掴み

「ええ手打ちですがな、京塚さん、男っ振りええですわ」

島上、苦笑

「だから、灰屋さんと、どっちなんだよ」

渕上、真顔で

「ええ男さんに上限など、あらしまへん、何をいいますの」

早乙女、つい綻ぶ

「おかしい、」

渕上、とくとくと

「早乙女さん、おかしいも何も、早う結婚しなはれ、堂上家米上家内面燻ってますよって」

早乙女、射る様に

「あら、早く結婚って、そこはお互い様でしょう」


渕上と早乙女の高笑いが響き渡る


早乙女、釘を刺しては

「但し京塚さん、渕上さんへの加担は無しですよ 丹波も関わっては事態収拾出来なくなりますからね」

渕上、毅然と

「それは無しどす、こちらは人手が足りないですよって、そうですな京塚さん」

京塚、優しく渕上の手を解く

「いや、俺もお役目があって渕上とは合流出来ん」

渕上、消沈しては

「それは残念ですな、溝端の賞金も結構なものですよ」

京塚、諭す様に

「溝端なら、尚更上家衆だろ、今の上家衆に死角は無いさ」

渕上、嘆息

「それも無茶だけですよって ですが頑張りましょうか」

島上、尚も

「三日か、」

京塚、不意に

「上家衆にも頑張って頂かないと、こちらも滞るんですよ」

早乙女、思慮深く

「京塚さん、敢えては聞きません これで立ち位置は分かりました」

京塚、切に

「やや渕上優位の手打ちだが、俺でいいな」

早乙女、凛と

「いいでしょう、やはり堂上さん戻られたら、大昔の畿内抗争蒸し返しますから、手打ちの意味がなくなりますね」

京塚立ち上がり、両手を開く 

続く立ち上がる一同

京塚、ぐるり見渡し

「いいな、ここは例の、イヨー」

皆で柏手一発

何事かと一同を見つめる中央市場の店員客一同

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