第17話 2055年7月14日 アメリカ合衆国 フロリダ州 マイアミ市 アメリカ海軍軍事病院

一週間後 フロリダ州マイアミ市 アメリカ海軍軍事病院の滅菌された大フロアに急場凌ぎの低温治療カプセルが100個並ぶ 各々のカプセル脇で一時の別れを告げる光景が目に焼き付く


無菌服の青年執事、三坂みさか

「美久里様、一旦お別れです これもそれもパキスタンの統合管理センターがテロで停止したせいでは有りますが、低温治療カプセルのノウハウは辛うじてアメリカで運営出来ますのでご安心下さい」

院内服の美久里、青ざめた顔も必死に

「襲撃した犯人はまだ分からないの」

三坂、毅然と

「然る筋に確認中です ですが、ほぼ同時に起こったブルックリン消失の捜査への世論が高く、少々停滞しております、今はごゆっくりお休み下さい」

美久里、怒りも露わに

「三坂さん、同胞のいた低温治療タウンの3万人、並びに各国施設にて10万人も殺されておいて、大人しく眠ってろって言うの」

三坂、諭す様に

「状況は複雑です、インドパキスタン戦争は現在も進行中、ブルックリン消失も関係性が問われています ローマ参画政府も動いていますので無駄な動きは一切ございません、心穏やかにお願いします それに怒りに任せたままですと、起きた時に顔が戻りませんよ」精一杯頬笑む

無菌服の歩美、日記を持っては頬笑み

「美久里、スマイル」

美久里、頬笑む

「そうね、そのお母様の日記に書かれた料理、いつか食べさせてね」

歩美、嬉々と

「歩美が、もう少し大きくなってからね」

美久里、微笑

「そうね、それも楽しみね」

三坂、口元を緩め

「後はお任せ下さい 歩美様も無事シドニー連邦までお送りします」

美久里、毅然と

「ええ、絶対帰って来るわ、親族の敵は打ちます」

三坂、さすがに困り顔で

「美久里様、今は頭の中はそれで一杯でしょうが、この世界は徐々に希望に満ちて来ています 再び起きる頃、それまでに必ず全容を掴みます ご安心下さい」

歩美、怖々とするも微笑

「安心だね」

美久里、自らの頬に手を当て揉み解す

「そう笑顔よね 頼みますね三坂さん、そして歩美さんまたお会いしましょう」

歩美、心配そうに

「美久里はまた眠るんだね」

美久里

「ええ、一縷の望みでも叶うなら低温治療に賭けるわ、きっと大丈夫よ」

三坂、穏やかな面持ちで

「ご心配いりません 2055年現在、低温治療の成功臨床例は99%です」

美久里、剥れ顔で

「生死が関わってるのに希望的数字ね」

三坂、笑みが溢れる

「さて銀行マンでは致命的な確率ですが、何一つ恐れる事は有りません」

美久里、憮然と

「もう、就職先決まってるのね」

三坂、姿勢を正し

「美久里様、素敵なお仕事ですよ銀行は」

美久里、微笑

「そうよね、お爺様お父様楽しそうだったもの」

施設内にアナウンス音声が流れる

「準備完了、まもなく治療開始します、部外者は外へ退去、治療者は速やかに低温治療カプセルへお入り下さい」

美久里、カプセルにゆっくり横たわり

「歩美さん、三坂さん、少し眠らせて頂くわ」腕輪に鎮静剤が流れて行き、ただゆっくりと意識も朧に



100個に及ぶ低温治療カプセルが一斉にゆっくり閉じられ、医療ジェルが隈無く満たされて行き治療者の頭迄浸かる 制御装置の体温計が見る見る下がっては、途方無い治療が再び始まる 

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