第13話 2087年9月17日 全米連邦 チリ州 バルパライソ市 州知事公務館 

港を一望する小高い丘にある、バルパライソ市の州知事公務館 夕方6時、日は沈まぬうちにテラスでの立食パーティーが始まる

阿南の伝手で、チリ州知事主催の官民大食事会に傾れ込む一同


美久里、呆れ顔で

「平日と言えど、この大規模なパーティーですか、盛況ですね」

阿南、ぐるり見渡し

「地元の名士勢揃いと言った所か、それにしては西欧人多いな」

美久里、目を細め伺っては

「あらら、最高議会の議員さんまで、ちらほらいますね」

北浜、同じく見渡し

「ああ、全米南部は隈無く人が流れて来ます、日本人だけじゃありませんからね」

美久里、頬笑んでは

「良い機会ですね、目敏い方から挨拶どんどん行きましょう 紹介し合って後半にもなると州知事と話も出来ましょう」

北浜、目敏く見つけては

「おお、リオデジャネイロ市の警察署長もいるか、そこから行きましょう」


紹介に次ぐ紹介で、漸くワトソン州知事へお鉢が回る3人

美久里、手を差し伸べる

「これはワトソン州知事ですね、私一橋美久里と申します、ご老体に鞭打って迄の産業振興、ただ尊敬します」

初老の男ワトソン州知事、握手しては

「これはお若い方、日本人の移民の方々の御協力あってこそのチリ州の繁栄です」

美久里、微笑

「日本語も堪能ですのね、ご謙遜も程々ですよ チリ州はワトソン州知事の工場誘致政策があればこそですよ お見事なお仕事ぶりです」

ワトソン、高笑い

「まだまだ仕事は積み重なっておりましてね、これは励みになります 是非共頑張りましましょう」

阿南、嗾ける様に

「美久里さん、第三帝国は捜索どうするのですか、飲めや歌えやでは何時迄も帰れませんよ」

北浜、大仰に

「ああ見渡す限りドイツ人顔が多いな、性根据えて聞き回るか」

美久里尚も、ワトソンの手を握ったまま

「どうしました知事、握手が強ばってますよ」

ワトソン、無造作に手を離そうとするも

「ふっつ、第三帝国、面白い事を言う方々だ」

美久里、尚も握りしめる

「何かご存知なら面白い話がお有りですよね、ご協力下さい」

阿南、詰め寄る

「州知事、ヘルマン・ブットと言う人物はご存知ですか」

ワトソン、引き攣っては体が不意に震え出す

「いや、誰かね」

美久里、尚も握手のまま見据えては

「ワトソン州知事、手が震えるのはお年ですか」

北浜、じろりと

「やれやれ、引きが良い様で、ワトソン州知事、知ってるならお話し下さいよ」

ワトソン、強引に美久里の手を振りほどき、懐から薬箱を取り出し一気に搔き込む

「ハーハー、あの第三帝国を出されたら誰でも強ばりもしよう、すまないね、まだまだテーブルを回らなくては、失礼」踵を返す

阿南、苦笑しては

「ここまで顔に出るものか、やはり後ろめたいのか」

美久里、まなじりが上がったまま

「確かに右手全体まで冷えて、冷凍睡眠後遺症の症例ではあります あの冷凍睡眠カプセルに入っていたのでしょうね」

北浜、吐き捨てては

「ふん、どうしても第三帝国とズブズブかよ」

美久里、従容と

「ここが本陣ですか、些か人が多いですね」

一同周りを見渡す


ワトソン、屋内の談話室に傾れ込んでは、置かれた長椅子に体を預ける

鯉淵こいぶち、今の日本人女性、一橋とか言ったな、消せ、いや付き添いもまとめて消せ」

鯉淵、付き従う様に

「見ていましたよ、一切見覚えが有りません ワトソン、ただの観光客を刺激する事もありません、放っておきましょう」

ワトソン、従容と

「いや、今嗅ぎ回られたらまずい 年を開けたら、チリ州は必ず頂く」

鯉淵、事も無げに

「それでしたら、例のドミネーターを使えば良いのでは、私は荒事は苦手です」

ワトソン、震える両手を抑える様に組む

「副州知事のくせに、使えん奴か、君は」

鯉淵、毅然と

「その汚れた行い、女性は顔に出ないとでも」

ワトソン、けんもほろろにされては

「ふん、君の立ち位置はそれで良かろう まあいい、こういう事もあろうかと、客分は何人か雇ってる」

鯉淵、尚も毅然と

「京都筋はプライドが高すぎます、私は良心的な大和筋を勧めた筈ですが」

ワトソン、歯噛みしては

「私が良心の欠片でも持っていると思うかね、無理を言うな」

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