第14話 2087年9月18日 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 ベガ市場 

旧市街地を色濃く残すベガ市場 色取り取りの野菜果物の香りが漂う

喧騒の中、屋台の店で推測を進める美久里阿南北浜


北浜、前のめりに

「ここは一斉査察が定石ですがね、どうします」

阿南、鼻で笑っては

「甘いな全米連邦は、突入してドンだよ」

北浜、悶絶しては

「阿南、お前噂のままだろ、面子がまるで足りんよ」

阿南、鼻息も荒く

「兵隊位、北浜が用意しろよ、何せ伝手はあるんだろ」

北浜、首を振り

「いや、先日の州知事公務館のパーティーで現実見たよ ワトソン相当手広く利権売りまくってる、あそこにいた連中殆どが同調者だ、州警察まで掌握してやがる」

阿南、頑と

「そこを何とかするのが、北浜だろ、全米連邦入植準備局特殊審査部は名ばかりか」

北浜、とくとくと

「今回は勝手が違い過ぎる、第三帝国決して嘗めるな」

美久里、各種大盛りフルーツジェラートに夢中も、ふと手を止める

「私は阿南さんに限りなく賛成ですが、やはり冷凍睡眠カプセルの件が解明出来ていません、ここはもう少し慎重に行きましょう」

阿南、憮然と

「とは言え、カチンコチンの遺体遺棄の線しか残っていませんよ もっとも、そんなのとっくの前にバラされてるでしょうがね」

美久里、気を取り直し各種大盛りフルーツジェラートに食らいつく

「うーん食べる程に初めての果実 それより余罪は必ず有ります、慎重に行きましょう」



ベガ市場を巡る、別の日本人の3人組

立ち止まる、あどけない女子がつい綻ぶ

「あっつ、阿南さん」

阿南、立ち上がっては握手を求める

「これはこれは花彩さん、物騒な街でとは奇遇ですね」

花彩、頬笑んでは握手

「物騒とは、ほぼ同じ案件でしょうかね」

阿南、得心しては、握手を解く

「ご推察の通りでしょう 私としては、花彩さんは巻き込みたくありませんがね」

花彩、鞄からパスケースより身分証取り出す

「阿南さん、私は今やローマ参画政府のアンダー40の所属なんですよ、お話聞きましょう」

阿南、強ばりながら頬笑もうと

「お話も何も、兼ねてからの武勇伝はお聞きしています、尚更結構ですよ」

花彩、破顔

「ですが、その素振り、お困りの様ですね」

渕上、こことぞばかり

「もしかして、この方があの阿南さんですか、大きいですな、海外でも評判高いですよ、そうです、ちょちょいとサイン頂けますか」鞄からサイン帳差し出す

島上、呆れ果てては

「つくづくミーハーだよな」

渕上、くすり

「有名どころさん、忘れない為ですよ」

阿南、襟を正し

「ええ、なんせ世界に轟く敗戦アドバイザーですからね、ええとお名前は何でしょう」

渕上、頬笑みながら

「渕上です、難しい渕に上と書きます」

阿南、固まる

「“上”ですか」

渕上、何度も責付いては

「そうどす、手を揺るめんと、早うですよ」

阿南、颯爽とサインを書いては

「ああ、どうぞ、」

渕上、必死に笑いを堪える

「ぷ、ありがとうございました」

島上、連れては

「まあ、笑えるな」

花彩、不思議そうに

「はい、どこが笑えるんですか」

阿南、自分を指差す

「それ、俺ですか、」

島上、笑いが込み上げては堪え

「阿南、お前知らんだろうが、『あなたの向こうで』の全米西欧輸出パッケージのキャプション・ナレーションが笑えるんだよ」

渕上、つい噴き出す

「島上さんも、大有名人に失礼ですよって」

島上、抑えるも

「阿南も、いい加減何も知らないのなんだろ 特にあれだよ、ユーロ全域のローマビジョンじゃ、何かにつけ日本刀対サバイバルナイフの検証番組で使われてるからな お陰で武士がモテて、少々浮ついてるがな」

花彩、破顔

「はいはい見ました、あれでは阿南さんも尻尾を巻いて逃げるしか無いですね」

北浜、真顔で

「阿南、今日は厄日か」

阿南、何度も首を振る

「ああ、それ以上だよ、えらいのに会ってしまった」

渕上、空読みしては

「滅相も無いです、えーと阿南さん『あなたの向こうで』通りでしたら47才ですな、九曜でいったら今月ええ並びですよ、袖すり合うも他生の縁、ええんと違います」

阿南、歯噛みしては

「沢田よ、大体、そこカットの筈だろ、勝手に使いやがって」

渕上、頬笑む

「それは日本のディレクターズカットはコメディに持って行く傾向なので改めて素材から再編集ですよ、よくある事ですよって」

阿南、溜息まじりに

「たく、日本に帰ったら取り寄せよう それで花彩さんは、敢えて聞きます、また誰かお探しですか」

花彩、照れ混じりに

「ええ、ご想像の通り第三帝国をちょっと」

阿南、首を振り顔を顰める

「ああ、やはり最悪だ、」

美久里、嬉々と

「それいいですね、目標は同じだから、手を組みましょうよ」

北浜、目を丸くしては

「阿南、これ組んでいいのか」

阿南、何度も首を振る

「駄目に決まってるだろ、」

島上、助け舟を出しては

「阿南よ、上家衆に絡んで負けたからって、意固地になるな こっちのとびっきりの最上に勝てる訳無いだろう」

渕上、頻りに頷き

「そうどすよ、負けて得る事もあります 何よりサイン帳にサイン頂きましたからね」

阿南、たじたじと

「えっつ、サインって、さっきのですか」

渕上、ドヤ顔で

「これです」表紙を見せては【京都寄合所議定書統合事後承諾許可案件】

阿南、絶叫

「うおー、京都寄合所、、、俺が、役人がサインを、」


ベガ市場の全員が何事かと、阿南に振り向く


美久里、爆笑

「阿南さん、面白すぎですよ」

花彩、美久里へ

「あのー、お姉さんも『あなたの向こうで』のゲストですか」

美久里、佇まいを直し

「ええそうです 申し遅れましたね、私は一橋美久里です、ニューヨークの一橋銀行の融資課で働いています」

花彩、笑み絶やさず

「はい、私は松本花彩と申します」

美久里、思い描いては

「松本花彩さん、あの伝説の年末スペシャルの花彩さん?やはり、」

阿南、割って入っては

「そうです美久里さん、『あなたの向こうで』のあの松本花彩さんですよ、不良老人共を一喝した、あのお嬢さんです」

美久里、不意に涙が零れ落ちる

「あら、お母様の歩美さんはお元気かしら」

花彩、心配そうに

「ああ、はい元気ですよ、シドニーのコールセンターの所長しています、あれ?母をご存知なのですか」

美久里、取り直し

「そうね、良かったら今度ディナーでゆっくりお話しましょう、プラザコーストに訪ねて来てね」

花彩、不意に

「あれ、私達の定宿ってプラザコーストですよね」

渕上、伺っては

「奇遇ですな、何かの縁でしょう、早速大切にしませんとですな」

島上、払拭するように

「ただな、お付きの奴らが無骨なのがちょっとな、顔つき悪いぞ自然体で行けよ」

阿南、偉丈夫に

「無骨で悪かったな 急ぎましょう美久里さん、パーティーに来ていたドイツ系移民の団体をまだまだ回らなくては」

北浜、従容と

「あと5ヶ所か、一つ一つのビルにまとまりすぎだろ ああ、怒って恫喝紛いしてくれないものか、こことぞばかりガサ入れさえ出来ないぜ」

阿南、考え倦ねては

「さぞかし、お達しが出てるんだろ、例の日本人に気をつけろって」

島上、怪訝そうに

「物騒な話してるな、俺たちが付いていくか」

阿南、微動だにせず

「有り難いですが、調査が一通り終ってから相談します」

北浜、思いを巡らし

「おっさんは強そうだから警戒するぜ、また今度だよ」

島上、憮然と

「まあいい、泣きを見るなよ」

渕上、口元を結び

「ディナーのワインが不味うならんと宜しいですな」

花彩、頬笑む

「皆さん、お忙しいのですね」

美久里、微笑

「これも後程お話するわね」

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