『惑星』

矢口晃

第1話

『惑星』矢口晃


 惑星XのY国Z区民の住人たちは、一人一つずつ家庭で使わなくなった、かけた茶碗だの絵柄の気に入らない焼き物だのを持ち寄って、それらに自分たちの手を加えて何か有益なものに再利用しようと話し合いをした。

「何を作ろうか?」

「そうだな。何か半永久的に利用できて、しかもずっとわれわれの生活に役に立つものがいいな」

「ならこういうのはどうだろう。空にひとつ惑星を作るというのは」

「惑星を? それを作って、一体何に利用しようというのかね」

「この星の人類は大きくなり過ぎてしまった。全惑星の人類の平均身長が優に千フィートを超えるようになってしまった。こうなるとこの惑星だけで食料を作りだして行くには限界がある。そこで家畜飼育用の惑星を新たに一つ作って、そこから得た食料を我々の日々の糧とすれば、我々にとっても我々の子孫にとっても最も有益ではないだろうか?」

「なるほど。それはよい考えだ。ではこれらの焼き物を使って惑星を作ることにしよう」

 話し合いの結果、彼らは夜空に瞬く一つの星を自分たちの手によって作り出すことに決めた。

 それはとても簡単な作業であった。持ち寄られた焼き物を一つ一つ荒っぽく木鎚で叩き割り、それらの破片を接着剤を使って丸い形に接合し直せばよいのであった。

 ものの一時間で、それはほぼ出来上がった。次の彼らの相談は、出来上がった惑星を広い宇宙のどのあたりに打ち上げるかということであった。

「太陽系でいいのではないだろうか」

「なぜ太陽系だと思うのかね」

「なぜなら太陽系は非常に作物も家畜も育ちがよい。我々の三世代前の人々は、やはり太陽系に火星という惑星を作って、そこから得た食料や宝石でだいぶ潤ったというではないか。残念ながら今では火星はただの砂の星になってしまったのだが」

「なるほど、そうだったな。では太陽系に打ち上げるとしよう。我々の星から距離も近くて家畜を捕りに行くのにも都合がよい」

 相談の結果、彼らはできあがった新たな惑星を、太陽系に打ち上げることにした。そして恒星太陽から離れすぎず、また近すぎず、新しい惑星がもっとも家畜飼育に適した環境になる位置に惑星を打ち上げた。

 望遠鏡を覗きながら、Z区民の一人が言った。

「ああ大変だ」

「いったいどうしたというだ?」

「いや新しい惑星にかける回転数が早すぎたようだ。くるくると、めまぐるしく自転をしているようなのだ」

「そうか。それはいったいどれくらいの速さで回っているのだ」

「一秒間に一回転、いやそれ以上かも知れない。何しろこの星よりは何十倍も速い速度で自転を繰り返しているよ」

「そうか。まあそれもいいじゃないか。きっと食物の育ちも速くなるよ」

「おや? そうこう言っているうちに、早くも土地に木々が芽生えてきたようだ。みるみる大地が緑色に変色していくのがよく分かるよ」

「打ち上げる前によだれを一塗りつけておいた。当分はそれで水分も持つだろう」

「おや。トカゲのようなものが地面を走りだしたぞ」

「何? もう生物が動き出したか。今回の計画はなかなかうまく進みそうだね」

「ところで、あの打ち上げた惑星に何か名前をつけないか? いつまでも『新しい惑星』と呼ぶのではこの先不自由になるだろう」

「なるほど、それももっともだ。それでは私から案を出そう。『転星』というのはどうだろう?」

「転星?」

「ああ。転がるように早く自転をするところから、転がる星と書いて転星さ」

「『微星』というはどうだろう。とても小さな星だから」

「他に誰か意見はないかね?」

「『地球』というはどうだろう」

「地球?」

「うん。だってなかなか地面の広い星だからさ。それに『自給自足』の『自給』と意味がかけてあるわけさ」

「なるほどそれはおもろいね。では地球でいいだろう。おい君、地球の様子はどうなった? 何か新し変化でも起こったかね」

「うん。さっきまであんなにトカゲがたくさん走り回っていた大地に、どうも異変が生じたらしい」

「異変?」

「うん。どうやら大地が凍りついてしまって生物が生きられなくなってしまったようだよ」

「軌道でも外れたかな? まあいい。そのうちまた元に戻るさ」

「それもそうだな。ああ何だか腹が減ってきた」

「俺も腹が減ってきたよ」

「じゃあ家に帰って何か食うことにしよう」

「ああ。それではまた今度」

 そう言いながら、集まっていた区民たちはそれぞれの家に帰って行った。

 その後も地球は順調に回り続けていた。彼らの割り出した、太陽から離れすぎず近過ぎぬ距離にある軌道上を、くるくるとめまぐるしく自転を繰り返しながら、順調に回り続けていた。

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『惑星』 矢口晃 @yaguti

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