最上最悪の鍛冶職人
狐付き
第1話
とんでもなく高い難易度、そしてとんでもなく高い自由度をもつVRMMORPGがある。
ヒートマジック&ダンジョンオンライン
通称「ヒマだお」と呼ばれるゲームだ。
タイトルにあるが、別にダンジョンばかりではない。むしろ外の方が圧倒的に広い。
難易度が高いのは、自由度の高さ故だ。
なんでもできる。だがそれには実力が伴わなくてはいけない。
必殺の剣技がある。しかしそれは自らが編み出し、練習をして初めてものになる。
神をも倒す武器がある。でもそれは誰かが作らなくてはならない。全て本人の努力次第だ。
マニアックすぎて皆やらないと思っていたが、謎の大ヒットを飛ばした。
そんなゲームに、2人の豪運兄弟がいた。
兄は廃戦闘プレイヤー。最強のパーティーに所属し、普通では手に入らないようなレアアイテムを幾度となく手に入れてきた。
弟は廃鍛冶職人。どんなレア素材でも製造に成功させてきた。
基本的に兄がレア素材を拾い、弟がそれを仕上げる。その繰り返しにより、弟は他の職人が決して手の届かないレベルに登ることができた。
鍛冶の能力は素材を何度も駄目にし、積み重ねる錬度でその力が決まる。
初級装備なら問題はない。いくら素材を潰そうとも、すぐ手に入るから。
だが上級ともなれば、そう易々と壊すわけにはいかない。
超級なんて素材1つ手に入れるためには最低1ヶ月もかかったりする。
パーティーによっては鍛冶職人を入れて育てる場合もあるが、それほど貴重な素材を潰しまくってまで育てるのには躊躇がある。
結局は弟に頼ってしまうしかないのだ。
それによって、更に弟の技術は上がっていく。このゲームでの弟の立ち位置は、なくてはならないものとまで言われた。
だがその弟が作る装備は、癖しかなかった。
「──こんにちは」
「おう、いらっしゃい」
眼鏡をかけ、ローブを纏った細身の男が弟の工房へやってきた。
「んで、どうだ?」
「ああ。これはとてもいいものですね『どやぁ』」
男は眼鏡を中指でクイッと上げて答えた。
男が先日弟から手に入れた品物。それが眼鏡だ。
VRMMOはVRの特性を生かし、リアルの自分でない状態を作ることができる。
例えば映像は直接脳へ送られるため、視力なんて関係がなくなる。故に眼鏡など必要ではない。
ではなぜ彼は眼鏡をかけているのか。
装備品にはいくつか種類があり、その中の1つにアクセサリーというものがある。
装備するものには、そのサイズに合わせて補助効果を乗せることができる。
アクセサリーは服や鎧、剣や杖と比べて圧倒的に小さいため、効果は微々たるものだ。
だから複数装着する必要がある。
指輪など指に何十個もつけられない。ペンダントやネックレスもだ。
少しでも多く装備するために考案されたものの1つ。それが眼鏡だ。
だが弟が作った眼鏡は、複数のアクセサリーどころか通常装備でも得られないほどの補助効果があった。
魔法使いにとっての急所。それは詠唱時間だ。
この眼鏡はその時間を1/3まで縮めてしまうという、ほぼチートレベルの代物だった。
「そうか、そりゃよかった」
「しかし、その、ですねぇ『どやぁ』」
「……俺の作ったモンに文句あるのか?」
「い、いや、決してそんなことは『どやぁ』」
「じゃあ今日は何しに来たんだ?」
「え、えっと、礼を言おうかと……『どやぁ』」
「別にいいってことよ。また来てくれ」
「はい……」
男は言いたいことも言えないといった雰囲気で、すごすごと帰ってしまった。
男はこう言いたかったのだろう。レンズとレンズの間──ブリッジを押すたびに『どやぁ』と声が出る機能をどうにかしてくれないか、と。
男はリアルで眼鏡をかけている。だから癖で眼鏡を押し上げてしまうのだ。
だが弟はこの世界で一番の鍛冶職人。機嫌をそこねて次の依頼を断られたら大変だ。
任せた相手が悪かったと思うしかない。
今ごろ彼は『うわ、こいつうざっ』とか周りに思われていることだろう。
「おうっす」
「おういらっしゃい」
次に現れたのは、スキンヘッドのいかつい男だ。いかにも剣士といった風体をしている。
「あのよぉ、こないだ作ってもらった武器なんだが……」
「ああ、あれか。よかっただろ? かなりの自信作なんだ」
「いや、確かに威力はすげぇよ。でもなぁ」
「なんだ? 俺の作った武器が嫌だったか?」
「とっ、とんでもねぇ。あんなにいい武器が手に入って満足してんだ」
「そっか、そりゃよかったな。またよろしく」
「あ、ああ……」
この男も言いたいことを言えず、がっかりした感じで帰っていった。
男の武器は剣だ。いや、剣っぽいものだ。
柄はある。鞘もある。だが剣の本体が幻影なのだ。見た目だけで触れることはできない。
だがその柄を鞘から外し、握っていると筋力が50も上昇する。
初級のショートソードで攻撃力が4上昇。上級のバスタードソードでも20がいいところだ。
筋力が50上がると攻撃力も50上がるこのゲームで、これだけの上昇は反則といってもいい。
ならば他の武器を持って二刀流もどきをやればいいと思えばそうはいかない。
何故ならば、その剣みたいなものは他に武器を持っていたら効果がなくなるからだ。
だから男は端から見ると『剣を持っているのに素手で殴っている変な奴』にしか見えない。まさにトンファーキック状態。
「ふふふ、今日もみんな微妙そうな顔をしていたな。さぁて、今度はどんな嫌がらせをしようかなぁ」
弟は最上の鍛冶職人だった。
だが、最悪に嫌な奴だった。
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