星ヲ撒ク者ドモ

眼珠天蚕

Open Your Life

 ◆ ◆ ◆

 

 戴天惑星"地球"。約30年前、『混沌の曙カオティック・ドーン』と呼ばれる現象により、超異層世界的存在『天国』を保有するようになった、唯一の惑星。かつては"天の川銀河の宝石"と呼ばれたその星は、度重なる『天国』を巡る争いによって荒廃してしまった。その混迷は、今なお続いている。

 しかし、この混迷の状況にある地球を目指し、全異層世界中から力ある若人が集まってくる。

 彼らの目的は、みな同じだ。"慈母の女神"アルティミアが設立した、"希望学園都市"ユーテリア。この巨大学園の生徒となり、各々が胸に抱く――または、その背に課せられた――"希望"を実現すべく、存分に自己鍛錬に励むのだ。

 

 しかし、このユーテリアに籍を置きながら、"希望"を持たぬ生徒がいる。

 

 ユーテリアの中心部にある学園本校舎。その最上階にある"眺天の通路"を、悩める女子生徒がゆっくりと歩いている。

 彼女の名は、ノーラ・ストラヴァリ。通路の純白の床壁に映える褐色の肌に、天窓から差し込む陽光にきらめく薄紫色の髪。そして初夏の新緑よりも爽やかな碧眼を持つ、小柄な美少女だ。その背には、彼女の可憐な出で立ちに見合わぬ、背丈ほどの大きさを持つ大剣を鞘に納めて背負っている。

 ノーラは天窓の向こう側に視線を投げる。そこに見えるのは、澄み渡る快晴の蒼穹と、疎らに浮かぶ白い薄雲。そして、蜃気楼のように天空から逆さまにそびえる、城塞風の巨大建築物の集合体――『天国』だ。

 こうして『天国』を眺めていると、ノーラの胸中にはいつも、泡のように自問が湧きあがる。

 (どうして私は、ここに居るんだろう)

 その答え自体は、極めて自明だ。幼い頃から一族が――ひいては父が語り続けてきた"希望"を叶えるためである。

 「お前は必ず、『現女神あらめがみ』になれ。そして、我らの世界に『天国』をもたらすのだ」

 この"希望"のために、彼女は幼少時から英才教育を叩き込まれ、故郷から世界層を隔てた地球にやってきたのだ。

 …しかし、その"希望"はあくまで、一族や父のものに過ぎず、ノーラ自身のものではない。

 そもそも、ノーラは自分が何になりたいのか、何を成し遂げたいのか、その"希望"を持っていない。

 ノーラは天窓から視線を外すと、今度は視線を横に――壁に並んだ窓の向こう側に向ける。

 地上8階にある"眺天の通路"からは、軍事演習場に匹敵する規模を持つ学園の校庭が広く、遠く見渡せる。その所々で、激しい砂煙がもうもうと巻き上がっている様子を確認する。たぶん、武闘系または戦術系の部活動に従事する生徒たちが、実戦訓練でも繰り広げているのだろう。

 この放課後の時間、生徒たちは大抵、部活動に精を入れて課外でも自己鍛錬に励んでいる。そんな彼らの姿を目にすると、ノーラは申し訳ないような、悔しいような、後ろめたい気分にさせられる。彼女には、彼らのような熱意が全くないのだから。

 (ホント…どうして私、ここに居るんだろう)

 再度自問しながらため息をつき、視線を床に落とした、その時。胸に抱いたプリントの束を認識した彼女は、はっと目を丸くする。――そうだ、この場所に来たのは、益体もない自問に溺れるためなんかじゃない。

 (早くこれを、学園長に届けないと)

 クラス委員を務めるノーラは、クラス担任の教官に頼まれ、学園生活に関するアンケートの結果を学園長たる"慈母の女神"に届けに来ていたのだ。

 ノーラは視線を真っ直ぐに向けると、速足で学園長室へと向かう。その道すがら、今度は頼まれた仕事に対して疑問を抱く。どうして教官は自分で届けず、わざわざ一介の生徒を学園長へ遣わせるのだろうか、と。

 その疑問を考え始めた途端、ノーラの顔に思わずクスリと薄い自嘲が浮かぶ。

 (私ったら、疑問だらけだ…)

 

 学園長室の両開きの扉は、実に豪奢なものだ。黄金を下地に、男女の天使が向かい合うように片面ずつ彫り込まれている。天使の周囲には、地球の内外問わず様々な宗教における楽園の象徴が配置されている。目も眩むばかりの煌びやかさだが、威圧的な印象は全くない。むしろ、見る者の心を温める柔和さが滲み出ている。

 ノーラが扉をノックする。外観的には金属質な扉は、奇妙なことに、木材の奏でる軽やかなトントンと言う音を響かせる。すると、向こう側から、扉の装飾が醸し出す雰囲気よりなお柔和な、春の陽だまりを思わせる女性の声が漏れてくる。

 「どうぞ、お入りなさい」

 「失礼します、学園長」

 ノーラが声をかけつつ、扉を開くと…その先に広がるのは、落ち着いた木製の家財が整然と並べられた、学園長の執務部屋だ。そして部屋の中央奥、蒼穹と『天国』を大きく映す窓を背に、"慈母の女神"その人がデスクに座している。

 その髪は、ハチミツよりもなお透き通ったブロンド色。その肌は、白磁のごとき澄み渡った輝ける色白。その唇は、夕日よりもなお鮮やかな紅色。その瞳は、海よりもなお深い濃青。そして、その身にまとうは、カーネーションをあしらった装飾で満ちた純白のドレス。女性すらも魅了する美貌と、匂い立つような母性を兼ね備えた外観、それが"慈母の女神"アルティミアの御姿みすがたである。

 そして、この麗しき明星のような御姿こそ、一族と父の望みに沿い、ノーラが目指すべき姿なのだ。

 (…"希望"の灯すら持たない私が、こんな神々しい存在になれるというの…?)

 ノーラが憧憬とも諦観とも着かない視線を女神に送り、茫然と立ち尽くしていると。アルティミアは身にまとうカーネーションよりなお優雅な微笑みを浮かべ、ノーラの耳を声の微風でくすぐる。

 「あら、私の顔に何かついているかしら?」

 「あ、いえ…何でもありません」

 はっと我を取り戻したノーラは、それまでの茫然とした思いを断ち切るように、きびきびとした動作で女神のデスクに歩み寄る。そして、胸に抱いたプリントの束を差し出しつつ、こう告げる。

 「1年Q組でクラス委員を務める、ノーラ・ストラヴァリです。ツェペリン教官からの言いつけで、学園生活アンケートの結果を届けに参りました」

 「それはご苦労様ね」

 女神はノーラの足労を労り、満面の笑顔を浮かべる。その表情はまるで、太陽よりなお燦然と輝く大輪の純白のユリだ。そして、ユリが風に撫でられ静かに揺れるような動作で腕を延ばすと、和毛を掴むような柔らかな手つきでプリントの束を受け取る。その一挙一動はことごとく、人の眼の穢れを洗い流す清楚さに満ちている。

 対してノーラは、きびきびとした無機質な動きで深々と一礼。「それでは、失礼します」と無感情に告げた言葉を残し、踵を返した…その直後。

 「ねぇ、ノーラさん」

 耳をくすぐる甘い声が、ノーラの背中を引き留める。相手は学園長ということもあり、無視することのできぬノーラは、チラリと頭だけで振り向いてアルティミアを見遣る。アルティミアは満面の笑みを浮かべたまま、室内の来客用のソファへ手を差し向ける。

 「この後のお時間、空いているのでしょう? 少しお話しましょう」

 予想だにしなかった展開に、ノーラはぱちくりと瞬きする。しかしすぐに、彼女は女神の勧めに従うことにした。女神の言う通り、どうせこの後に予定はないのだ。背負った大剣を外してソファに立て掛けると、自らもソファに身を委ねる。

 「紅茶かココアはいかがかしら? それとも、コーヒーかしら?」

 アルティミアは尋ねながら、繊細な指を小さく鳴らす。すると、デスクの表面からヌルリと、半透明のゲル状の存在が出現する。なんとなく人間の上半身の姿をした、胸元に当たる部分に蝶ネクタイを付けたそれは、給仕用精霊である。

 「いえ、あの…よろしければ、ホットミルクを」

 「うふふ、分かったわ」

 女神はノーラの願いを聞き届けると、精神感応によって給仕用精霊に指令を与える。すると精霊は風のように軽やかに部屋の中を飛び回り、戸棚からカップを取り出すと、右手に当たる部分をティーポットへと変化。その注ぎ口からホットミルクを注ぎ、カップを満たす。そしてノーラの目の前へと湯気立つカップを運ぶと、優雅な一礼を残して蒸発する。

 「すみません…それでは、いただきます」

 ノーラが両手でカップを掴み、丁度良い温度のミルクで咽喉を潤していると。アルティミアは組んだ手の上に顎を乗せ、覗き込むようにノーラを見つめて語りかける。

 「私はね、ノーラさん、以前からあなたと話してみたいと思っていたわ。

 だから今回、ツェペリン先生に頼んで、あなたをここに呼び出したの」

 ノーラはミルクを口に運んだまま、首をちょっと傾げる。数万人の生徒を束ねる"慈愛の女神"が、ノーラただ一人にどんな興味を持ったというのか。全く想像がつかない。

 ノーラの戸惑いを余所に、アルティミアは話を続ける。

 「実はね、この約一年間、あなたに注目していたの。この学園の生徒はみんな、素晴らしい才能の輝きを持ってる。その中でも、あなたの輝きは特に際立っているわ。だから、あなたがどんな希望を抱いて、どんな道を進もうとしているのか、とても興味をもっていたの。

 そしてあなたは、学園生活の中で、その輝きに恥じない成果を残してきた。授業もクラス委員の仕事も、とても真面目に熱心にこなしてきた。学業の成績はとても優秀で、クラスメートや先生たちも、あなたのことを優等生として評価しているわ。そして私も、彼らの評価に同感よ」

 「そんな…もったいないお言葉です」

 ミルクの入ったコップを置いて答えるノーラの顔に、苦々しい笑みが薄く張り付く。その表情と同様、胸中には苦い後ろめたさが広がっている。なぜなら、ノーラにしてみれば、女神の高評価は買い被りとしか言いようがないのだから。希望を持たぬがゆえの空虚さを、目先の努力で必死に紛らわせているに過ぎない。その結果、たまたま成果がついてきただけのこと。決して積極的な動機に基づくものではなく、褒められる価値など一片もない…ノーラはそう強く考えている。

 そんな彼女の心中のわだかまりに呼応するように、女神の笑みが陰る。

 「でもね…そんなあなたに、私は一つだけ、気がかりなことがあるの」

 「そう…なんですか?」

 ノーラがぱちくりと瞬きしつつ問い返すと、女神の紅の唇から懸念の内容が滑り出る。

 「あなたは、少し大人しすぎると思うわ。

 授業や委員の仕事といった、学園が与える枠の中だけに収まってしまっている。その枠を超えてなお、あり余る輝きをあなたは持っているのに、自分から身を縮めてしまっている。

 みんなのように、もっともっと自由な発想で、学園生活を過ごして構わないのよ?」

 この"希望学園都市"ユーテリアは、独特の教育制度を持っている。それは、生徒達は自由な方法で単位を取得することが出来る、というものだ。学園が提供する授業(すべて選択科目であり、必須科目は存在しない)に出席し、教官の教えを受けるも良し。部活動をはじめとした課外活動に従事し、学友たちと切磋琢磨するも良し。自分磨きのための冒険の旅に出るも良し。昼寝をして英気を養うことすら、単位を取得できる可能性がある。要は、成果を学園が認めさえすれば良いのだ。

 しかし、ノーラの場合、アルティミアが言う通り、授業に出る以外の単位取得活動を行ったことはない。その理由はもちろん、彼女には叶えたい希望がないからだ。向かうべき目標を持たずして、どうして独自の道を見出すことができようか。

 女神はソファに立て掛けられたノーラの大剣を見遣りながら、言葉を続ける。

 「私は知っているわ…あなたには、自由の空に羽ばたく、大きな輝きの翼があることを。

 それなのに、翼を伸ばせないでいるのは…もしかして、あなたの背負っているその剣の所為かしら?

 それとも、その剣にすがらないと立つことさえ出来ないと、思い込んでしまっているのかしら?」

 急に飛び出した、大剣の話題。一見して無関係そうなこの話題を、ノーラはすんなりと受け入れる。彼女には、大いに思い当たる節があるのだ。

 彼女が持ち歩く大剣は、一族が数年の歳月を費やして作り上げた、高度に魔化エンチャントされた宝剣だ。地球へと旅立つ日、父はこの宝剣をノーラに背負わせた。一族の"希望"と、それを担うがゆえの重責を、ゆめゆめ忘れぬように…と。

 この経緯を考えると、確かにこの大剣の存在が、彼女の精神活動に影響を与えているとも解釈できそうだが…。

 「…分かりません」

 ノーラは徐々に温かみを失ってゆくカップを弄びながら、うつむいて女神に答える。

 「私自身は、この剣のために心に壁を造っているなどとは、意識したことがありません。

 そもそも…私にはみなさんのような、希望の大空に飛びたてるような翼があるのかすら、分かりません」

 「いいえ、あなたには確かにあるわ。女神である私が保証するのですもの。もっと自信を持ちなさいな」

 女神の励ましにも、ノーラの心は晴れない。いかに尊い存在から保証を受けても、全く実感が伴わない。

 とは言え、せっかく期待を口にしてくれた女神に対し、何か応えねばならない。しかし、どんな言葉を口にするべきか? 頑張ります、と無責任な言葉を口にして良いのだろうか? 考えあぐね、しばし沈黙を保った末…ノーラは、うまく対応することを諦めた。

 代わりに、彼女は話題を変えることで、応えを濁すことにする。

 「あの…アルティミア様。質問しても、よろしいでしょうか」

 「ええ、もちろんよ。何でも訊いてみなさい」

 「アルティミア様はなぜ、この学園を開校なさったのですか?」

 この質問は、女神の予測を超えるものだったらしい。優雅な長い睫毛をもつまぶたをぱちくりと開閉し、母性に反して幼子のようなきょとんとした表情を、女神は見せる。

 女神の紅の唇がなかなか開こうとしない中、ノーラは発した質問の内容を掘り下げる。

 「アルティミア様も十分ご存じと思いますが、女子生徒の中には『現女神』になる希望を抱いて、この学園に籍を置いている者も多いです。このような者を手厚く育てることは、アルティミア様にとって将来の災いとなるのではないでしょうか。

 『現女神』が互いに争い合う存在であることは、アルティミア様がよくご存じのはずです。卒業生から首尾よく新しい『現女神』が生まれたならば、その女神はあなたへのご恩を捨て去り、真っ先にあなたの敵になり得ますよね」

 ノーラの言う通り、『現女神』たちは地球が戴天惑星となった約30年前から現在に至るまで、互いに激しい闘争を繰り広げている。この闘争は『女神戦争』と呼ばれ、地球を荒廃させた大きな要因の一つとして認知されている。

 『現女神』たちが争う理由は、『天国』にあるようだ。超異層世界的存在『天国』は超異層世界集合『オムニバース』に所属するものであり、学術的な根拠はないが、これを支配・制御することで全ての異層世界を定義レベルから支配することが出来ると言われている。この『天国』の所有権を有する存在が、『現女神』であるとのことだ(ただし、これについても学術的根拠はない)。しかし、『天国』と接触するには、現状の彼女らの魂魄のレベルでは不可能らしい。そして魂魄のレベルを高める行為こそ、『女神戦争』なのだと言う。

 『女神戦争』はいつ、終わりを迎えるのか。もちろん、『天国』に接触できる『現女神』が出現するまで、であろう。では、どこまで戦いを続ければ、そんな『現女神』が登場するのか。その問いに関する明白な答えは、『現女神』たち自身すら持ち合わせていないらしい。そこで『女神戦争』の現状と照らし合わせて広く信じられているのが、闘争に勝ち残ったただ一柱こそが、至高の『現女神』として『オムニバース』に君臨するということだ。多くの『現女神』たちもまた、この説に則り、『女神戦争』に心血を注いでいる。

 この説が本当に正しいのならば、"慈母の女神"の行為の弊害は、ノーラの言うような、己の敵を育てることに留まらない。新しい『現女神』を生み出すことで、『女神戦争』を長引かせ、地球の混迷を更に拡大させることとなるだろう。

 この耳痛い問いに対して、アルティミアは一片も顔を曇らせない。それどころか、香り立つような笑いをクスリと漏らすと、にこやかに応える。

 「そうね…確かに、あなたの言う通りでしょうね。

 でもね、私って『現女神』の中でも変わり者らしくてね…『女神戦争』に勝ち抜くことにも、『天国』を手に入れることにも、全然興味がないの。

 私の興味は、ただ一つだけ。希望を抱く若者たちが、希望を叶えた時に浮かべる、笑顔の花。その花でこの『オムニバース』をいっぱいに満たしてみたい…これが私自身の希望よ。

 その希望を叶えるために、私はこのユーテリアを作り上げた。

 もしも、私の生徒の希望が『現女神』になって『天国』を手に入れることで、その希望を叶えるために私を殺すというのなら…私は、喜んでこの命を差し出すわ。その娘の笑顔を『オムニバース』に添えるために、ね。」

 この答えに、ノーラは耳を疑う。希望のために、自分の命さえ差し出す!? 希望を持たぬ彼女には、全く理解できぬ考え方だ。

 ノーラの困惑を見て取った女神は、たたえる笑みにバツの悪そうな色を添える。

 「ホント、私ったらなんでこんな考え方になってしまったんでしょうね。

 きっと、私の"慈母"の性質が起因しているのでしょうね。ホラ、母親って、子供のためなら命も投げ出すでしょう? 私にとって、あなたたち生徒という存在は、私の子供みたいなものだもの。

 それとも…そんな事は全部建前で、あなたたちの信仰心目当てに、この学園を餌にして釣っているだけなのかも。他の『現女神』たちと同じように、ね。だとしたら私、『オムニバース』で一番の詐欺師ね」

 『現女神』たちの力は、彼女らに捧げられる"信仰心"の規模に比例する。ゆえに、彼女らは様々な策略を用いて、人々の心を取り込もうとしている。

 「ノーラさん、もしもあなたの希望が――例え、それが背負わされているものだとしても――『現女神』になることで、私の命を奪うことに抵抗を感じていることが、あなたの翼の妨げになっているとするなら…これで、気にすることはないでしょう? 私は極悪な詐欺師、あなたはそれを罰する、ということになるのだもの。

 そして、あなたは希望を見事に花咲かせることが出来る。そして私は、私自身の希望に沿って、あなたの花を目に焼き付けることが出来る。お互いにとってプラスの結果になるのよ」

 アルティミアは、常にノーラの希望に気を配っている。それを認識する度に、ノーラの胸は潰れそうな苦しみに苛まれる。空虚で構築された精神構造が、希望への嘱望しょくぼうに圧し掛かられて倒壊してしまいそうだ。

 この苦しさにとうとう耐え兼ねなくなったノーラは、逃避を兼ねて残りのミルクを一気にあおる。そして、思わず叩きつけるような勢いでカップをテーブルに置くと、素早く立ち上がる。

 「あの…ホットミルク、ごちそうさまでした。

 アルティミア様とお話し出来て、良かったです。世界が、広がった気がします」

 ノーラはそう告げて大剣を背負い、退室の素振りを見せると。女神は心底残念そうに顔を曇らせる。

 「あら、もう行ってしまうの?」

 「はい…やることを思い出しましたので…このあたりで、失礼させていただきます」

 ノーラは深々と礼をすると、早々に踵を返して女神の部屋を後にする。

 その背中に土産を送るように、女神が優しい言葉を微風と共に運ぶ。

 「またお話しましょう。いつでも気軽に、この部屋を訪ねてちょうだい」

 ノーラは答えず、一気に廊下まで歩くともう一度礼をし、静かに扉を閉める。

 

 ノーラの姿が見えなくなり、執務室にただ一人残されたアルティミアは、紅の唇を艶めかしく一舐め。そして、悪戯っぽい笑みを浮かべると、誰ともなしにポツリと独りごちる。

 「可愛い娘…あなたの空っぽの器の中に、これから一体何が満ちていくのかしら…」

 

 ◆ ◆ ◆

 

 学園長の執務室を出たノーラは、徒歩で一階の教室へ私物を取りに向かう。

 宮殿、もしくは城塞のように広大な学園の中には、上下移動のためのエレベータが幾つも用意されている。しかし、ノーラは余程時間に追われていない限りは、それらを利用しない。ただ待つだけの手持ち無沙汰な時間が出来てしまうと、ついつい余計なネガティブな思考の渦に飲まれそうになるからだ。それを避けるために、一歩一歩に意識を傾けられる徒歩を選ぶのだ。

 ノーラは歩く時、よく下を向いている。その理由については、彼女自身もよく分かっていない。もしかしたら、すれ違う人々の顔を見るのがイヤなのかも知れない。希望に輝く生徒の顔は、彼女に暗澹とした劣等感を植え付けてしまうのだから。

 1年Q組に戻ると、そこには数人の生徒たちの姿がある。彼らはいくつかの小さな集団を作り、とりとめのない話を楽しんでいる。これに対し、ノーラは決して彼らの中に混ざらない。雑事に対しても興味が薄い彼女は、彼らと共に楽しい時間を過ごすことは出来ない。

 この態度ゆえに、学園に来て約1年が経とうというこの時期に至っても、ノーラには友人と呼べる人間がいない。たまに、授業に困ったクラスメートが話しを聞きにくるので、彼らに対応する程度の人付き合いしかしていない。そもそも、ノーラは別段、良好な人間関係を築きたいと考えたことはない。

 ――自分は、浮いた存在なのだ。いわば、決して混ざらないコーヒーミルクだ。…そんな風にノーラは、自分に対して評価を下している。

 

 (…帰ろう)

 カバンを肩にかけたノーラは教室を出ると、真っ直ぐにエントランスに向かう。学園内は土足なので、靴箱のある昇降口は存在しない。

 エントランスは、数万人の生徒の出入りを支える場であるため、解放感溢れる広々とした造りになっている。その中央には、4面に妖精の姿が彫り込まれた大きな円柱が一列に並んでいる。学園の構造を支える支柱、兼、装飾の役割を担っているのだろう。

 ノーラは相変らず、下を向いたまま校舎の外へと歩みを進める。…そしてそれが今、彼女の仇となる。

 「のわぁっ、ちょっと、どいてくれっ!」

 急に、前方から切羽詰まった男子の声が響く。はっとノーラが視線を上げると、もうすぐ眼の前にまで人影が接近していた。回避する余裕は、ない。

 「あ」と口に出す間もなく、ノーラは眼前の人物と激突。相手は相当な勢いで走っていたようで、ノーラの身体は大きく弾き飛ばされる。ガサガサと何かがばら撒かれる音を耳にしながら、受け身を取る間もなくノーラは仰向けに倒れる。

 「いたた…」

 全身を走る衝撃の余韻に苛まれつつ、ノーラがゆっくりと身を起こすと。すかさず、ぶつかってきた人物の姿を探す。その行動は怒りによるものではなく、相手への純粋な心配によるものだ。

 探す相手は、すぐに見つかった。"彼"は、大きなダンボールの下敷きになって、目を回している。ダンボールの中には、折り紙のパックが大量に詰め込まれている。また、"彼"の周りにも、ぶつかった際に飛び出したらしい折り紙のパックが散乱している。

 「あの…大丈夫ですか?」

 口元に手を置いて声をかけつつ、ノーラは"彼"の姿をまじまじと眺めると…思わず、はっと息を飲む。ノーラは、"彼"のことをよく見知っている。いや、彼女だけでなく、恐らく学園の生徒なら誰でも知っているだろう。そんな有名人の姿が、そこにある。

 燃え盛る炎のような紅蓮の髪に、獣のように鋭く大きな犬歯。そして、臀部から生えるワニにも似た鱗ある尾。その形態は、爬虫類系統の獣人種族を思わせる。

 彼の名は、ロイ・ファーブニル。ノーラと同じく高等部の1年生で、"爆走君"のあだ名でよく知られている。

 「あのぅ…」

 いまだ反応のないロイに、ノーラがもう一度声をかけると。ロイがパッチリと眼を見開き、縮んだバネが跳び上がるような勢いで、圧し掛かるダンボールごと立ち上がる。そして金色に輝く瞳でノーラに鋭い視線を送った…途端、その目つきが急激に柔らかく、申し訳なさげになる。

 「ごめんなっ! 怪我、なかったか?」

 ロイの言葉づかいは多少粗暴な感じを受けるが、決して恐怖を植え付けるようなものではない。野生の獣が見せる生き生きとした活気に満ちた、聞く者の心を爽やかにする声だ。

 「うん…大丈夫。こちらこそ、ごめんね。前向いてなかったから…」

 「そっか!」

 ノーラの無事を確認したロイは、ニカッと大きな笑いを浮かべる。幼子のような、真夏の太陽のような、眩しい笑顔だ。

 しかし、次の瞬間。彼の笑顔は一転し、青ざめた焦燥へと激変する。壊れた信号機のように、慌ただしい表情だ。

 ロイは周囲に散乱した折り紙のパックを見回すと、げげっ、と声を上げる。

 「こんなにブチまけちまったのかぁーっ! くっそぉ~、集めるの面倒だなぁーっ!」

 火を吐くような文句を叫びながら、抱えたダンボールを床に置き、ロイは身を屈めて回収作業にあたろうとする。そこへ、ノーラが「待ってください」と一声かけ、彼を制止する。

 「ん?」

 ロイが疑問符を浮かべている間に、ノーラは背負った大剣を引き抜く。金色に輝く幅広の刀身には、彼女の一族に伝わる神話を象った、繊細で見事な装飾が施されている。

 「え、え!? オレ、なんかマズいことやったのか!? いや、確かにキミにぶつかっちまったけどさ!? オレ、そんなに怒らせちまったか!?」

 慌てふためくロイを余所に、ノーラは大剣の長い柄を両手で握りしめ、刀身を天に向けて真っ直ぐに立てる。そして、静かに目を閉じ、桜色の唇から静かに長く呼気を吐いて、意識を集中。すると、彼女の輪郭から蛍光色の魔力励起光が立ち上る。ノーラは今、形而上層上で自身の魂魄から魔力を引き出し、高密度に凝縮しているのだ。

 ついでノーラは、集束した魔力を大剣へと伝搬させる。すると、大剣の刀身に機械的なギミックが幾つも発生。ギミックはガシャガシャと音を立てながら、迅速に刀身の体積と形状を変化。数秒後、刀身は元の長さの半分ほどの、ペン先のように割れた先端を持つ、板のように太い断面の刃へと変形を完了した。その表面には、変形前にあった装飾の代わりに、チューブや計器といった機械部品が臓物のように張り付いている。

 この異様な剣を片手で持ったノーラは、剣の切っ先で大きめの円を宙に描く。すると、その軌跡は蛍光色を放ちながら、内部に幾何学図形と英数字で構成された複雑な文様を生成する。これは、方術陣と呼ばれる、空間固着型の純魔力製自動機関である。

 「機関、起動」

 ノーラが始動の言霊を乗せて、方術陣に命令をぶつける。すると、方術陣から幾つもの魔力の銀糸が伸び、ばら撒かれた折り紙のパックに一斉に絡みつく。そして、素早く器用な動作でダンボールの中へ整然と収めてゆく。回収作業は、ものの数秒で終わってしまった。

 方術陣は役目を終えると、音もなく蒸発して霧散する。そして変形した大剣は、刀身の機関からボワッと白い蒸気を上げると、先の変形過程を逆進し、元の豪奢な黄金の刃へと姿を変える。

 変化を見届けたノーラは、大剣を静かに背の鞘に納め、一息吐く…すると。

 「スッゲーなっ、あんた!!」

 ノーラの視界いっぱいに、目を輝かせたロイの顔がデンと現れる。驚いたノーラは、思わず背をのけぞらせた。するとロイは、彼女を引き留めるように両手をがっしりと掴むと、興奮してブンブンと上下に振る。

 「さっきのアレ、自動識別型の方術陣だろ!? あれって、めちゃくちゃ作るのムズいし、メンドくせーじゃんか! それを、あんな短時間で作っちまうなんて! あんなコトが出来るのは、蒼治ソウジのヤツぐらいだと思ってたぜ!

 あんた、スゲー良い腕してンなっ!」

 「いえ…そんな…大したことじゃ、ないですよ…」

 ロイのあまりの感激具合に、ノーラは気恥ずかしさを感じる以上に、たじろぐばかりだ。

 (とりあえず、腕を振るの、止めてくれないかな…。ちょっと痛い…)

 そう訴えたいものの、"爆走君"の呼び名に見合うロイの猛烈な勢いに押されて、ノーラは苦笑を浮かべるしか出来ない。

 そんな具合に困惑しているノーラの元に、突如、背後から助け舟が入る。

 「スゲー、ではないわっ、この大たわけ者がっ!」

 独特の口調をした、鋭い女子生徒の声が響く。直後、ノーラの真横を疾風のように過ぎる、声の主。"彼女"は一息でロイに肉薄すると、彼の顔面にドロップキックを見舞う。ガツンッ、と壮絶な打撃音がエントランスに響き渡り、ロイは「ぐわぁっ!」と叫び声を上げて吹っ飛ぶ。

 (痛そう…)

 ノーラの苦笑いが、気の毒そうな同情に歪む。その一方で、声の主は、ひっくり返ったロイの元に大股で歩み寄る。

 「な、なんだよっ、副部長っ! 一体、どこから湧いて出たんだよっ!」

 ロイが弾む勢いで素早く立ち上がると、声の主に指を突きつけて喚く。先の強烈な打撃にもめげずに元気に一杯だが、彼の顔面にはくっきりと両足の跡が残っており、間抜けな印象を振り撒いている。

 声の主がロイに答える、

 「おぬしが出て行ったきり、なかなか戻って来なんだから、様子を見に来ておったのじゃ!

 してみれば、おぬしと来たら! 不注意の挙句に人様には迷惑をかけるわ、手助けしてもらっておいて感謝の言葉は口にせぬわ、一人で大騒ぎして恩人の気を退かせるわ! 節操なきこと、山猿のごときじゃのう!」

 「オレはサルじゃねーよ! 見りゃ分かるだろ! この尾と、この角!」

 ロイは真紅の髪をかき分けると、頭皮からちょこんと飛び出た小さな2つの角を見せつける。

 「どう見ても、ド…」

 「角の生えたサルではないか!」

 「違うっつーのっ! だから、ドラ…」

 「そんな益体のない弁明なぞ、どうでも良いわっ! 喚く前に反省せい、このバカタレがっ!」

 "彼女"は鉄拳を頭頂に落し、ロイの口を黙らせる。なんとも剛毅な女子生徒だ。

 その後、"彼女"はノーラの方を振り返ると、表情を一転。大輪のひまわりのようにニカッと笑い、桜色の唇から穏やかな声を紡ぎ出す。

 「騒々しくてしまい、すまんのう。

 この山猿に代わりって、わしからおぬしに礼を言わせてもらうぞ。部員の不始末に手を貸していただき、誠にありがとう」

 深々と礼をする"彼女"…その姿に、ノーラには見覚えがある。陽光に溶けるようなハチミツ色をした、クセっ毛のある長髪。"宇宙の宝石"と呼ばれた、在りし日の地球を写し取ったような、澄んだ青の瞳。磨き抜かれた玉の可憐さと凛々しさを兼ね備えた、利発にして勇壮な顔立ち。そして、小柄な体を大きく見せる、威風堂々たる覇気。

 「いえ…ホントに、大したことはしていませんから、気にしないでください…立花たちばななぎさ先輩」

 ノーラはぱたぱたと手を振りながら、"彼女"――渚の名を告げると。渚はケラケラと声を立てて笑い出す。

 「ほほー、見ず知らずの御人の口から、わしの名が出ようとはな! わしも随分と有名になったものじゃのう!」

 渚自身の言葉は、的を外れていない。彼女もまた、ロイと同様、学園中の有名人だ。特に1年生の間からは、その口調と言動から"暴走厨二先輩"と呼ばれている。

 ロイと渚の有名人二人が、共に行動をしている…ということは。

 「あの…渚先輩。この折り紙は、"暴走部"で使うものですか?」

 "暴走部"――この言葉を耳にした途端、渚の笑い声がピタリと止まる。そして、笑顔を張り付けたまま、こめかみに青筋を浮き上がらせる。

 「…わしらの部活は"暴走部"ではなく、"星撒ほしまき部"じゃ。

 なぜか勘違いする輩が多いようじゃが…くれぐれも間違えぬよう、心に刻み込んでくれぬか」

 「す、すみません…」

 ノーラはペコリと頭を下げて謝罪する。

 ロイと渚を有名にしている理由は、彼らが所属している"星撒部"にある。この部活は、生徒達に"暴走部"と呼ばれるほど、数々の物騒な逸話を持つ。山地をまるまる一つ吹き飛ばしただの、どこぞの都市国家の行政機関から苦情が飛んできただの、『現女神』にケンカを売っただの…だ。これらの逸話の中心にあるのが、ロイと渚である。彼らは学園の中ですら、先にノーラが目にしたような大騒ぎを起こしたり、無関係な生徒を部活動に引きずりこんだりと、暴走行為と見なされても仕方のない行動を繰り返している。

 このようによく話題に出る"星撒部"とその部員だが、肝心の部活の活動方針はよく知られていない。『折り紙』がどのように"星撒部"に結びつくのか、ノーラには想像がつかない。だからこそ、先のような質問を口にしたのだ。

 この質問に対して、青筋を引っ込めた渚が答えてくれる。

 「折り紙のことじゃが、もちろんじゃよ。折り紙はわしらの常套手段じゃからな。子供だけでなく、大人にも評判が良いんじゃよ!」

 「そう…なんですか?」

 答えはもらったものの、やはりノーラは全容がつかめない。そもそも、どうして"子供"や"大人"といった言葉が出てくるのか。そんな新しい疑問すら生じてしまった。

 ノーラの悩みを余所に、渚はロイに向き直ると、またもや表情を一変。頬を膨らませて腕組みすると、涙目で頭をさすっているロイに鋭い言葉を飛ばす。

 「いつまでボーっとしておるのじゃ! さっさと折り紙を部室に運ばんかいっ! おぬしがボヤボヤしているうちに、蒼治はとっくに作業を終えて、手持無沙汰になっておるはずじゃ!」

 「えっ…いくら蒼治でも、あの量をこんな短時間でこなすのは、無理だろ…」

 「不可能を可能にする、それがわしら"星撒部"じゃろうが!

 つべこべ言わずに、さっさと行かんかいっ!」

 「…はいはい、分かったよ」

 ロイは折り紙がみっちり詰まったダンボールをひょいと持ち上げると、軽々とした速足でその場を後にする。途中、一度足を止めてノーラへと振り返ると、ニッと笑う。

 「そういや、副部長の言う通り、オレからキミにお礼を言ってなかったな。

 手伝ってくれて、アリガトなっ! え~っと…」

 「ノーラ・ストラヴァリです」

 ロイの笑みにつられ、ノーラも薄い微笑みを浮かべて名を告げる。

 「ノーラか、覚えておくよ! それじゃあ、また会おうぜ!」

 そしてロイはエントランスから姿を消した。

 「さて…と。わしも行かねばならぬな。

 それでは、ノーラとやら…」

 渚がノーラに声をかけつつ、ゆっくりとした足取りでロイの後を追おうとした、その途端。ピタリ、と足が止まる。そしてくるりと振り返り、ノーラの方をまじまじと見つめる。

 「ところで、おぬし…今から、下校するところじゃよな?」

 「え? あ…はい」

 「部活はどうしたのじゃ? 今日は休みの日か?」

 「いえ…私、部活動には所属していないんです。クラス委員なら、やってますけど…」

 そのように正直に答えたを、ノーラはすぐに後悔することになる。渚の顔が、ニヤァッと謀略のわらいに大きく歪む。それを見たノーラの頬に、一筋の冷たい汗が伝う。――マズい気配がする。

 「そ、それでは、私はこの辺で…」

 逃げるようにノーラが踵を返した…が。その腕がガッシリと掴まれ、動きを制されてしまう。錆びたブリキのような動きで首を回し、引き留めてきた渚の顔を視界に入れると…太陽というには邪悪すぎる満面の笑みが視界に映る。ノーラの顔に、冷や汗の筋が増える。

 「あの…立花先輩…!?」

 「全く、もったいないのう! そして、嘆かわしいのう、若者よ!

 人生で一度きりしかない青春時代を、無為の時間で空費してしまうとは!」

 渚はノーラを掴んでいない方の手で拳を固めると、フルフルと震わせながら、心底悔しげな様子で力の限り訴える。

 次いで、渚の顔がコロリと変わり、キラキラとした爽やかさが現れる。そして、拳から人差し指を立てると、どことも知れぬ天井を差して声を上げる。

 「しかし、安心せい! わしらが、おぬしの青春の時間に、大きな花を添えようぞ!

 いざ来るがよい、そして門をくぐるのじゃ! この学園において至高の部活、我らが青春の居城! 星撒部へ!」

 そして渚は、もの凄い力でノーラを引き連れて歩き出す。その有無を言わさぬ姿は、まさに"暴走部"の名に似つかわしい。

 「あのっ、先輩!? ちょっと待ってください、先輩! 私、部活動には興味がなくて…! 聞いてますか、先輩!?」

 必死に訴えるノーラを、渚は完全に無視。何やら勇壮な軍歌調の鼻歌を口ずさみながら、ノーラを引っ張ってゆく。ノーラは助けを求めて、すれ違う生徒たちに視線を向ける…が。彼らは目を合わせないようにするか、気の毒げな視線を送りつつ距離を取るだけだ。彼らは知っているのだ――"暴走厨二先輩"を止めることはできない。むしろ、下手に手を出せば、自分も引きずり込まれてしまうと。

 「先輩! あの、手を放していただけませんか…!? 先輩、聞いてますか…!?」

 ノーラの必死の訴えだけが、虚しく廊下に響き渡る。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ノーラが連れ込まれた先は、学園本校舎4階にある第436号講義室。空間操作などの魔術加工が特に施されていない部屋で、通常の教室を縦に二つ並べた程度の広さを持つ。小規模な実験講義に使われる部屋で、床に固定された長机が並んでいるのが特徴だ。

 この講義室の開き戸をガラリと勢いよく開いた渚は、開口一番、上機嫌な声を上げる。

 「皆の衆! 新入部員を連れて来たぞ!」

 「先輩…! あのう…私…星撒部に入るなんて、一言も言ってませんよね…!?」

 今なお必死に反論を続けているノーラを、渚は室内に強引に引き込む。すると、室内に居る5人の男女の視線が、一斉にノーラに集中する。

 視線の主の一人は、先に折り紙を運んで去って行った、ロイだ。彼は両腕で長机をバンッと叩き、上体を起こして身を乗り出すと、興奮気味に語る。

 「ノーラじゃんか、さっきぶりだなー!

 まさか、オレ達の部活に入部希望だったなんて! そうと気付いてりゃ、オレが部室に連れてきたのに!」

 「いや…彼女、思いっきり否定してるし、違うだろ…。また渚が強引に連れて来たんだろ…」

 溜息を吐きながら突っ込むのは、ロイの隣に座る、眼鏡をかけた男子生徒だ。青みがかった黒髪に、眼光鋭い眼。そして、長身の痩躯を白いローブで包んだ、いかにも魔術師的な風体をしている。彼の手前には、大量の折り紙がテーブル上に配置されており、折り紙の周囲には幾つもの方術陣が展開されている。おそらく、この男子が方術陣を制御して、折り紙に何かを細工しているようだ。

 眼鏡の生徒は申し訳なさそうな表情を浮かべて、ノーラに語る。

 「ゴメンね。渚のヤツ、いつもいつも強引でさ、君のように人を引っ張ってくる時があるんだよ。僕らもなんとか抑えようとしてるんだけど…なんというか、嵐は檻の中に入れられないって感じでね…」

 「なんじゃと、蒼治! 人のことを災害のように言いおって!」

 渚はズンズンと蒼治と呼んだ眼鏡の男子生徒に迫ると、腕を組み、頬を膨らませて抗議する。このやりとりからするに、蒼治と渚は同年代のようだ。

 一方、ロイ達とは別のテーブルでは。並んで座る3人の女子生徒のうち、中央の生徒がノーラを見つめると、「あれ?」と声を出す。

 「ウチのクラスの、"霧の優等生"ちゃんじゃない。部活やってなさそうだったから、いつかは副部長に捕まるかなーって思ってたけど…ついに捕まっちゃったのか。お気の毒さま」

 言葉の端々に陰を帯びた揶揄を込めて語るこの少女を、ノーラは見知っている。少女が言う通り、ノーラと少女はクラスメート同士だ。

 「こんにちわ、相川あいかわゆかりさん」

 「やっほー、こんちわ」

 腕を上げて応える紫は、神秘的な魅力に溢れた少女だ。ボブカットにした艶やかな黒髪や、赤味がかったブラウンの瞳は、見る者を色の深淵へと引き込むような雰囲気を持つ。クラス内では寡黙なので、その魅力は更に磨きが掛かり、男子生徒たちからの密かな人気を集めている。

 (…相川さんって、しゃべるとこんなに気さくな感じなんだ…。喋ったことがなかったから、分からなかったな…)

 ノーラがクラスメートの意外な一面に関心を寄せていると。紫の右隣に座る女子生徒が、頭上に疑問符を浮かべる。

 「ねぇ、紫。"霧の優等生"って、どーゆー意味?」

 問う女子生徒は、頭に乗せたベレー帽の脇から狐耳をのぞかせ、臀部からはモフモフと大きく膨らんだ獣の尻尾をはやした、明らかな獣人の少女である。その体型は、制服の上からでも分かる健康的な筋肉で引き締まりながらも、非常にグラマラスだ。

 「それはね、ナミト、」紫は獣人の少女の名を呼ぶと、人差し指を立てて説明を始める、「あの娘、ノーラ・ストラヴァリちゃんはね、とーっても成績優秀で、授業の話題ではクラスメートから引っ張りだこな"優等生"なの。

 だけど、普段はすごく無口で、授業以外の雑談には全然混ざってこない。その態度が冷たそうだってコトと、1年かけてもプライベートな情報がほとんど掴めてない所から、"霧"って呼ばれてるワケ。分かったかなー?」

 「うん、よくわかりました、紫先生!」

 ナミトは元気よく手を上げ、おどけて答える。が、すぐにまた疑問符を浮かべる。

 「でも、紫だって、クラスの中では無口だよね? なのに、なんで紫は"霧の優等生"って呼ばれないの?」

 この問いに対し、紫は陰の濃い自嘲の笑みを浮かべると、ため息交じりで漏らす。

 「…どうせ私は、優等生じゃないですよー」

 「そ…そんなことないよ、相川さん…! 環境学や生態学では、学年でもトップクラスだって聞いてますよ…!」

 「優等生ちゃんは優しいねぇ…」

 ノーラのフォローに、紫は涙をぬぐう真似をしながら答えるのであった。

 次いでノーラに声をかけるのは、残る1人の女子生徒。紫の左隣に座る、大人びた雰囲気の少女…というより、女性だ。母性を匂わす柔和な垂れ目に、ボリュームのある薄い桜色のロングヘア。ナミトとはまた違う、優雅な曲線で構成されたグラマラスな体型。"美少女"というより、"美女"という言葉が相応しい。

 「ノーラちゃんって言ったわよね? そんな所で立ってないで、ここにお座りなさいな」

 外観に違わぬ、小鳥が鳴き交わす小春日和を連想させるようなおっとりした口調で、美女が自身の隣の席にノーラを誘う。

 この時、ノーラは彼女の誘いを断り、星撒部を後にすることもできただろう。渚は蒼治やロイとの言い合いに夢中で、ノーラのことはとっくに解放している。元々、星撒部には不本意な形で訪れたのだし、長居する理由は全くないのだ。

 それにも関わらず、ノーラが一歩、踏み出したのはなぜだろうか。誘う美女の放つ穏やかさに魅せられたから? それとも、星撒部を取り巻く賑やかな陽気に心を取り込まれたから? …ノーラ自身、よく分からない。

 ノーラはちょっと遠慮がちに身を縮めながら、薦められた席に座る。すると、美女がユリが咲き乱れるような極上の笑みを浮かべて、自己紹介する。

 「初めまして。2年生のアリエッタ・エル・マーベリーよ。ひとときの時間共有かも知れないけど、これも何かの縁、よろしくね」

 アリエッタに呼応して、ナミトもブンブンと手を振りながら語り出す。

 「ボクも自己紹介がまだだったね! 1年J組のナミト・ヴァーグナだよ!

 ノーラちゃんみたいに頭は良くないけど、体動かすことだけなら絶対に負けないよー! よろしくネ!」

 「相川さんから紹介の通り、ノーラ・ストラヴァリです…よろしくお願いします…」

 ノーラもまた、気恥ずかしげに自己紹介する。考えてみれば、ユーテリアに来て以来、面と向かって自己紹介をしたのはこれが初めてだ。

 それからノーラは、恥ずかしさを紛らわすように視線をテーブルの上に這わせる。そこには、ツルやキリン、サルやカエルといった動物たちの姿に折られた折り紙が広がっている。そしてアリエッタら3人も、てきぱきと指を動かして、次々に折り紙を折っている。渚の言う通り、折り紙は星撒部の活動の一環のようだ。

 茫然と3人の作業を見送っているうちに、アリエッタがツルを完成させる。彼女の優雅さを写し取ったような、非常に均整のとれたツルだ。これを掌に載せたアリエッタは、ノーラに見せつけるように差し出すと、魔力を込める。すると、ツルの輪郭に魔力励起の淡い蛍光が灯り、折り紙のツルがゆっくりと羽ばたく。そして、スイーッと綺麗な円を描きながら、宙をクルクルと何度か飛び回ると、再びアリエッタの掌へ舞い戻る。

 「この折り紙は、蒼治君が魔化してくれたものなの。ほんのちょっと魔力を込めると、折った形に対応して動く仕掛けよ。ちょっと面白いでしょう?」

 アリエッタがニコニコしながら、ノーラにそのように聞かせてくれた。

 「あの…この折り紙って、何に使うんですか?」

 声をかけてくれたのを機に、ノーラがアリエッタに問う。アリエッタは笑顔を崩さず、丁寧に答える。

 「これはね、孤児院とか高齢者介護施設とかに送るの。そのほか、難民非難区の方々に炊き出しのオマケとして配布したりもするのよ。

 今回の作ってる分は、明日行く戦災孤児収容施設へ配るものなの」

 孤児院や高齢者介護施設、それに難民非難区? そのような言葉が出ると言うことは…。

 「星撒部の活動って、社会奉仕活動なんですか?」

 「一部当たりじゃが、それはわしらの活動をあまりに狭くとらえたものに過ぎぬ!」

 ノーラの問いに答えたのは、渚だ。その顔に非常に誇らしげな表情を張り付けると、小ぶりながらも形のよい双丘を突出し、得意げに話しを続ける。

 「コンビニへの買い物から、戦争の停戦まで! この世のあらゆる困り事を解決し、人々の希望を叶え、笑顔の星を届ける! それがわしら、星撒部なのじゃ!

 どうじゃ、"希望"の名を冠するこの学園にぴったりの部活じゃろう!?」

 "希望"。この言葉が、ノーラの空虚な心にズキンと突き刺さり、彼女の表情が曇る。

 その様子を見た蒼治は、ノーラが部活動の途方もないスケールの大きさに驚愕していると勘違いしたようだ。苦笑いを浮かべながら、素早くフォローを入れる。

 「渚は、この世のあらゆる困りごと、なんて大きなことを言ってるけど、この部活は設立して1年も経ってない若い部活でね。他の歴史ある部活に比べて、実績はほとんどない。だから、専用の部室も用意されなくて、この教室を間借りさせてもらってる状態さ。

 …まぁ、時々…噂されてるような過激なことも、確かにやっちゃってるけど…それは大抵、渚とロイの暴走が原因だから…」

 「暴走とはなんじゃ! わしもロイも、人々の希望をより良く叶えるため、全力を尽くしているだけじゃ!

 …確かに、わしらの活動に対して抗議を唱える輩も居るようじゃが…依頼人たちの満足度は100%じゃぞ! 何の問題もなかろう!」

 「確かに、依頼人の皆さんは満足してくれてるようだけど…それでも、非難されている事実はあるワケで、このことには問題意識をもって取り組んでいかないと、星撒部は世界中に敵を作りかねないと…」

 「蒼治ぃ~! なぜにおぬしは、いつもいつもそう、穏便に過ぎて弱腰なのじゃっ! その軟弱な根性、ここらで叩き直してやらねばならぬ!

 ロイ! こやつの背中に尻尾鞭打ち100回、精神注入じゃ!」

 「OK、副部長! それじゃあ蒼治、歯を食いしばれよ~っ!」

 「ちょっと!? ロイも、なんでやる気になってるんだよ! 魔化の集中が乱れるってば…!」

 騒がしいやりとりを、アリエッタは相変らずニコニコと見送り、ほか2人の女子生徒たちはまた始まった、という遠い眼をして折り紙細工に専念する。そしてノーラは、先の胸の痛みもどこへやら、ぽかんと騒ぎを見守るだけだ。

 (…"笑劇部"の方が、似合うんじゃないかな…この部活の名前…)

 そんなことを胸中で呟いていると。ノーラの制服の裾がちょいちょいと引っ張られる。はっとして視線を向けると、そこにはアリエッタの顔がある。

 「折角だから、ノーラちゃんも折り紙していかない? お遊び気分で、ね?」

 そう言いながらアリエッタは、赤い折り紙をノーラの目の前に置く。

 「…でも私、折り紙って実際に折ってみたこと、ないです…」

 「大丈夫、それなら私が教えてあげるわ。だから、一緒にやってみましょう?」

 この誘いを、ノーラはもちろん、断ることが出来た。先にも述べた通り、星撒部には不本意な経緯で連れ込まれているし、特に用事はない。それに、"希望を叶える"と謳うこの部活は、希望を持たない空虚な自分にとって場違いだと痛感している。

 それなのに、ノーラは己の感覚に逆らい、またもアリエッタの誘いを受ける返事をしてしまう。

 「…お願いします」

 なぜ、こんなことをしているのだろうか。部室にまで入ってしまった以上、何かやっていかないと体裁が悪いと感じているのか? それとも、やはりアリエッタの魅力に飲まれてしまっているのか? …いや、そうではない。ノーラは気付き始めている。

 (私…なぜか、この部活に…惹かれてる…)

 アリエッタが自らも黄色の折り紙を手に取り、実演しながら丁寧にノーラに折り方を教える。ノーラは教えを真剣になぞり、非常に丁寧な手つきで紙を折り込んでゆく。

 そしてついに、自らの手でツルを完成させると…ノーラは目を丸くして、自身の作品に見入る。折り紙未経験の彼女にとって、一枚の紙から、切り貼りなしで複雑で美しい形状を作り上げられたことは、まるで魔術だ。

 「さすが、"霧の優等生"だねー! 初めてにして、このクオリティの高さ!」

 ノーラの作品を目にした紫が、ちょっと嫉妬をにじませながら賞賛を口にする。彼女の言葉通り、ノーラの作品は経験者のアリエッタに劣らぬ、う靴しいツルだ。

 「ねぇ、ノーラちゃん。動かしてみようよ! 形が綺麗だとね、動きも綺麗になるんだよー!」

 ナミトの薦めに従い、ノーラは掌にツルを置くと、魔力を込めてみる。すると、ほんの少し――程度にして、指で軽くつつく程度――の魔力で、ツルはふわりと宙に舞い上がり、綺麗な螺旋を描きながら天井スレスレまで上昇。そして、木の葉が風に揺られて落ちるように、ふらふらと揺れながらノーラの掌へと戻る。

 「すごいわ、ノーラちゃん! とっても良い出来よ! こういう芸術的活動に才能があるんじゃないかしら!」

 アリエッタが拍手して褒めてくれる。ノーラは恥ずかしくなり、思わず赤面してしまう。

 「いえ…アリエッタさんの教え方が上手だったんです…。私は別に…」

 「そう謙遜しないでよー、"霧の優等生"ちゃん」

 紫が意地悪げに、ノーラの気恥ずかしさを更に煽りたてる。

 一方、ナミトが何気なく渚に問う。

 「ねー、副部長。今日の折り紙って、ノルマあるんですかー? 聞いてませんでしたけどー?」

 「いや、別に決まりは…」

 と、蒼治が答えかけた途端。渚がビシっと人差し指を立てて、蒼治の言葉を塗り潰す。

 「一人、千個、じゃっ!」

 「ちょっ…渚! そんなに必要ないし、そもそも無茶苦茶すぎるだろ…!」

 蒼治がいさめるが、渚は鼻息荒く腕を組み、語気も強く語り出す。

 「千羽鶴という言葉がある! 千の折り紙は、すなわち希望の象徴じゃ! その数をもってこそ、明日の依頼の満足度を引き出せるというもの!」

 「いや…千羽鶴っていうのは、千って数より、ツルの長寿な点に着眼した言葉でさ…希望というより、病気の回復や長生きって意味が込められているから…明日の活動には、そぐわないと思うんだけど…」

 蒼治が突っ込むが、渚の耳には全く入らない。彼女は五感はすでに、自らが課したノルマへの情熱に全霊を傾けている。

 「良いか、皆の衆! 希望を叶える身であるわしらが、やりもしないで絶望してどうする! 絶望は希望で塗り潰す! それがわしら星撒部じゃろう!

 見ておれいっ! わしが手本を見せてやるっ!」

 語るが早いか、渚は魔力を全身に集結させ、身体魔化フィジカル・エンチャントを実行。そして、烈風のごとく加速した動作で、折り紙を次々と折り続ける。まるで、燃え盛る大火のごとき勢いだ。

 この炎に当てられ、熱意を燃え上がらせる者がいる。ロイだ。

 「おっしゃっ! オレも副部長にゃ負けてらねぇっ!」

 彼もまた身体魔化を実行すると、渚の横に並び、高速で折り紙を折り始める。そのスピードは、渚より若干早い。それを横目で見て悟った渚は、歯を食いしばって更に身体魔化を増強、更に加速して作業に取り組む。こんな異様なまでに熱心な二人の様子を見ていると、彼らの作業は折り紙と全く違う別の何かに見えてくる。

 「あらあら、二人はいつも元気ねー」

 ニコニコと渚たちを見送る、アリエッタ。そんな彼女に、ノーラがおずおずと声をかける。

 「あの…よろしければ、他の折り方も、教えていただけませんか…?」

 「ええ、もちろん。一緒にいっぱい、折りましょう」

 そしてノーラはアリエッタの指導の下、真剣に折り紙に取り組む。星撒部の部員たちが賞賛するように、ノーラは折り紙の筋が良く、質の高い作品を作り上げる。魔力を込めて動かせば、優雅で大きな、目を楽しませる動きを見せる。その度にアリエッタや紫、ナミトから拍手をもらうと、ノーラの鼓動が大きく弾んでゆく。

 (なんだか…とっても…楽しい…!)

 折り紙を続けるうちに、ノーラの眼から暗澹とした空虚の陰りが消え、愉悦の輝きが大きく灯る。オドオドしていた表情が柔らかくほぐれ、口角がうっすらと上がる。その表情には、小さく儚げながらも、瑞々しい活気の花が宿る。

 やっている作業自体は、単純なものだ。それがどうしてこんなに、楽しく感じられるのだろうか。拍手が心地良いから? それとも単に、単純作業が高揚感を促進する神経物質を誘発しているだけなのか? …いや、そうじゃない。ホントの理由は…。

 ノーラが思いを馳せようとした、その時。渚とロイの激闘が動きを見せ、彼女の思考を中断させる。どうやら二人は、途中結果を比べ合うようだ。この間にノーラが折った折り紙の数は10枚。対して、魔術を使ってまで速度強化した二人の成果は…?

 「見よ! すでに56個も折って見せたわい!」

 渚のすぐ隣には、もっさりと積み上がったツルの山がある。その中から一つ、ツルを取り出して掌に載せると、誇らしげに張った胸と共にロイに突き出して見せる。ツルの質は、アリエッタのものには及ばないが、なかなかの出来だ。

 しかし、ロイは動じない。むしろ、その顔には"してやったり"とした得意さがギラリと灯っている。

 「甘いぜ、副部長! オレはな…73個だっ!」

 ロイの隣には、渚のものより一回り大きなツルの山がある。そして彼も渚にならい、山の中のツルを一つ取り出して突き出して見せるが…その質は、全くもって、ひどい。左右のバランスは明らかにおかしいし、紙自体も張りが無くてぐにゃぐにゃと歪んでいる。溢れる熱意が有り余り、力任せに急いで折ったがゆえの惨状だと、部室内の誰もが一目見て悟った。

 このツルを前にして、だーっはっはっは、と渚は声を上げて大笑い。

 「なんじゃ、そのツルはっ! というか、それ、ツルなのか!? 新種の昆虫の間違いではないか!?」

 「なっ…! 見てくれは悪いかも知れねーが、動かせば、ちゃんと…!」

 反論しながら、ロイは掌に載せたツルに魔力を注ぎ込む。すると…ツル(?)はヨレヨレの翼を、まるで昆虫のようにヒョコヒョコと奇妙に動かし、フラフラと千鳥足で歩き出す。動きの度にプルプルと頼りなさげに震える様が、なんとも滑稽だ。

 渚が、改めて爆笑。テーブルをバンバン叩いて悶える。

 「それ…何!? 誰か、その、新種に、名前をつけて、やってくれい! …腹が、よじれる…っ!」

 「…アルキヅル、かな」と、至って真面目に語るのは蒼治だ。

 「ツル・ウォーカーの方が、メカっぽくてカッコ良くない?」と、陽気に語るのはナミトだ。

 「いやー、この動きはどう見てもザトウムシだね」と、意地の悪い笑み名付けるのは紫だ。

 「んー、そうねぇ…酔っ払いさん、がぴったりだと思うわ~」と、全く悪気なくにこやかに語るのはアリエッタだ。

 「ちょっとお前ら、言いたい放題すぎだろ!?」と、ロイが総仕上げするように突っ込む。

 この滑稽な一連のやりとりの中、クスクス…と微風に擦れる花びらのような笑い声が漏れてくる。声の主は…ノーラだ。俯き、口元に手を置いて、必死にこらえているが…ついに耐え切れなくなり、アハハと声を上げてしまう。

 星撒部の部員一同がきょとんとして、ノーラに視線を集める。するとノーラは、笑い過ぎで流れる涙を人差し指で拭いながら、言い訳する。

 「ごめんなさい…みなさん…ロイ君…ウフフ! でも、どうしても、可笑しくて…アハハ! どうしよう、止まらない…アハハハ!」

 すると、笑いの対象であるロイは…全く腹を立てることもなく、却って彼自身もニカッと笑顔を見せる。

 「ノーラ、お前、スゲーイイ顔で笑うな!」

 そう指摘された時。ノーラは初めて、自分が笑っていることを認識し、驚いた。――そう、私は今、笑ってる! 楽しむなんて感情は、空虚な自分の心からは、もう干上がってしまったと思っていたのに。自分の中のどこに、この心地良さに身を委ねる感性が残っていたのだろう?

 ノーラが笑い続けていると…渚がウインクを送ってくる。

 「活動成功じゃな! おぬしの希望、見事叶えてみせたわい!」

 渚の不可解な言葉に、ノーラは思わず笑いを止め、疑問符を浮かべる。

 「え…? わたしの希望を…叶えた…?」

 ノーラは渚の言葉を全く理解できない。そもそも、自分は希望を持っていない。なのに、彼女は"希望を叶えた"と語る。一体、どういうことなのか?

 渚は語り出す、

 「おぬし、この学園に来たのは、おぬし自身の希望ではないだろう? 恐らく、家族や国家の類から希望を背負わされておるのじゃろう。それゆえに、おぬしは自身の進むべき道を見つけられず、苦しんでおる。

 …何故そんなことが分かるのか、といった表情をしておるのう? おぬしの顔に書いてあったのじゃよ、奈落の底のように暗い顔にな。

 しかしながら、おぬしは行先を見つけられずとも、自身の力を存分に発揮し、羽ばたきたいとも思っておる。だからこそ、ロイを手助けした時に、おぬしは自身の力を使ってみせたのじゃ。

 自分を縛る苦しみから解放されたい。そして、自身の翼を輝かせて羽ばたきたい。そんな心の叫びを、わしは聞き届けたのじゃ。そしてわしは、おぬしをここに連れ込んだ。おぬしの希望を、叶えるために。

 そして今、おぬしはしがらみもなく、行先を意識することもなく、己の心に従ってわしらとの活動を楽しみ、笑った。さぞかし気持ち良かったじゃろう?」

 そして渚は、もう一度ウインクを送りながら、こう締めくくる。

 「わしら星撒部が叶える希望は、何も遠く離れた大地の者達のものだけではない。身近な者の希望ももちろん、大歓迎じゃ」

 この言葉を耳にしたノーラは、先に描きかけた思考に改めて思いを馳せる。――なぜ、私はこの部活に惹かれたのか。

 彼らは――星撒部の部員たちは、何でも溶かしてしまうコーヒーだ。混ざることを拒否していたノーラをも温かく包み、芳醇なる味わいの一員にしてくれる、輝きの寄る辺だ。

 (…なんて気持ち良いところだろう…)

 ノーラの顔に改めて、笑顔が灯る。その笑みは、厳しい冬からようやく芽吹き、可憐にして力強く咲き誇るフクジュソウを思わせた。

 

 ノーラの空虚なる心に、小さな小さな輝きが灯る。

 その輝きの穏やかさを謳歌する時間を過ごす、ノーラであったが…。

 そこに今、波乱が訪れようとしている。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 部室に突如として響く、軽快な調子の着信音。これを耳にした渚は顔を曇らせ、制服の上着のポケットに手を突っ込む。

 「こんな時に野暮な茶々を入れるのは、どこのどいつじゃ…!」

 不愉快そうに毒づきながら取り出したのは、学園が生徒に配布しているタッチデバイス仕様の異層世界間通信端末、通称『ナビット』である。そのタッチディスプレイを見た渚は、「なんじゃ、イェルグか」と嘆息交じりにポツリと漏らす。

 渚はナビットを操作すると、部員全員によく見えるよう大型の3Dモニターを空中に展開する。この行動から鑑みると、通信相手のイェルグなる人物は、星撒部の部員のようだ。

 3Dモニターには、一人の男子の顔をアップで映っている。無精に長く伸ばした黒髪に、頭のみならず顔の右半分を隠すように巻きつけた、民族衣装にも見える色鮮やかな布地。この布から覗く顔立ちは、のんびりした雰囲気を漂わせる穏やかなものだ…が。

 今、彼の顔からは、ただごとならぬ状況が見て取れる。顔中煤だらけで、所々には経度の火傷も見える。また、彼の微笑みにも見える表情の端々からは、剣呑な危機感がひしひしと伝わってくる。

 この様子に、渚が眉をしかめる。

 「そのザマはなんなのじゃ、イェルグ!? おぬしらの今日の活動は、コンサートの運営手伝いじゃろう!? 会場で火災でも起きたのか!?」

 するとイェルグは、表情を困惑で歪めて答える。

 「火災程度なら良いんだけど…それどころじゃない、結構マズい事態になっててね。

 言葉で話すより、見た方が早いな。今、外の様子を見せるよ」

 言うが早いか、イェルグは手にしたナビットを動かす。3Dモニターの映る光景が大きく動き、イェルグの顔のアップから、武骨な金属製の空間の内装を経由して、"外"を映し出す。その光景を見た瞬間…渚を始め、星撒部の部員一同、そしてノーラは表情を凍らせ、息を飲んだ。

 

 荒れ狂う紅蓮の一色が、そこには映っていた。

 植物や木製品といった可燃物はおろか、石も、金属も、コンクリートも…目に見える全ての物体が、獰猛な業火に呑み込まれている。もしかすると、大気すらも業火の燃料に成り果てているかも知れない。発生した黒煙すら、即座に赫々に染まって燃え上がるその光景は、焦熱地獄そのものだ。

 3Dモニターの視界が動き、今度は空を映し出す。天高くそびえ渦巻く火炎の摩天楼の合間から、『天国』が見えるので、この場所がユーテリアと同じく地球上に存在していることが分かる。しかしながら、『天国』の有様は、ユーテリア上空のそれとはあまりに異なる――大蛇のような紅炎が吹き上がる、恒星表面のような有様だ。

 そう、『天国』の外観は地球上で一様ではなく、変化するのだ。その原因は、『天国』直下の地域の魔法科学的環境――特に、『現女神』の活動が関連すると言われる。ただし、学術的には未解明であり、あくまで推測の域をでないものだ。

 この凶悪な『天国』を埋め尽くすように群れて飛ぶ、爆撃機のような存在が見える。イェルグがご丁寧にこの物体を拡大表示すると…それは、どこかヒトを思わせるものの、ヒトにしてはあまりにも異形の存在であることが分かる。鼻と眼窩の窪みがかろうじて分かる、のっぺらぼうの顔。首から下は細長いクサビ状になっており、手足はない。代わりに、腕が生えるべき部分から臀部にかけて、大きな弧を描く器官がある。この器官の周囲には、一定の間隔を置いて並べられた炎の玉が十数個見える。

 地上に業火をもたらしているのは、この異形の飛行物体たちだ。炎の玉を一斉に解き放って、豪雨のように紅蓮に染まった大地に降り注いでいる。すると、焦熱地獄に更なる赤が大きく爆ぜ、残酷な彩りが鮮やかさを増すのだ。

 

 「…ひどい…」

 ノーラは思わず、戦慄き声を唇の隙間から漏らす。

 その一方で、イェルグが天空を映したまま尋ねる。

 「20分前に突然出現しやがってね、この有様だ。

 それで、どうかな、副部長? 飛んでるヤツら、『天使』だと思うんだけどさ。 もしそうなら、どこの"おばさん"がはしゃいでるか、分かるかい?」

 「"獄炎の女神"オリュアドネのヤツじゃ。毎度のことながら、エゲつない『求心活動』じゃな」

 渚が、まるで見知っているように『現女神』の名を口にして即答する。

 求心活動…その言葉を聞き、ノーラがはっと目を丸くする。それは、『現女神』が己の力を増強するために、人々の信仰心を集めるための活動のことだ。しかし…。

 「こんな破壊活動が…殺人行為が…求心活動なんですか…!? 『女神戦争』ではなくて…!?」

 ノーラの問いに、渚は3Dモニターから目を離さずに答える。

 「恐怖は、古来より人心を集める常套手段じゃ。"獄炎"のみならず、これに倣う『現女神』どもは少なくない。己の力を魂に刻み付ける、絶好の手段じゃからのう。

 特に"獄炎"の場合、人々の肉体を滅ぼす結果になろうとも、問題にせぬ。あやつの炎は、肉体だけを焼き焦がし、霊魂を剥き出しにさせる。つまり、強制的にヒトを幽霊に変えることが出来るのじゃ。信仰心は、その幽霊たちから吸い上げるのじゃよ。

 …全く、エゲつない話じゃ…!」

 ノーラは、絶句する。『現女神』という存在に血生臭い話が付きまとうというのは、『女神戦争』の存在から想像していた。しかし、戦争の外側にも、このような凄惨な仕打ちが繰り広げられていようとは…想像だにしていなかった。

 (父は…一族は…私に、こんな存在になれと、望んでいるというの…!?)

 愕然とするノーラを余所に、イェルグと渚のやりとりが進む。

 「オレ達としては、『地球圏治安監視集団エグリゴリ』が出張ってくれるまで、持ちこたえるだけだったんだが…どういうワケか、出てくる気配が全然ない。

 だから、この都市国家まちの住民の希望に沿って、状況を打破することにしたよ」

 「ならば、わしらも全力で加勢に行くわい!」

 「いや、それはいかんでしょ。相手側は、"おばさん"が降臨してないんだ。その状態で副部長が出張ると、状況は『求心活動』じゃ済まなくなる。

 それに、明日の折り紙の用意、まだ終わってないでしょ? こっちの勝手な都合で延期やら中止やらになったら、待っててくれてる人達ががっかりするでしょ。それは星撒部としてやっちゃいかんよ」

 「…ならば、どうするつもりじゃ?」

 「ロイを加勢によこしてくれ。どうせ不器用なんだし、折り紙の戦力になってないだろ?

 …それに、ロイの力は、この状況を打破にうってつけだ。

 だよな、ロイ?」

 イェルグの言葉に、ロイはやる気のたぎる凄絶な笑みを浮かべると、拳と掌を打ち合わせると共に、尻尾を強かに床に打ち付ける。

 「その言葉は気に喰わねーが…ああ、お前の言う通りさ! 折り紙より、こっちの方がオレ向きだ!」

 「ロイだけで、済むのか?」

 渚が険しい顔を崩さずに問うと、イェルグは自分の顔をディスプレイに映し、頭を掻く。

 「うーん…方術使いも居てくれれば、色々と力強いんだけど…。

 蒼治は、折り紙の魔化に忙しいでしょ?」

 「そうだな…あと1時間くらいは掛かるかも知れない」

 「うーん…それまで、なんとか持たせるしかないかぁ…」

 蒼治の答えに、イェルグが腕を組んで唸っている…と。

 「あの…私、方術は得意な方です。お手伝いできると、思います」

 そう声を出した者がいる。ノーラだ。声は少々おずおずとしていたし、緑の瞳は不安げに揺れている。しかし、固く結んだ唇から、そして、瞳の奥に宿る眼光から、固く勇壮な決意が読み取れる。

 それを見た蒼治が、眼鏡の向こう側に驚きと狼狽を宿し、ノーラを慌てて引き留める。

 「いや…君は部員じゃないだ! だから、こんな厄介事に首を突っ込まなくていいよ!」

 ――そう、関わる必要なんてない。そんなことは、ノーラ自身も分かっている。

 それでもあえて、地獄を目にした上で、進み出ようとしたのは、なぜか。背負わされた"希望"の具現化である『現女神』の所業に、失望と怒りを感じたから? その激情を力いっぱい、ぶつけてやりたいから? …確かに、それも理由の一因だろう。

 しかし、それ以上に彼女を突き動かす動機がある。

 

 それは、希望だ。

 ノーラの空虚な心に灯った、小さな小さな輝きが訴える。

 具体的にどうすれば良いか、どこへ行けばいいのか、分からない。

 それでも、羽ばたいてみたいのだ。

 たった一人なら心細いかも知れなくても…自分を受け入れてくれたこの星撒部の人たちとなら…!

 何のしがらみに苦しむこともなく、何処へでも飛んで行ける気がする!

 

 「お役に立ってみませす! だから…お手伝いさせてください!」

 そう訴えるノーラの声から、震えが消えた。瞳からは不安が消えた。そして揺るがない決意だけが、炎のように全身から立ち昇る。

 この様子を見ても、蒼治はまだ躊躇いを見せていたが…。そこへ、ノーラの決意を後押しする力強い一声が現れる。

 「オレは、連れて行くぜ」

 声の主は、ロイだ。彼はノーラの方に温かい掌をポンと乗せ、言葉を続ける。

 「ノーラは自分の意志で、自分の輝きに従って、"来る"って希望したんだ。その希望を拒否するなんて、オレ達らしくねぇ。違うかよ、副部長?」

 そう話題を振られた渚は…満面に楽しげな表情を浮かべると、首を縦に振ってロイに同調する。

 「良いじゃろう! わしが全責任を持つ! ノーラよ、ロイと共に行ってくるが良い!」

 「…全責任を取ることになるのは、渚じゃなくて、顧問の教官でしょ…」

 蒼治が小さく突っ込むが、渚を引き留めることはしない。彼は知っているのだ、"暴走厨二先輩"と呼ばれる彼女が一度決めたら、もうテコでも動かせないということを…。

 そして渚は、二人を送り出すべく、彼女自身の力を行使する。キンコン、と澄んだ鐘の音が彼女の背後から響くと同時に、空中に純白に輝く円が出現。円の中からは羽毛の形をした光の雫が垂れると共に、異様な人型が逆さまに出現する。体中がベルトやら鎖やらで覆われ、胸には巨大な金属の錠前を付け、背中には一対の翼を生やしたその姿は、まるで…。

 (まさか…副部長さんって、まさか…)

 ノーラが目を丸くしている最中、渚の召喚した異形は右腕を差出し、人差し指を伸ばす。すると、指の先数センチの所に、宙を走る青白い輝線が出現。数秒の後、中央に大きな鍵穴を持つ両開きの扉の形を描かれると、それが実体化。次いで、異形の人差し指が鍵になり、鍵穴の中に進入。ガチャリと重い音が開錠を告げ、扉がゆっくりと開く。その先に見えるのは…眩いばかりの純白だ。

 「おぬしらが目指す先は、その光の向こうじゃ!」

 ウインクしながら声で二人の背中を押す、渚。それに突き動かされて、軽やかに一歩踏み出す、ロイ。対して、ノーラは眼前の出来事に心を奪われて茫然とするばかりだ。そこへロイが振り返り、ニカッと真夏の太陽の笑顔を見せると、逞しい腕をノーラに伸ばす。

 「行こうぜ、ノーラ! 絶望をブッ潰して、笑顔の星を振り撒きに!」

 ロイの笑顔を視界いっぱいに映すと、ノーラの表情から茫然が消える。そして彼女の顔に現れるのは、険しくも輝きを秘めた、決意だ。

 「…うん!」

 ノーラが、ロイの手をしっかりと掴む。その途端、ロイはグイッと力強くノーラを引き、光の中へと飛び込んでゆく。ノーラもまた、ロイの勢いに負けじと床を強く蹴り、光の中へと進む。

 

 向かう先にあるのは、巨大なる焦熱地獄。

 二人は各々の胸に抱く希望の輝きを武器に、この凶悪なる絶望に立ち向かう。

 

 - To Be Continued -

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