集積回路の探索者

天宮詩音(虚ろな星屑)

第1話 新暦45年。

新暦45年7月15日。


「まずいぞ、このままでは」

アラートが鳴り響く建物の中、慌ただしく動き回る白衣たちがいた。


「博士、あと5分も持ちこたえられません」

白衣の一人に博士と呼ばれた初老の男。

彼は顔を歪めながら、決断した。

「やむを得ない、か」


しかし、運命は終息を求めていなかった。

「っ、青藤博士、最終ライン突破されました!雪崩れ込んできます!」

コンソールに向かって一心不乱に何かを打ち込み続けている別の白衣が叫ぶ。

「なんだと!」

急いで手元の端末で確認する。だが。


「残念、チェックだ」

銃声、と同時に響く機械的な声。

合成された声特有のイントネーションが特徴的。

「嫌、博士ッ!」

その機械によって博士は、極めて精密に太腿を撃ち抜かれた。

入り口に立つ機械、肩にはとある国の旗がペイントされている。

先ほどの言の通りに雪崩れ込んでくる機械兵士。

一瞬で包囲された白衣の研究員たち。


「くッ!一体何が目的だ、貴様等」

3体の機械兵士に囲まれた博士は吐き捨てる。

「さて、青藤博士、あなたなら見当はついているはずでしょう」

到底機械とは思えない人間らしい仕草で、機械は語る。

「なに、簡単なことです、それさえ達成できるなら彼らを無傷で開放してもいい」

この場を完全に支配した機械は、その声を響かせる。


「あの論文に関する研究データをいただきたい。そのも含めて、ね」

人間らしく、嫌らしく嗤った。

「……私の論文に原本などないグゥッ!」

「博士!」

今なお白衣を染める血の出所を蹴った機械。

「ご冗談を、あるでしょう?が」

「はっ、知らんな。もし知っていたとして、私がそれを教えるとでも?」

「はあ、あ。仕方ないですか。……おい、やれ」

「グッ、ガッ」

言葉に綴るも憚られる悪夢が始まった。


「……強情ですねぇ、いい加減に話してくれてもいいのでは?」

やれやれと肩をすくめる機械。

「はぁ、はぁ、誰が話すか」

既に、突入から30分が経過していた。

「気が進まないのですが、そろそろ時間です」

「おい、何をする気だ」


「まあ、もうテンプレと化している展開ですがね。彼らをここへ」


「やめろ、手を出すな、その子たちには、未来が」


「そう言うのでしたら、素直に吐いてくれます?」


「それは……」


「博士、いけません!」


「ッチ、失敗ですか。まあいいでしょう、その子を前に」


「ああ、口を塞いでおいてくださいね。

また余計なこと言われたらたまったもんじゃねえし」


「さて、じゃあまずは足からいきましょう」


「ム!ムグ-!」

「そんな可愛らしく首を振ってもダメなものはダメです。諦めなさい」


「さ、スパッとやっちゃいますか」

「あ、やめ、やめろ」


「ほい、なんですか?早く言わないと落としちゃうかもしれませんね」

「……わかった」


「アッ、ヤバい、手が震えてきた」

「ン―、ン―!!」

「わかったからやめてくれ!」


「……まあ、及第点を上げましょう」

ダイジェストで経緯をお送りした。

「さて、では行きましょうか。その在り処へ」

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集積回路の探索者 天宮詩音(虚ろな星屑) @AmamiyaSionn

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