魔法使いと使い魔


「髪を梳いてくれ」

声をかければ了解の声が落ち、金の髪の上をブラシが撫ぜていく。魔法使いは本のページを捲る。

甘ったるい関係。レイは何だってしてくれる。躊躇いがちに優しく触れる異質な手は魔法使いの願いをなんだって叶えようと動く。魔法使いが顔をあげれば、彼はこちらを向き、睫毛に縁どられたグラスアイで己の主人を見るだろう。血を落とした蜂蜜の色とは違う、深いブラウンは不透明に星明りの魔法使いを映し出す。私と彼は違うものだと言わんばかりに。

「紅茶のポットを」

白磁の肌、長い睫毛、年端のいかぬ少女の持つ柔らかいブラウンの髪。すべて私が用意して彼に与えたものだ。彼はとても美しい。この世の贅を尽くして作られたオートクチュールだ。

彼は魔法使いの欲望を叶える。愛せと言えばこの世で最上のものは貴方なのだと言うように。愛されよと言えば黙ってされるがままに。人格があるにもかかわらず、嫌だとも良いとも言わずただそこにいてくれる。だから魔法使いは惜しみなく何かを捧げることもできたし、逆に何かをこれ以上ないほどに搾取することもできた。そうして美しく優しい彼は主人が何を考えていてもそれを感知することはない。だから、好きなことを考えて、誰に遠慮することもなく好きなことをしていられる。

アキは紅茶をカップに注ぎ、その香を嗅いだ。

「愛しているよ、私の美しいレイ」

彼はいつもどおり嬉しそうに微笑むだけだ。

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