これで君も青春マスター

@garo_niki

第1話青春入門その1

「実は好きな人ができたんだ」

 俺はぽつりと呟いた。いつも通り騒がしい食堂の癖に今日はよく俺の呟きが通る。同時に学食の月見そば(350円)とかき揚げうどん(320円)を頬張っていた飛鳥あすかヤマトと吉良きらシンが目を見張る。しかしヤマトは直後眼鏡が湯気で曇ってしまった。

 続きを喋ろうとするとした瞬間、目の前に手が二つ待てと言わんばかりに伸びてきた。すぐに食うのをやめない辺り、こいつらの俺の恋愛に対する優先度がどれだけ低いかが理解できる。

しばらくしてようやくそばを飲み込んだ眼鏡を白くさせたヤマトがおもむろに口を開いた。

「小学生相手とはおすすめしないな」

まだ何も言ってねえだろうが。むしろお前らが詳細言わせてくれねえんだろうが。

「おいおい人妻とは勇気あるじゃないの」

シンも乗ってくる。早くも相談したことを後悔してきた。それにしてもこいつら好みぜってえ合わねえな。

「違う! 小学生も人妻も論外だ!」

「「まああったら困るわな」」

「とにかく聞いてくれ。何も生半可な気持ちでお前らに打ち明けたつもりではないんだ」

 俺の真剣な様子を感じとったのか二人はまだ何かいいたげだったがひとまず黙って聞く様子を見せた。

「相手は二年生の東雲しののめクリス先輩だ」

 名を明かしても大きなリアクションはない。しかしヤマトも真剣な顔で返してきた。

「お前はもっと堅実な奴だと思ってたんだがな。クリス先輩はちと無謀だろ」

「ん? ヤマトはクリス先輩って人のこと知ってんのか?」

 俺も驚いたがシンも興味ありげにヤマトに質問を投げかける。

「おいおい相手は西高四天王に選ばれてる存在だぞ。もう入学して2ヶ月経つんだ。そういう情報ぐらい出回るだろ普通に」

 なんだよ西高四天王って……少年漫画かよ。

「西高四天王って少年漫画か何かか?」

さっきからシンと思考が似通ってて少しムカつく。

「お前らマジかよ……。まあ色恋沙汰の話なんざするの初めてだしここらで一回整理しとくか」

 シンと同じ顔をしてた俺を見て察したヤマトがスマホを取り出す。そうして弄りながら話を進めてきた。

「いいか? この宮西高校は男子4女子6の割合で生徒が存在してるのは知っているな?」

「ああ」

「まあ常識だわな」

 俺もシンも即答する。一学年に2つ、女子専用のクラス通称「じょクラ」ができる程度に女子の数が多い。それがこの学校の特徴の一つだ。

「数が多ければそれだけレベルの高い女生徒も増える。ましてやこの学校を選ぶ女子の理由の一番が制服の完成度の高さだ。そういったことに興味を持つ女子ってのは必然的に容姿の平均値が上がってくる」

 

 市立宮西高校は公立の中でも女子の人気が高かった。ヤマトが言うように制服のデザインが好評だからだ。その評判の良さは女子人気だけに留まらず、使用済みならかなりのマニア価格が付くとも噂されている。男子もブレザーでこれまた目立つから人気がある。何も知らず安全圏の公立校ということで受験したが倍率の高さに若干後悔したほどだった。最近は特に人気が上がってきてるらしい。受験とは情報戦だと嫌というほど思い知らされたものだ。

「モデルクラスの生徒が入学してきてもおかしくない環境が生まれた結果、できたのが四天王だ。誠に勝手だとは思うがこんな環境で上を決めないバカはいないってもんだからな」

 確かに勝手に決められる女子からしたらいい迷惑だろう。しかし浪漫ってのはそういうものなんだな。すまん女子諸君。

「確かにな。俺も入学してから女子の匂いを意識してかがなかったことはないぜ!」

 シンは多分きっと絶対頭がゆるい。

「あんまおおっぴらにそういうこと言うのはやめろ。俺のフォローも限界があるぞシンバカ君」

 フォローしようとするだけヤマトは良いやつなんだろうなあと思う。俺なら切り捨て御免も余裕で範疇です。

「話は戻るがつまりお前はこの学校のトップレベルを相手にしようとしてるわけだ。何を血迷ったんだ? まだ死ぬには若すぎるぞ友よ。諦めが肝心って色んな偉い人も言ってるぜ?」

「なぜお前は俺が玉砕するのが確定してるという前提で語るんだ」

「いやだって……無理でしょ」

 完全否定された。

「そもそもお前が誰かを好きになったって話するのが驚きなんだって。お前と知り合ってからまだ二ヶ月だけどよ。お前そんな話する様子見せたことないじゃんもう恋なんてしないと思うじゃん下手したらソッチの気もあると思うじゃん」

 こいつの眼鏡カチ割りたいじゃん。

「俺も気になるなー。どっちかと言えば真面目系クズだろお前」

 それは一体何の因果関係がある。

「前置きは長くなったが馴れ初めを聞かしておくれ」

「笑わないか?」

「ここまで来てそりゃあないっしょタダクニ君」

「俺たち親友だろ?」

 こいつら都合のいい時だけ友達振りかざしやがる。まあ話も進まないし少し恥ずかしいが話すことにした。


「GW《ゴールデンウィーク》前に全校集会があったろ? GWの過ごし方についてってやつ」

「大分遡るな」

「まあな……続けるぞ。その日俺少し遅れただろ」

「あーなんだっけ? 前日に出された英語の宿題がクッソ難しかったうえに答えるのお前だったんだよな? それで徹夜して寝坊したとか」

「ヤマトよく覚えてんなあ。俺すっかり忘れてたわ」

 アニメの名場面を30個選びそのシーンの会話を英語にしなさいなんてGW前の宿題に出した英語の荒井先生は俺色んな意味で殺しに来てたと思う。

「なんとか終わらせて来たんだが一年の集会のタイミングには出られなくてな」

 この学校は一年二年三年の順番で体育館に集合するのが常だ。決められているわけではないが体育会系の部活も盛んだからやはり厳しい部分もあってそこに全体が引っ張られている。特に厳しい野球部は遅れようものならそいつは次の日ただでさえ短いヘアースタイルがさらに青くなることだろう。

「俺は二年の中に混じりながら急いで向かってたんだが何せ寝坊した上に寝不足だ。半分ふらつきながら向かっている中事件は起きた。階段でコケちまったんだ」

 体育館は武道場の二階にあった。階段、そして人ごみ注意力の落ちた疲れた身体に決定打を打つには十分だった。少し前がつっかえた瞬間、俺はコケた上に疲労で気絶した。

「次に目が覚めた時には保健室で寝かされてたよ。そんで目の前にクリス先輩がいたんだ」

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