あっという間の物語

よろしくま・ぺこり

スマホ

 スマホが自分で歩くようになって何年経っただろうか。初めはみんな驚いたようだが今では普通のことになっている。便利なのは自分で勝手に充電してくれること。持ち主の後を追いかけてくれるので持ち忘れがないことと、どこかへ置き忘れるということがないことである。一方、野放しで歩かせていると簡単に盗まれてしまうという難点があり、皆チェーンをつけて犬の散歩のようにしている。実際、犬のように愛着を感じる人が増えたため、犬の所有数が減ったと言われている。まるで、バーチャルペットだ。しかし猫の保有率はなぜか減らなかったらしい。可愛がる方向性が違うのであろう。

 だが本日より、スマホ歩行禁止条例が施行された。別名、歩きスマホ禁止条例だ。最近、スマホを自分の前に歩かせて背中のディスプレイに集中しすぎて前を歩いている人にぶつかったり、エスカレーターの溝にはまってエスカレーターを

故障させたり電車とホームの隙間に落っこちる事故が多発したため、国会でスマホを歩かせることを禁止する法案が成立し、今日から施行されることになったのである。スマホはポケットやカバン、もしくは手のひらに帰った。しかし、これから販売されるスマホ以外のスマホには歩行機能が残っている。なので家の中で、歩かせて遊ぶのが主流となった。これをスマホの室内飼い。複数のスマホを持っていることをスマホの多頭飼いと呼ぶようになった。こうなると猫の所有数も減るのではないかと、ペット業界は頭を痛めている。

 また、不法投棄されたスマホが自力で充電器を探し出し、街を徘徊する野良スマホも問題になっている。多くの野良スマホは市役所の地域課の人間に捕獲され処分されているが、ある市民団体は「この問題は地域で考えましょう。処分だけやっていたら費用だけがかかる。新しい持ち主を探してやることが大切だ」として野良スマホに充電をしてやったり、新しい飼い主を見つけたりする運動をしている。彼らは野良スマホを地域スマホと呼んでいる。

 なんにしても、スマホは寿命のつきるまで使い続けることが大切である。

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