ニンゲン
今日は久しぶりの休日なので妻と大型スーパーに買い出しに行った。
「それにしてもこの頃は新しい食材が増えたわね」
「スーパーのバイヤーさんが遠くまで買い付けに行っているからだろう」
「そんな遠くまで行って鮮度は大丈夫なのかしら」
「今は冷凍の技術も進んでいるからね。今まで現地で食べられなかったものも口に入るようになった」
そんなことを言っているうちに青果コーナーを抜け、精肉・鮮魚のコーナーにたどり着く。何か特売をやっている。
「ニンゲンが安いよ。ニンゲンが美味しいよ」
「ニンゲンって何かしら」
「ニンジンではないようだな。行ってみよう」
見に行くと丸々と太った男がニンゲンの試食コーナーを設けている。
「そのニンゲンって美味しいの?」
妻が聞く。
「美味しいですよ、奥さん。でもねえアクが強いから生で食べるには水に三時間は漬けておかなくちゃなりません」
「面倒ねえ」
「そういう方のためにアク抜きをした、加熱用加工品があります。残念ながらこっちは生では食べられませんが」
「どうやって食べるの?」
「はい、ニンゲンには三種類あって、ガリとデブとチュウニクチュウゼイがあって、それぞれ食べ方が違うんですよ」
「へえ、どう違うの?」
「はい。まずガリはコリッとした食感が命ですんで、唐揚げ、天ぷら、フライなんかが美味しいですよ。どうぞ食べてみてください」
我々はガリのフライを食べた。
「本当、丁度いい食感ね。じゃあデブは?」
「ええ。デブは脂が多いのでちょっと湯びきしてから角煮にしたり。あとはしゃぶしゃぶにすると脂がうまく抜けて丁度いい感じになります。こちらの食感はゼリーみたいな噛みやすさが特徴です。骨は抜いてあります」
「ふーん。じゃあチュウニクチュウゼイは?」
「これは希少な高級品で、煮たり、焼いたりすると丁度いい油加減で抜群の美味さです。お値段は少々張りますが」
「そう。あなたどれがいい?」
妻が俺に聞いてくる。
「俺は刺身で食べたいな。生のを買ってくれよ」
「でも、三時間水に漬けるのよ。待てる?」
「おいしいものを食べられるなら待つさ」
「じゃあ、生を、チュウニクチュウゼイでお願いね」
「ありがとうございます」
「ところでニンゲンっていうのはどこで取れるんだい?」
「ええ、チキュウって星に自生しています。今までバイヤーの手が入らなかったので、大量に溢れていたそうで。だからこのような安価で販売できるんです」
「そうか。世の中まだまだ探せば、新しい食材が手に入るんだな」
「さようですね」
俺は感心した。
それから半年後だ。謎の巨大宇宙人が我らバリカン星人を大量に拉致し、つれさるという事件が続発したのは!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます