中二彼女と四葉のクローバー

言葉継作

僕の彼女は…


--僕の彼女は、中学二年生だ。



 元々彼女は二十四歳で、ある時飲んだ薬によって十歳程若返ってしまった。「実際に十歳若返ったか」と聞かれると「絶対そうだ」とは言えないのだけれど、十四から十五歳くらいの容姿だとは思う。


 僕は山田やまだ海人かいと、彼女にはカイと呼ばれている。現在は高校二年生で、今年も夏休みを満喫する……はずだった。



 夏休みが一週間ほど過ぎ去った今日も、僕はアパートの一室で、ベッドに寝そべっている。


 無意味にオンになったままのテレビ、クーラーは24度に設定されていて、涼しい。


 相も変わらず僕は、スマホでゲームやネットサーフィンに勤しみ、まとめサイトを閲覧することで社会情勢(笑)を知ったふりする。


 この様に、有限なる時間を潰すことほど幸せなものはない。……我ながら暇つぶしには長けていると思う。でも今年の夏休みは何処かが違っていた。


「夏休みっていうのは学生の特権だと思うんですけど、佳代さんは出勤しなくて良いんですか」


 機嫌良く鼻歌を歌いながらキッチンで料理をする僕の彼女--みなと佳代かよは、一応中学生の姿になっても社会人ではある。普段通りならば、今日も出社をしなければならないのだが……


「あー、会社なら辞めちゃったよー」


 佳代は好物のパンケーキを作る手を止めず、さらりとそう告げた。



 --ぱんっ



 パンケーキを裏返す音が部屋に響く。


「え?」


 スマホを弄る手がピタリと止まる。佳代の突然な報告に、僕は驚くしかなかった。


「いやぁ、ある程度資金も貯まってたし、10歳も若返ったんだから中学生やり直そうかなって思ってね」


 焼きあがったパンケーキを手際よく皿に移す。若返っても尚、佳代の料理の腕前は衰えないようだ。若返ってから仕事にも差し支えは無かった様だから、どうも身体だけが若返って知能やその他諸々は大人のままらしい。


「中学生をやり直す?!」


 驚きのあまり、裏返った声を出してしまう。


 仕事を辞めたという大胆告白から、更に思ってもいなかった展開へと事が進んでいるようで、状況がうまく飲み込めない。大人が中学生をやり直すなんて前代未聞だ。……当たり前か。


「うん! ちなみに入学手続きはもう済ませてあるから、私もめでたくJCデヴューだよっ」


******


「はいどうぞ、こっちがカイの分ね」


 コトッ。出来上がった二人分のパンケーキが机に並ぶ。頼まなくても僕の分まで作ってくれる佳代の優しさ、プライスレス。


 ハートにかたどられた二枚のパンケーキ。トッピングに、ブルーベリーやラズベリーといった所謂ベリー系をパンケーキに添える。色鮮やかで見栄えがとても良い。極め付けにベリーソースをお好みでかけ、粉砂糖をまぶし完成だ。


 彼女--佳代の方はと言うと、ハート型のパンケーキが四枚、四葉のクローバーの形になるよう並べられている。トッピングは僕と同じだが、このクローバーの形にするのは佳代なりのこだわりらしく……



「やっぱり、四葉のクローバーみたいで素敵だよねぇ……」


「私たちに幸せが訪れますように----」



 なんて、恥ずかしげもなく言ったりする。



 佳代はパンケーキを一口頬張り、実に幸せそうな表情を見せる。それを僕はぽけ〜と眺めていた。そして何かに気がついたように、目を見開き、口の中にあるものを忙しそうに咀嚼し、その後ようやく口を開いた。


「そうだよ、無視しないでよ!」


「パンケーキに夢中になっていたのは佳代さんの方でしょう?!」


「でも話の途中で終わらせようとしたのは、カイの方だよね!」


 この反論の仕方でさえ、反抗期の娘のような…というより最近は妹のように感じることが多い。


「……わかりました、今回は僕が悪かったです」


 面倒なことになる前に退くことを最近覚えた。


「よろしい。では質問をはよう」


 急かさないでほしいのだけれど……。まぁでも聞きたいことは沢山あるからしっかり聞いておこう。


「えっと……じゃあ、夏休み明けから登校なんです? そもそも何年生から始まるんですか?」


「本来は夏休み後から登校だけど、希望するなら夏休み中でも部活動には参加できるんだって! それから学年は」


 佳代はポケットから生徒手帳を取り出し、僕の顔前に持ってくる。そこにはこう書かれていた。


宙丹ちゅうに中学校、第二学年、湊佳代。……やはり中学二年生でしたか」


「当時は、JCブランドという存在そのものを知らなかった可哀想な私。何はともあれ、今回こそブランド力を大いに発揮するときが来たのだわ」


 ……どこか別のベクトルに力が注がれそうな気がするのですが、気のせいでしょうか……。



そんなこんなで、中二彼女との生活は続く--

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中二彼女と四葉のクローバー 言葉継作 @keisaku_kotoha

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