第8話 蠢く森

「えー、彼らが昨日話した四人だ。事情があって一まとめにしてこのクラスに編入することになった」


 教壇にたったクラッドがホワイトボードの前に立つ四人を差していう。


「ジョー=ロックウェルは飛び級して一度卒業しているが、本人の意向あってもう一度入学することになった。ローランとカーリーは今後、調律者を学園に通わせるテストケースだ。アラン=フリーマンについては、入学試験における源泉値による脚キリの見直しだな」


 アランの紹介でざわつく教室だったが、クラッドが一通り見渡すことでこれもすぐに収まった。


「では、それぞれに自己紹介をしてもらう。ジョーから頼む」


「ジョー=ロックウェルだ。今回は飛び級の為に修得できなかった科目を履修するために再入学した。よろしくたのむ」


 淡々としたジョーの自己紹介に、女子から黄色い声が飛ぶ。


「ローラン。好きなものはスウィーツ、嫌いなものはうるさい人」

「カーリーだよぉ。好きなものは歌うこと、嫌いなものはとくにないよぉ」


 ローランとカーリーの自己紹介に一部の男子が萌えあがる。


「アラン=フリーマンです。源泉値は低いですが、立派な聖騎士になるために頑張りたいと思います」


 アランの自己紹介にざわめく声の中には、若干の嘲笑が混じっていた。一通りの自己紹介が終わると、教室後方の席に移動した四人を確認し。クラッドがクラスに声をかける。


「よし、では今から明日行うオリエンテーションの班決めをしたいと思う。新しく四人来たことだし五人一組になってくれ」


「ねえジョー君、私達と組まない?」

「ローランちゃん俺たちお菓子一杯持ってくから、一緒に行かない?」

「カーリーちゃん俺たちバンドやってるんだぜ」


 人だかりができる三人をよそにボッチのアラン。その背中には灰が積もり、全身が真っ白になっているようだった。


「アラン君だよね!」


 そんな彼にも声をかける人がいた。黒髪をポニーテールにした少し大人びた少女だ。


「え、おう?」

「私はサラ=アーメッジ、一緒に回らない?」


 思わず握手を求めるアランとそれに答えるサラ。


「……ああ!よろしく、アーメッジさん」

「ふふ、サラでいいよ。じゃあ、あと三人探そうか」


 ぶんぶんと握手した手を振りながら、笑顔でそういうサラ達に声をかける者がいた。


「それには及ばない」


 人だかりを抜けてきたジョー達三人だった。


「僕もフリーマンと組ませてもらう」

「ジョーと同じく」

「わたしもぉ、アランとがいぃ」


 それぞれそう口にする三人に感動した様子のアラン。


「おまえら……」


 声をかけてきた三人に、アランは一も二もなく快諾するのだった。



 翌日の早朝。まだ薄暗い中、日課のトレーニングから帰ってきたアランは、自室の前に誰かが立っているのに気づいた。早朝の冷気に汗が蒸気として消える中、若干あがった息を整えつつ歩み寄ると相手のほうから声がかけられた。


「出かけるときは声をかけろと言っただろ」

「ジョーか。なんだよ学園の中ぐらい良いだろ」


 若干不満げなジョーにそう告げるアラン。


「それじゃ困るから言っているんだ。寮の管理人から、電話が来て起こされたときはどうしたものかと思ったよ」

「わかった。次からは声をかけるよ」

「ああ、今度からは僕も参加するからな」

「へー。いいのか?」


 少し意外に思ったアランは気が付くとジョーに確認をしていた。


「あくまで仕事だ。くれぐれも僕のそばを離れないように」

「はいはい。じゃあ飯にでも行こうぜ」

「ああ」


 ようやく小鳥が鳴き始めた早朝の廊下に、二人の声が響いていった。



 実習地までの移動は、小型の源泉炉心を搭載した電気とのハイブリッドバスを利用して行われた。しかし、郊外の森につく頃にはすっかり昼になってしまっていた。丁度お昼の時間ということもあって生徒たちは、一様にグループを作って各々の弁当を開き始めていた。


「お昼は任せてと言ってたけど。これは……」

「すごくおっきぃ」

「たいしたものだ……」

「豪快」


 口々に感嘆の声を上げるアラン、カーリー、ジョー、ローランの四人。


「ふっふーん、どーよ。サラちゃんの手作り弁当ですよー」


 サラは自慢げにそのポニーテールを振って喜んでいた。


「サラって料理上手なんだな」

「……ママみたぃ」


 続けてたたみかけた二人にまんざらでもない様子で答えるサラ。


「もーそんなに褒めないでよ。料理は趣味なの」


 大きめな胸を張ってフンスというサラに、尊敬の眼差しをむけるカーリー。広げたブルーシートに車座になって座る五人。中心に据えられたバケットの中には大きく切り分けられたサンドイッチが入っていた。そこかしこに座って昼ご飯を食べ始める生徒たちに、資料を手に持ったクラッドとシャクティが再度確認する。


「もう一度オリエンテーションのルールを説明するぞ。内容は簡単、森に放ったドローンを倒してポイントを競うだけだ。あらかじめ騎士団が調査した森ってのに加え、今日は護衛に四機、量産型の第一世代クレイモア、聖騎士を連れてきているから安心してくれ」

「時間は二時から五時までの三時間だ。くれぐれも仲間とはぐれないように。それぞれGPS通信機をもったか確認すること。いいな?」


 シャクティの捕捉に、そこかしこから返事の声が上がる。


「じゃあ二時から開始するから、食事が終わっても遊ぶなよー」


 そうして、午後二時になりオリエンテーションは開始された。森の中は薄暗く冬の冷気も相まって、生徒たちに想像以上の肌寒さを感じさせていた。


「なあ、ドローンってどんなのだっけ?」


 森の中を進んでいた一つのグループ、その中の一人が唐突にそう話し出す。


「さっき飛んでくの見ただろ、小型のヘリコプターみたいのだよ」

「それがさ、もう壊れてるっぽいんだけど」


 少年が指さす先には、確かに残骸となったドローンが転がっていた。


「え?」

「ほんとね。でも他の班が壊したにしては早すぎじゃない?」


 ドローンに集まる生徒たちに忍び寄る影。落ち葉の下を這うように進んだそれが生徒たちに牙をむくのは少し先の話。静かに、闇は動き出していた。 

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