第2話 出会い

 空を行くのは、冷え込む冬空を切り裂く一機の軍用機。左右に設置されたローターからけたたましい音を立てながら飛行する機械の鳥。一つのカーゴを運搬するためだけに用意されたそれはNY上空を飛行していた。その機内に不釣り合いな貴族然とした姿の一組の男女がいる。一人は金髪碧眼、女顔の少年。方やロシア帽を目深にかぶった銀髪長耳の幼女。


「ジョー……」

 

 幼女が少年に声をかける。長いまつ毛に彩られたその目は何かを探るような含みを持っていた。


「わかってるさローラン。あくまで任務は護衛そうだろ?」

「そう、聖騎士たるあなたの任務」


 どこか誤魔化すように少年は幼女に告げる。


「それでもね噂の魔女が相手だ緊張もするさ」

「あなたが緊張?」


 フンと鼻で笑うようなしぐさをする幼女に頬を掻く少年。


「僕だって緊張くらいするさ。今度ばかりは任務が任務だ。彼女の背景を考えれば油断はできないさ」

「それでもあなたは強いわ。私の聖騎士ですもの」

「光栄ですレディ」

 

 腰から礼をするジョーに返礼をするローラン。冬の鼻を衝く空気を裂いて飛ぶ機内。それでもどこか余裕がある様子で会話をする二人に話しかける者がいた。この飛行機のパイロットだ。


「やー聖騎士の旦那、そいつはそんなにやばいのかい?」

「ああ、これは本来極秘なんだけどね。君には関係のあることだから言っておくよ。少し前にコロラド州にあった研究施設の人員が、こいつのために全滅したそうだ」

「ふー、そうかい。そいつは怖い。それが本当ならそいつはとんでもない爆弾だってことだな」


 おどけるように、肩をすくめるパイロット。若干目を細めると何かを確認するようにジョーは先を続ける。


「ああそうだとも。だから残念ながらなおさら君のようなものには、渡せないんだよ」

「解放軍」

 

 幼女の言葉と共に大きく笑顔を浮かべるパイロット。


「ハイヤー、ファァルコォーン!」


 ガコッ、大仰な動作で引かれるレバー。それを合図に開く後部ハッチ。固定用のボルトが解除され空中へと放出される護送用カーゴ。ジョーと呼ばれた細身の少年はしかし動じずにパイロットへと問いかける。


「殺すきかい?」

「こんな程度で死ぬ玉じゃねーだろ!そいつも、俺らも!ヨォ!!」


 パイロットの体が裂け内部から飛び出す金属フレームの副椀。機械的に駆動する新たな四肢に眼孔を赤く血走らせながら、それは二人へと襲い掛かる。座席を切り裂き蹴飛ばしながら天井すれすれまで跳躍する異形の人型。


「フレッシュなジャーキーにしてやるぜ!」

「……ローランいくよ」

「ジョー。最速で行く」

「ああわかっている。あわよくば……死んでくれているといいんだが」


 最後のつぶやきは風に乗り消え去り少年は怪人を迎え撃つ。腰に下げた細剣をぬくジョー。その剣は少年の体内から湧き上がる源泉を受け入れ淡く発光していた。


「さぁ、解体の時間だ!」

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