コンプレックスガァル
ぐいある
エピロオグ
彼女は恐らく、いつまでもいつまでも、この部屋に居続けるのだろう。
くすんだ藍や茶、ビジリアンがこびりついた床を見下ろす。まだら模様に染みの広がるカーテンがひらめき、途切れ途切れに強烈な夏の日差しを落としていた。すすけたキャンバスさながらの床も、心なしか兵隊の勲章のように誇らしげに見える。
歩く度にかす、かす、と乾いた音を立てて、私は教台へと向かった。
窓の外を見下ろせば一面の青青しい穂が、まるで時間を削ぐかのようになだらかに揺れている。さあっという音が聞こえてきそうなさざめきが、よりいっそうこの部屋の無音を際立たせていた。
(こうやってね、きっといいこいいこしてるんだよ。)
窓に片頬を付き、それこそ猫かなにか柔らかいものを撫でるようにして目を細める姿が、見えた気がした。
へぇという私の無骨な相づちに、分かってないでしょう、という声が少し呆れたように応える。
それでもやはり屈託なく笑うあの子はいつも夢みがちで、突拍子もなくロマンチストなことなどを言うものだから、思わずつっけどんな返事をする癖がついていた。
だけれども、そうやって紡ぐ温度の違う会話は、不思議と心地良かった。
「たのしかった」
たのしかったのだ。
なのに、
目の前に広がる圧倒的な大きさの黒板には
それをさらに圧倒する大きさとグロテスクさで青い、巨大な丸が描かれていた。
手にはぬるりとした感触。
それは、恐らく何種もの青を使われているのだろう。ぬらぬらと反射したそれは、描かれてからそう時間が経っていないことも示していた。
(のみこみたくなっちゃうくらい、うつくしい、でしょう?)
これが彼女の望んだ青ならば。
私は、
「くそったれ。」
手になみなみと缶いっぱいに注がれたペンキを、
ぶちまけた。
コンプレックスガァル ぐいある @girl-XX-YY
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