第12話 静かな繋がり

あの人からのメールはいつもマイペースで、

私がいっぱい書いた時に限って返事が短くって、

たまには長い返事もくれて、

なんてことはない言葉の連続だった。



だけどね、

長いようで短い秋に潜む

深い静寂を過ごす私だったから、

あの人からの着信ランプは

夜空の星みたいにキラキラ輝くんだ。




あの人がメール出来る時間帯は限られているから、

着信時間はいつも

仕事が始まる前の朝、

お昼休み、

それに仕事後の夜だ。



しばらく逢っていないから

あの人の姿なんて瞳には映らないのに、

もらったメールの時間一つとっても

あの日となんら変わらない教習風景と

あの人の時間がちゃんと伝わった。


気まぐれなあの人は

ごくまれに

教習の合間の休憩時間にも返信をくれるから、

短い時間にトイレに行ったり

指導員と裏で話している情景が

私の前に柔らかく広がった。



私だけがこんなにも

あの人から元気をもらってしまって、

あの人の元気が枯渇しないか心配になってしまうほど

あの人のメールは私を元気にしてくれた。




そんな他の人には見えない繋がりが

確かにここにあったんだ。



私が教習所に乗ってきた車のことを

今でも気にかけてくれる人。


私が休日何をしてるか分からなくて

謎めいてるって言う人。


私がこの街で一人暮らしをしていると知って

ちょっと嬉しそうな人。




開いたメールにはいつも

あの人のとりとめのない優しさと、

朝晩の挨拶と、

お疲れ様の言葉と、

お休みの言葉と、

私の名字と、

あの人らしい可愛い顔文字が溢れていた。




メールの内容なんて

本当は何だって構わなくて、

着実な進展も

明確な答えも

必要なかった。



もしかしたら、

本当はもうとっくに気づいているのに

敢えて触れないこの気持ちの

行き場さえ分からないまま、

この繋がりにしがみついているのかもしれない。



行き場もなく彷徨う私は、

時折もらう

あの人からの微かな恋のサインに

無責任にも精一杯答えてしまうくせに、

私に向いているあの人の気持ちにさえも

気づかないふりをしていたんだ。




「メールもらうだけで、すごく元気出ます!」


こんな思わせ振りで

身勝手な言葉を

あの人に送ってしまう私だったから、

行き場の見えない迷路を

彷徨っているように見えても、

中途半端に大人な私は

出口をちゃんと知っているんだ。


どんなに綺麗事を並べたって

本当はもっともっと

あの人に近づきたかった。




マイペースで面倒くさがりなのに

毎日欠かさずメールしてくれる人。


メールの返信が遅くって、

必ず私よりメールが少し短い人。

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