第10話 卑怯!外道!は褒め言葉
「ふはは!やったぞ。クレハよ動くな!」
サイゾウがそう告げると、彼に苦無を突き出した状態で動きが固まるクレハ。その顔は悔しそうに歪んでいる。
「しくじったでござる……」
「この日のためにコツコツと、ゴブリンを使いレベルを上げた傀儡の術だ、そう簡単に抵抗されてたまるか!」
あなたはサイゾウに捕まったクレハを尻目に、そそくさと出口へと向かう。なんか決着したみたいだし、あとは若いもの同士でという老人気質を発揮するあなた。
「ちょっとまてー!」
「そうでござる!何を一人だけ逃げようとしてるでござるか!こんな美少女を変態のもとに置いて行っていいんでござるか!?」
しかし、あなたは回り込まれてしまった。変態共からは逃げられないのである。
「なんか失礼なことを言われた気がするでござる」
「気のせいでござるよ。では拙者はこれにて失礼するでござる」
「待てと言っているだろう!」
サイゾウの合図に合わせて、あなたを取り囲む狼たち。おもちゃを取り囲む彼らの目は爛々と輝き、牙をむき出しにし涎を迸らせている。唸りを上げる狼たちを他所に、あなたはどうやってこの場を逃げ出すか考える。
①:実は勇者なあなた、ピンチで覚醒し悪党を倒しハーレムルートへ一直線
②:現実は非常である、あわれなあなたは狼のおやつに
③:露出狂忍者を見捨てて全力で逃亡、慈悲はない
③、③!③!!③を全力で選んだあなたはわき目も降らずに出口へと疾走する。
「あばよ、とっつぁーん!」
「だから、逃がさないと言っただろう!!」
「拙者を置いていくなんて酷いでござる!鬼!外道!スライム以下!」
俊敏が犬以下のあなたは哀れ、狼に捕まって袋叩きにされてしまう。うなり声を上げて体のいたるところに噛みつく狼から、急所と声帯だけは何とか守ったあなたは何やら小声で叫んでいる。しかし、現実は非常である、次第に動きが鈍くなると狼ともども動かなくなってしまった。
「ふん!死んだか」
「サイゾウ!無関係の人間まで手にかけるとは、どこまで堕ちる気でござるか!」
「これから自分がどんな目にあわされるかわかってるだろうに、人の心配をしている暇があるのか?」
「ぐぅ……」
身動き一つとれないクレハの顎をつかみ、その体を舐めまわすように眺めるサイゾウ。彼はしばらくそうすると、手を放しクレハへ命令する。
「確実に死んだとは思うが。念のためだクレハ、とどめを刺して来い」
「な!拙者にやれと申すか!?」
言葉では反論しつつも、逆らうことができないクレハは、あなたのもとへと歩いてくる。その手は苦無を逆手に持ち、機械的に腕を振り上げあなたの背中から心臓を狙っている。
「やめるでござる!いうことなら聞くから、死人に鞭を撃つような真似はよすでござる!」
「嫌だね!俺は決めたんだ。まずは、お前のプライドをへし折ることにすると!」
「くぅうううう!」
クレハは血が出るほどに唇をかみしめると、あなたに向けて苦無を握った手を振り下ろした。ドッという音と共に……あなたの手に突き立つ苦無!
「【解呪】!」
今まで狼で隠れていた腕が閃光と共に振るわれると。解呪の呪文がクレハの体を縛っていた傀儡の術を打ち砕いた。
「なに!?」
「へ?」
あなたはすかさず、手のひらから苦無を引き抜くと、腰を抜かして倒れ込んだクレハを無視して一直線にサイゾウへ向けて駆けだす。
「な、狼たち!……なぜだ、なぜいうことを聞かない!」
「そりゃあそうだ!なにせ、眠ってるんだからな!」
そう、あなたは自身に噛みついてきた狼に回復術を打ち込み、副交感神経を刺激して無理やり寝かしつけていたのだ。あとはばれないように、クレハが近づいて来るまで死んだふりをしていたのである。
「おらぁ!」
「く!だが接近されたところで、回復職などに後れを取るか!」
「【回復術】!閃光バージョン!」
あなたが両手を打ち合わせ、苦無を構えたサイゾウに対して、猫だましを繰り出すとそこから強烈な閃光が溢れ出した。
「卑怯者め!」
「卑怯!外道!はほめ言葉だおらああああ!【回復術】ぅ!」
あなたはありったけの魔力をつぎ込むと、その拳でサイゾウの顔面を撃ち抜いた。
「しかし、このていどでぇえ?」
「スライムには効かなかったが、人間に聞くことは自分の体で体験済みなんだよ!お姉さん直伝、睡眠拳の味はどおだ?」
「くっそ……うぅうZzzzz」
サイゾウは崩れ落ちるように倒れると、そのまま眠りの世界へフライアウェイしていった。
「……ヒカル殿」
「お、クレハ大丈夫か?」
サイゾウを倒して荒い息を吐くあなたのもとに、ショックから立ち直ったクレハが歩いてくる。
「大丈夫かじゃないでござる!この馬鹿者ぉおお!」
「ぐびゅううぅ!」
クレハの手によって殴り飛ばされたあなたは、そのままコマのように回転しつつ空を舞うと、頭から地面に叩きつけられ気絶するのだった。
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