第3話 パーティー
あなたはダンジョン入り口でうなだれていた。駅の改札のような入り口では、先ほどから6人組の人間?達が頻繁に行き来している。どの人間も鎧を着た重装備の戦士や、極彩色のローブを着て杖を持った魔法使いばかりだ。なぜ、あなたが落ち込んでいるかは、数分前にさかのぼる。
探索者登録を済ませたあなたは、ダンジョン入り口にあるパーティー募集掲示板を舐めまわすように見つめていた。さすがに、ダンジョンに一人で入るのは効率が悪いことにうすうす気が付いていたのだ。なにより、あなたは回復職、前線で戦う戦士、いわゆる肉壁がいないと安心できなかったのだ。自身の肉壁、味方バリヤーになるであろうパーティーメンバーを探すあなただが、なかなか回復職の募集が見つからない。……というか、まったくなかった。先ほどから食い入るように見つめる、電光掲示板には戦士や魔法使いの募集ばかりがあった。変わったところでは獣人、魚人、鳥人、その他の亜人以外には興味がありませんといったものまである。あなたは、なかなか見つからない募集にしびれを切らすと、他人が右を向けば右を向く日本人気質に逆らって、自分自身でパーティーの募集をすることにした。
※
パーティーメンバー急募
当方、回復職のプリーストです。一緒にダンジョンに潜ってくれるメンバーを探しています。アットホームなパーティーで楽しくひと狩しませんか?
報酬は山分けです。
※
30分、いや1時間は待っただろうか。待てども待てども、まったく募集に応じる人はいなかった。あなたがパーティーを探している風を装って、募集掲示板の近くを徘徊したところ、幾人かはその募集へと目をやるのだが、何がおかしいのか笑いをこらえた表情や、あきらかにぷぎゃーといったリアクションばかりをするのだ。不思議に思ったあなたは、さっそく探索者カードの情報検索を利用することにした。カードの裏面をタップするとホロウィンドウが開き、中には検索サイトや辞書、簡単なアプリゲームなどが入っていた。完全にスマホだこれ、と思ったあなたは手慣れた様子で検索エンジンを起動し、「回復職、ダンジョン、パーティー」でサーチをかける。すると、結果はすぐに表れた。あなたは検索結果から、いくつかある掲示板を選んで閲覧することにした。そこには思いもしなかったことが書かれていた。
※
【ゆっくりの探索者掲示板】
★パーティー募集スレ★
1:5月10日(火)15:13
アークプリーストの俺がパーティーを募集する、肉壁募集。
2:5月10日(火)15:13
キタコレwアークプリーストってどうやって、そこまで経験値積んだしw
3:5月10日(火)15:14
ママンに手伝ってもらいました(笑)
騎士の背中に隠れて、ひたすら初級回復術を連発する毎日は終わった。
今日、独り立ちします。
4:5月10日(火)15:15
カエレw
一人でやってどうぞ。
5:5月10日(火)15:16
まだ一人は怖いのだ。
俺氏、18歳♀……ダメ?
6:5月10日(火)15:17
ガタッ!
7:5月10日(火)15:18
ガタタッ!!
8:5月10日(火)15:19
釣り乙
9:5月10日(火)15:20
釣りじゃないしw
アークプリーストだしww
マジ女神なんですけどwww
10:5月10日(火)15:21
マジで回復職だとしたら情弱すぐる
11:5月10日(火)15:22
今時、そんな職業選択する奴いないし
12:5月10日(火)15:23
マジだとしたら、さっさと教会に金積んで職業選択しなおすべき
13:5月10日(火)15:24
わたしのwいままでのどりょくwぜんひていw草はえるw
14:5月10日(火)15:25
はやすなw
15:5月10日(火)15:26
まあ、本気で回復職とってる奴なんていないだろ。
※
あなたは愕然とした、なんだこの回復職のネタっぷりは。他の掲示板ものぞいてみたがどこもかしこもだいたい似たような状況だった、要するに回復職=変態という図式が出来上がっていたのである。あなたは本格的に調べることにした、すると次のことが分かった。この世界では錬金術師が医療を支えている、彼らの作るポーション類は抜群の回復力を誇り非常に安価に市場に出回っている。よって、わざわざ戦闘能力の低い回復職を貴重なパーティー枠を1つ使ってまで仲間に入れる必要がないのだ。さらに医療現場では医者の職業をもったものがより専門的な治療を行っており、回復職の大雑把な回復よりも需要があったのだ。さらに最悪なことに、回復職をバックパッカーとして7人目の非正規パーティーにおき、奴隷のようにこき使う輩までいることが分かった。
「何……だと……」
どうりで誰もあなたの募集に応募してこなかったわけである。世の中、明らかにそれとみて分かる地雷原に自分から突撃するバカはそうそういないのであった。進退きわまったあなたは決意する。パーティーが組めないなら一人で潜ればいいじゃないと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます