クラクラ英雄伝

ダチヒロ

バーバリアンの怒り

バーバリアンは怒っている。いったい何に? 何もかもに。


バーバリアンに難しいことはわからぬ。ゆえに、自身の怒りの原因もわからぬ。そんなことはどうでもいい。怒りをぶつける矛先さえあればそれでいい。破壊と略奪を。血で血を洗う戦場を。それだけがバーバリアンの望みだ。


バーバリアンは怒りとともに目覚める。ヴァルハラに眠るバーバリアンの魂は、エリクサーの力によってアーミーキャンプへと召喚される。そのとき、バーバリアンの心中ではいつも強烈な怒りが湧き上がるのだ。眠りを妨げられたことへの怒りなのか? 再び戦場へと呼び出されたせいか? 皆目わからない。説明のつかぬ怒りにバーバリアンは雄叫びを上げる。


バーバリアンにも喜びはある。村を全壊せしめることだ。敵のすべてを破壊し尽くしたとき、その一瞬にだけバーバリアンは喜びを覚える。だが、その場面に立ち会えるバーバリアンはとても少ない。ほとんどのバーバリアンは盾となって倒れていく。三つの星を見届けてからヴァルハラへと還るのは、幸運に恵まれたごくわずかなバーバリアンだけだ。


バーバリアンの悲しみは戦友の死だ。あなたには意外だろう。バーバリアンは常に脇目もふらず戦場を駆けているように見えるかもしれない。けれど、戦友がアーチャーの矢に、ウィザードの炎に、隠しテスラの稲妻に崩れ落ちる姿に、バーバリアンは人知れずひと粒だけの涙を流すのだ。その思いを胸に刻みながら、バーバリアンは剣を振るう。残りの涙を鬨の声へと変えて。


バーバリアンは蛮勇を賞賛し、怯懦を唾棄する。臆病者呼ばわりはバーバリアンにとって最大の侮辱だ。軟弱とそしられるくらいなら、バーバリアンは無謀な死を選ぶ。たとえその行為が戦友を悲しませることになったとしても。バーバリアンの誇りは命よりも重い。


バーバリアンにはかつて妻子がいた。もうずっと昔の話だ。森を拓き、畑を耕し、家族を養う。それがバーバリアンのすべてだった。しかしその営みはとうに失われてしまった。自らの命と引き換えに、飢えた熊の爪から我が子を守ったあの日以来、バーバリアンはクラクラ界の住人となった。ヴァルハラと戦場を行き来するのが、今のバーバリアンの日常だ。


バーバリアンはときどき酒宴を開く。たいていは三つ星の夜だ。ヴァルハラの広間にどこからともなく酒樽が運び込まれ、即席の宴会場が出来上がる。このときばかりはバーバリアンも破顔大笑、浴びるように飲み続け、全員が酔い潰れるまで宴は終わらない。なお、酒の肴の大半は、一向に腕の上がらないチーフへの怒りに満ちた愚痴だそうだ。


バーバリアンの死はもはや本当の意味での死ではない。クラクラの戦場で倒れたとしても、その魂はヴァルハラへと還るだけだ。戦場と天国をぐるぐると回る、閉じたループの只中にバーバリアンの存在はある。はたしてそれは生きているのか、死んでいるのか、どちらなのだろうか。いや、どちらか一方に決めることなど可能なのだろうか。


バーバリアンはしかし、それでも死を悼む。バーバリアンにとっての死とは今や戦場での死だ。クラクラの戦場での死を、かつての現世での死と等価にバーバリアンはとらえている。だからバーバリアンは戦友の死を悲しみ、悼む。いずれお互いヴァルハラへ還る身と知りながらそうせざるをえないのは、バーバリアンが人間だった証なのだ。


バーバリアンは、スパセル神の創りたもうたクラクラ界へとやってきた。それからずっとバーバリアンは怒っている。理由もわからぬままに、ただただ怒っている。神々の娯楽のために戦い続ける宿命を呪ってのことか、などと考えを巡らせたところであまり意味はない。なぜなら、もし理由がわかったとしても、バーバリアンの怒りが消えることはないのだから。


バーバリアンを怒りから解放できるのは、あなたの手腕だけだ。あなたの命令に従って華麗な戦果を上げ、祝いの酒で飲んだくれる夜にだけ、怒れるバーバリアンの魂は慰められる。それが戦士の流儀だ。古今東西を問わず、戦う男を癒やすのは友と酌み交わす酒に尽きる。


バーバリアンのために星を。そしてひとときの安らぎを。チーフ、あなたの命令をバーバリアンは待っている。

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