第六話 新たな冒険の始まり

この世界には、人以外にも光の種族は存在する。


『エルフ』も光の種族の一つだ。


彼等は、どうやって生き延びていたのだろうか?


そして、他にも生き残っている種族はいるのだろうか?


魔王の存在を彼らは知っているのか?


謎は深まるばかりだ。


そんな所へ、ユラトは足を踏み入れようとしていた。


人以外の光の種族『エルフ』発見!


オリディオール島の全島民に驚きの第一報が届いた。


この事実は瞬く間に、オリディオール島全域にまで広がった。


オリディオール島の島民達は歓喜した。


自分たち人間は、暗黒世界で唯一の生き残りだと思っていたからだ。


この黒い霧の世界で魔物と戦いながら生きていくには、正直なところ心細いところがあった。


「しかし、我々人間は、この世界で孤立した存在では無かった!」


そのことがオリディオールや西の開拓地に住む人々にとって大きな希望となったのだ。


エルフとは、人間と同じく光の勢力に属する種族である。


太古の秘術を使う事で人間よりも長寿になることが出来る、と言われている。


また魔法の扱いに非常に長け、人間よりも魔力が高く、知性に優れた種族でもある。


だがその分、人間よりも全体的に体格は小さく力は弱く、透き通るような白い肌で髪は金髪、長く尖がった耳を持っているのが特徴としてあった。


エルフが発見された本当の第一報は、6日ほど前に遡る。


新大陸で大きな森が発見され、その森で多くの聖石を使って霧を払っている冒険者達がいた。


それはなんと、ユラトが始めての仕事を請け負い、島を出てラスケルクに向かう途中の船の中で出会った、ケルヴィンとベラーニャの夫婦であったのだ。


二人は森の中で黒い霧を払っていく中、エルフ達が住んでいる村へ、たどり着いたのであった。


そして二人はすぐに、この事実を伝えるために冒険者ギルドへ向かった。


ギルドは直ぐにオリディオール審議会へ、この情報を伝えられると直ちに人間側の代表団が編制され多くの護衛を伴い、西の新大陸へ渡り、エルフが発見された森へ向かった。


代表団には審議会のメンバーや、各地域の冒険者ギルドのギルドマスター、それから大地の神殿の神官長フォルゴン・ゾールが行く予定であったが、高齢であった事と近年、彼の体調が芳しくなかったため、代理として大地神イディスの神託を受けたマテル・ベリトが代理として行くことになり、そうした人々が主な構成員となっていた。


そして彼らは、エルフ達の代表である族長と会談をすることになった。


エルフ族の族長の名はガルーヴァ・ウッドボルグといい、族長の話では「我々は真のエルフではない」と代表団に語った。


どうやら彼らは『ウッドエルフ』と言い、真のエルフである『ハイエルフ』を守護する立場にある、森だけに住むエルフ族であると言った。


彼らエルフ族が何故、黒い霧の世界で生存することが出来たのかと言えば、この辺り一帯を覆っている、聖なる木『ユグドの木』のおかげであると族長は説明した。


その聖なる木は、邪気を払うことができた。


しかし、木が成長するには膨大な時間が必要となるため、自分達の生活圏内ぐらいしか木が無かったために、他の光の種族と会うことは出来なかった。


そして族長は、代表団にあることを頼んできた。


それは自分達の守護対象である、ハイエルフの国の捜索であった。


しかしハイエルフの国の存在は、言い伝えでしかないとも、族長は説明した。


なぜなら自分達は先祖代々、魔王の戦いの後からずっとここに住んでいたと聞かされて育ったということであった。


つまり、言い伝えのみ残っている状態であり、本当に存在するかはわからないのが現状のようだ。


だが、彼らは信じていた。


必ずハイエルフの王のいる国は、まだ存在していると。


そして、彼らにとっては苦渋の選択でもあった。


本来ならば自分達で守らねばならいことである。


それこそが自分達の存在理由でもあったからだ。


しかし、人間達のように聖石を彼らは持っていない。


聖なる木で黒い霧を払っていくのでは時間がかかりすぎる。


「こうしている間にも、ハイエルフの国は危機を迎えているかもしれない」、そう思い、ずっとここで燻っていた彼らは、藁をもすがる気持ちであった。


そんな時に人間達が、こっちに解決方法を持ってきてくれたのだ。


代表団は、魔王の存在を族長に聞いてみた。


だが、族長はわからないと短く答えた。


しかし、ハイエルフの国に行けばわかるだろうと彼は言うのであった。


族長であるガルーヴァは、ウッドエルフの若い戦士達も冒険者としてギルドへ登録してくれように頼んできた。


代表団は快諾し、すぐに手の空いている冒険者に、ハイエルフの国の捜索依頼を出すと約束した。


これを聞いたウッドエルフ達は喜び、多くのウッドエルフが冒険者ギルドのギルド員として登録されることになった。


そして、ウッドエルフ達の使う技術や魔法も登録されることになり、全冒険者で共有されることになった。


これにともない、オリディオール島に第一号の技術訓練場と魔法訓練場が建設されることになった。


これは今後、新しい様々な技術や魔法等を冒険者が発見した場合に、すぐにこの訓練場に登録され、お金を支払うことで、その技術や魔法を学ぶことができる場所である。


そして、ハイエルフの国を探すための拠点が必要である、と判断した代表団はウッドエルフの森のすぐ近くに新たに町を建設することも決定するのであった。


『ウッドランド』と名が付いたこの町で、冒険者達の休息の場所となったり、この森の特産品の販売などを行ったりできるようになるようだ。


その他にも様々な事を話し合った後、代表団はすぐに全島民へこの事実を知らせるためにアートスの役人を使ってオリディオール全域の村や町へ使者を送っていたのであった。


その使者の一人がイシュト村に現れたダイルであったのだ。


ダイルが言うには審議会や冒険者ギルドがハイエルフの国探索の仕事をそれなりの規模で実施したいと言う思いがあるようだ。


そして手の空いている冒険者達には、すぐに最寄りの冒険者ギルドへ向かい、この仕事を受けて欲しいと頼んできた。


それを聞いたユラトは自宅へすぐに戻り、早々に旅の支度を整え足早にアートスへと向かった。


これから始まるであろう、新たなる旅の日々に胸を躍らせて………。



ユラトはダイルの話を聞いた後、アートスの冒険者ギルドへ向かい、ギルド職員ミラン・シュミットからハイエルフの国の探索の仕事について更に詳しく聞くと、ウッドエルフのいる森の近くに新たに建設される町『ウッドランド』で冒険者を集め、そこで4~5人で構成されるパーティーを組んでから、探索に乗り出してもらおうというものであった。


そして、この仕事に関わる冒険者1人につき1日1個、無料で聖石が支給されるという。


つまり5人のパーティーなら、1日5個聖石を使えることになる。


これ以上1日に使いたい場合は、自腹で払えとのことであった。


さらに条件があり、どのパーティーにも必ずウッドエルフの冒険者を1人は入れなければならないという条件もあった。


これは安全を期するために審議会側が考えた策であった。


ウッドエルフ達は森の事に精通していたため、被害を最小限に留めるために熟知している者がいた方がいいだろうということであった。


ユラトは一週間後ぐらいに探索を開始するパーティーに申し込みをした。


すると、ミランはユラトに数字や集合場所等が書かれた紙を渡してきた。


これは各パーティーの構成が戦士だけや魔法使いだけのパーティーになってしまったり、初心者だらけのパーティーになってしまうと魔物との戦闘になった場合不利になってしまうため、そうならないようにギルドが各クラスや経験を踏まえ番号を振り、これを各冒険者へ与え、バランスの取れた構成で探索についてもらうためであった。


それを受け取りユラトはミランにお礼を言うと、すぐにアートスから船に乗りラスケルクへ、ラスケルクから今度は西へ行きシルドナへ、そしてシルドナから北西へ向かいウッドランドへ着ていたのであった。


ウッドランドの町の建設は凄い速さで行われているようであった。


外壁がこの2週間ほどで3割ぐらいまで出来ていた。


町の外には『トレント』と言われる木の精霊が町を守護したり外壁に使用される岩などを運んでいた。


彼らはウッドエルフの古くからの友人であるが光にも闇にも属さない。


見た目は木そのものであり、性格は基本的に温厚で2本の足で立ち、ゆっくりとした速度で歩き、体には所々枝が生えていて葉っぱも付いている者もいる。


炎に弱い側面があるが力はかなりあり、人間の成人男子2~3人で持ち上げることのできる岩を1人で持ち上げることもできるほどだ。


怒らすと凄い勢いで暴れるため、しばらく手がつけられない状態になるようだ。


だからギルドはトレントには気をつけろと冒険者達に情報として伝えていた。


トレントは古い『レントの木』と言われる木に何らかの理由で魂が宿ると人間やウッドエルフほどではないが知性と意識を持った存在になる。


そして、その木にウッドエルフが使う魔法『ドルイドマジック』の一つ、『ウッドプレッジ』と言われる魔法を使う事でトレントはウッドエルフの命令に従うのだ。


だが友人と言われるだけあって酷使することや過酷な事はさせてはならないとウッドエルフのルールで決められていたため酷い命令をすることはないということだ。


そして、トレントになってから更に年月を重ねると今度は『エンシェントトレント』という存在になると言う。


これは通常のトレントより体格も大きく、知識や知性も非常に高く、高度な魔法も扱うことができるトレントだ。


力もトレントよりも高く、敵に回すと大変危険らしいが、ウッドエルフの村にもまだ存在しない伝説のトレントなのである。


またトレント達は森の力の及ぶ、森の中や森の周辺ぐらいまでしか生存することができないようだ。


ウッドエルフ達はドルイドマジックという魔法を扱うことがきる。


この魔法は自然の力を引き出したり、植物の持っている魔力を使ったり、自らの魔力と植物を使って使用する魔法などがあり、自然や植物を利用することで発動させることができる魔法である。


ユラトは、ウッドランドに到着したのが丁度お昼過ぎであったため、外壁の中へ入り昼食を食べていた。


シルドナで買った昼食をウッドランドの外壁の中に生えている木の木陰に座って、辺りの景色を見ながら食べ始める。


ユラトの座っている場所の後ろ側には、広大な森が広がっていた。


時折、緩やかで暖かい風が吹き、森の香りと共に鳥達のさえずりも聞こえる。


まるで魔物達など存在しないような平和で安心した気持ちにさせられる。


しかし、振り返ると森の先には暗黒世界の象徴でもある黒い霧が直ぐ近くに広がっていたため、人々はそれを見ることで瞬時に現実に戻されるのであった。


またウッドランドの内部は、物資や資材を搬入する人やオリディオール島から来た大工、冒険者など、様々な人が出入りするため、町は活気付いていた。


審議会は、この町の建設に莫大な予算を出したようで、周りの人々の話だと、「シルドナよりも早く出来上がるのではないか?」と噂している者が多くいた。


まだこの町は建設が始まって日にちが経っていない為、辺りにはテントがたくさんあり、完成された建物は全く無く、建物の骨組みらしきものが散見する程度であった。


だが、冒険者はたくさん集まってきていた。


その中にはウッドエルフの冒険者もそれなりにいるようであった。


(あれがウッドエルフか……思ったより大きいな……)


ウッドエルフはハイエルフと違い人間と同じぐらいもしくは人間よりも大きい者もいた。


ウッドエルフ達は人間と同じく肉を食べるようだ。


ハイエルフは食べない、そのために体格はハイエルフよりもよくなったと言われている。


だが人間のように太っている者はいなかった。


必要以上に食べることは無く、また毎日森で狩りをする。


その為、体は細く背がそれなりにあるので、ひょろっとしていて弱そうに見えるかもしれないが、その身は引き締まっている為、見た目ほど力が無いわけではない。


森の中で鍛えられたその肉体は、戦士としても人間に引けを取らないのであった。


そして食事を食べ終えたユラトは、ミランに渡してもらった紙に書かれた集合場所へ向かおうと歩き出した。


しかしそのとき、真っ白な馬に跨ったウッドエルフが目の前を横切った。


思わずぶつかりそうになり、慌てて後退する。


「―――おっと!あぶないっ……」


ユラトに気づくことなく、どこかへ行ってしまったが、ユラトはあることに気づいた。


「あの馬……角が生えてた……まさかっ!『ユニコーン』?!」


ユニコーンは見た目は真っ白な毛の色と美しいたてがみがある馬だったが、一つだけ通常の馬と違う部分があった。


それは額の部分に一本の鋭く尖った角が生えている事である。


この角は粉末にして飲んだり、水を湿らせて患部に塗ると万病に効く薬になると言われている。


冒険者ギルドや学校に載っている資料や本には幻獣という分野に分類され記載されていた。


またこの馬は、草原では人間達の乗る馬より走る速度が若干遅い。


しかし、森の中を上手く走ることが出来るようで、数はそれほどいるわけではなかったがウッドエルフ達が移動手段として乗っていた。


よく見ると、周りに何頭かいるのがわかった。


さらにこの馬は勇敢で力強い側面もあり、自分より強い敵に向かって角で攻撃することもあるようで、ウッドエルフ達の間では勇気の象徴でもあった。


魔力もそれなりにあり、解毒や治療のドルイド魔法を使う事が稀にあるようだ。


「ユニコーンは、ウッドエルフ達の乗り物だったのか……」


気を取り直したユラトは、パーティーの集合場所へ向かった。


その場所へは、すぐに着くことが出来た。


まだ何も建ってないが立て札のようなものがあり、冒険者ギルドの予定地と書かれていた。


ここには今日出発するのであろう多くの冒険者が集まり、数字の書かれた紙を持ち、口々に番号を叫んでいるのが聞こえた。


「パーティー番号19番の方いますかー?」


「こっちは11番だ!いねえか?11だぞ!」


「15番はこっちです!」


ユラトは自分の書かれた番号のメンバーが集まってないか探してみたが、まだ誰も来ていないようであったため、しばらくこの場所に留まり待つことにした。


しばらく待ってみるが、まだ誰もユラトと同じ番号を口にする者はいなかった。


そして、メンバーが揃いだしたパーティーもあるようで、続々と森の中へ入っていく姿が見えた。


(ちょっと恥ずかしいけど、俺も番号叫んでみるか…)


そう思ったユラトは番号を叫んだ。


「17番の番号を持った方、いませんかー!」


だが反応はなかった。


(いないのか……まあ、諦めずにしばらく続けるか……)


そう思い、もう一度叫ぼうとしたとき、横から声がかけられる。


「あれ……君、ユラトじゃない?ユラト・ファルゼインだろ?」


ユラトは声のあった方へ振り向くと、そこにはユラトと同じ剣士の格好をした者がいた。


そして、その者の顔を見たユラトの顔は綻んだ。


「―――あっ!ガイン!『ガイン・ウォード』か!!」


冗談交じりに、そして明るくガインは話し掛けてきた。


「そうだよ、久しぶりだね!やっぱり生きてたか」


それを聞いたユラトはガインの肩を軽く叩き、嬉しそうに話した。


「あたりまえだよ!そうそうやられないさ、ははっ!……だけど、こんなところで会うなんてな」


「……ほんとだよ、おどろいたさ」


この青年は、ユラトと同じアートスの冒険者学校『ファージア冒険者学校』の同級生で良く遊んだ、仲の良い友人の一人であった。


ガインはアートスの南東部にある、『ラプル』と言われる果実がなる大農園を持つ家の三男坊で、裕福な環境で育ったためか、性格は明るく正直な人柄で、あまり人を疑うことを知らない人物だった。


そして、容姿は短髪でやや癖のあるブラウンの髪で、鼻の辺りに少しそばかすがあり、本人はそれを気にしているようで、そこを掻く癖があった。


「昨日まで僕とセラとシェイミーの3人で仕事をこなしたところだよ。まあ仕事って言っても実家の手伝いだけどね……本当は冒険の仕事したかったんだけど………で、その時にユラトはどうしてるかなって、みんなで丁度話してたところなんだ!」


それを聞いたユラトは嬉しそうに驚いた。


「あの2人もこっちに来てるのか!」


セラとシェイミーと言うのは、ガインと同じく学校時代の親しい友人である。


セラと言う人物は、女性で本当の名前はセラリス・ウォードと言い、ガインと同じ歳の腹違いの異母兄弟で、ガインの父親と愛人の間に産まれた子供だったが、愛人が死んだことにより、父親が幼いセラリスを引き取り、ウォード家でガイン達と同じ扱いを受け、生活することになった。


ガインの母は当初は怒っていたが、今はセラリスを自分の子供のように思っていたし、他の兄弟達もセラリスをすぐに受け入れてくれていたため、彼女は明るく健やかに成長することができ、何不自由なく暮らしていた。


そして、セラリスは特に歳の近いガインと仲が良かった。


ガインが冒険者に憧れていて冒険者学校に行くと決めたときもセラリスは「面白そうだからあたしも冒険者になるわ!」とあっさりガインに付いてきていたのである。


剣術の腕前もなかなかのもので、結構な頻度で上位者の場所に名を連ねていた。


男勝りではあったが、セラリスの容姿は母親似で肩ぐらいまである亜麻色の髪に均整の取れた容姿でガインが言うには、「日々の言動がもう少しおしとやかであれば、もっと異性にもてただろう」と言っていたのをユラトは覚えていた。


シェイミーは、名をシェイミー・ラウネスと言う名の女性で、オリディオール島の中でも貧しい地域の出身で、勉学に大変優れていたため、本来は魔法学院に入りたかったが、経済的な理由でユラト達のいるファージア冒険者学校の学費無料の特待生として入学してきた女性だった。


その為、剣術よりも魔法に長けていた。


シェイミーは幼き日より、なぜか故郷に馴染めなかったようで、「とにかくどこでもいいからここから出たい」という強い思いがあったため、冒険者には本来なりたくは無かったが、仕方なくなったと言うのが彼女の本心であった。


4人の中で一番背が低く、黒髪で全体的に少し地味な印象を受ける感じの女性であったが、セラリスに言わせると「もっとお洒落に気を使った格好をすれば、かなり可愛くなるに違いない」と断言していた。


そして、学校でセラリスとシェイミーは出会い、気が合った2人はすぐに打ち解け、お互いのことを親友だと思っていた。


また、ガインもユラトと席が近かったのと、お互いウマが合ったようで、すぐにこちらも仲の良い友人になっていた。


そして、ガインとセラリスの2人を介して4人で仲良くなっていたのだった。


4人で過ごす時間が増えていく中で、セラリスはユラトの事が好きになり、シェイミーはガインに好意を寄せていたのであった。


セラリスはシェイミーにユラトへの思いを話していたし、シェイミーもガインのことが好きなんだということをセラリスに話していた。


そして、セラリスはガインにもユラトの事を話していたが、シェイミーの思いについては本当は喋りたかったが、シェイミーにきつく止められていたので話さなかった。


だから、セラリスの思いはユラト以外は全員知っている状態だった。


また、ガインとシェイミーを付き合せたかったセラリスは、常日頃からシェイミーの事をどう思っているのかを知りたくて、ガインにそれとなく色々聞いていた。


それらの情報から察するに、ガインもどうやらシェイミーのことを好いている事をセラリスは感じ取った。


だが彼女は、親友との約束を破るわけにはいかなかったため、この事について何も言うことはなかった。


セラリスは学校の卒業の時に「これ以上は我慢できない」とシェイミーの思いを伏せた上でガインを焚き付け、告白させた。


彼は精一杯の勇気を振り絞って、シェイミーに告白した。


「シェイミー……僕は……」


見事に告白は成功し、2人は付き合うことになった。


上手くいった事にガインとシェイミーはセラリスに感謝した。


そして、今度は自分達がユラトとの仲を応援したいと申し出てきたが、セラリスは申し訳なさそうにそれを断った。


彼女の理由としては「彼の呪いを解くことを今は考えてあげたいし、ユラトには幼馴染がいて、その子とも会って見たい」というのものだった。


セラリスは、なにより振られるのが怖かったのだ。


彼女は幼き日に母親を失った事がきっかけで、愛する者を失うということを極端に恐れていた。


だから、ユラトには「自分から言うのでしばらくはそっとしておいて欲しい」とセラリスは頼んできた。


それらを理解したガインとシェイミーは、「もう少し様子を見よう」と言う事でその場は収まった。


そしてユラトは卒業の日に村長の奥さんから村長が病で倒れたと聞き、薬がゾイル地域の町にしかないと聞いていたので、町に馬を飛ばし、買いに行っていた為に、それ以後3人と会う事はなかったのだった。


またガインとセラリスもラプルの収穫の手伝いの為、シェイミーを伴ってしばらく冒険者になることなく、忙しい日々を送っていた。


彼らはラプルの果実を西の新大陸へ輸送しに行った際、エルフの発見の報を耳にした。


この報を聞いたガインに、冒険者としての血が騒いだ。


(エルフ……会ってみたい……)


セラリスとシェイミーもエルフに興味を持ったが、ガインほどではなかった。


彼は代金などを持ち帰るのはセラリスとシェイミーに頼み、自分はハイエルフ探索の仕事に就きたいと2人に懇願した。


「セラリス、シェイミー頼むよ!」


2人はしぶしぶ承諾したが、絶対に危険な事はしないと言う誓いをガインはさせられた。


そして、ウッドランドでユラトとガインは再会することが出来たのだ。


ガインは自分がここにいる経緯を話し、セラリスとシェイミーのことについても話した。


「2人はきっと、今ごろアートス行きの船に乗っているさ……来たのは僕だけなんだ」


ユラトはそれを聞いて、少し残念に思った。


「そうか……」


ガインはセラリスの事があったので 遠まわしに色々聞いてみようと持った。


「そういやユラト、故郷の幼馴染には会えたのかい?」


「ん、いや……それが……ね……」


ユラトは事情を説明した。


それを聞いたガインはユラトを励ました。


「そうなんだ……まあ、無事ならこの仕事終わったらちゃんと会えるはずだよ!」


「うん、ありがとう。この仕事が終わる頃には道が復旧してると思ってるんだ」


そして、ガインはセラリスの事も聞いてみようと思い、それとなくユラトに対し、話し掛けていた。


「そういや、セラリスの奴もユラトにすごく会いたがってたよ。向こうでよくユラトの話しばかりしてたんだよ」


「ん、そりゃあ……俺もセラリスとシェイミーの2人に会ってみたいよ。卒業のあとから再開するまでお互い色々あったと思うしね」


(んー……そういうことじゃないんだけど……やっぱり、僕にはこの役は無理か……ユラトってこう言う事、僕も言えたもんじゃないけど、僕より鈍いよ……)


ガインは話題を少し変えてみることにした。


「そう言えば言ってなかったんだけど、僕とシェイミー付き合う事になったんだ!」


ユラトは驚いた。


「ええっ!そうだったのか……2人が付き合う事に……ちょっと驚いたけど確かにシェイミーが俺や他の男達と話すときは普通だったけど、お前と話すときはちょっと違うなって思ってたんだ、やっぱりそうだったのか……おめでとう!2人なら凄くいい夫婦になれはずだ」


「いや……まだそこまでじゃないよ……」


意外にユラトがこう言った事に鋭い部分があった事にガインは少しだが驚いた。


(そこは気づいてたのか……ある意味、僕より鋭かったんだね……はあ……やっぱりもうちょっとセラリスとユラトには時間が必要なのかな?だけど僕は最後までセラリスを応援するぞ!)


そしてセラリスの事についてはとりあえずここまでにしておこうと決めたガインはユラトの周りを見ると心配そうに話してきた。


「そういや、ここに居るって事はパーティーメンバーまだ集まっていないのかい?」


ユラトは少し困った表情になった。


「そうなんだよ……まあ、番号を叫んでいたらきっと来るはずだろうし気長に待つさ……ガインの方はどうなんだ?」


「僕はもうメンバー揃ったから、これから森に行くところさ」


「そうか……気をつけてな」


「ああ、そうするよ。けど、大丈夫だと思う。ベテランの多いパーティーでさ……」


そのとき、会話に割り込んでくる者がいた。


「おい!ガイン!そろそろ行くぞ!何してるんだ?」


声をかけてきたのは体格の良い戦士風の中年の男で手にはグレートアックスと言われる大きな斧を持っていた。


「あ……」


その者の顔を見た瞬間にユラトは思わず名前を叫んだ。


「ガリバンさん!ガリバンさんじゃないですか!」


ガリバンはユラトが始めてラスケルクの町に入ったときに知り合った人物であった。


それを聞いたガリバンも驚いたようだった。


「ん……おお!あの時の兄ちゃんか!……確か名前をユラトとか言ったな!」


「はい!あの時の情報役に立ちましたよ!」


「んー……お前に会ったのは覚えてるんだけどよ、話の内容は酒一杯飲んでたからなぁ……あんまり覚えてねーんだよな、がはははっ!」


そう言ってガリバンは豪快に笑った。


「そうですか、でもすごく助かりましたよ」


「そうか、そりゃあ良かった」


そのやり取りを見たガインが少し驚いたように話した。


「2人は知り合いだったのか……驚いたよ」


「まさか、俺もここで会うとは思わなかったよ」


「ははっ!そうだな。ユラトもここに居るって事は森に行くんだな?」


「はい、そうなんですが……」


ガリバンはユラトの周りを見回した。


「まだ集まっていないみたいだな……まあ、しばらく番号叫んでいれば来るだろうよ」


その時、3人から少し離れたところから声がかけられた。


「おーい!ガリバン!ガイン!行くぞ!」


どうやら、ガインとガリバンの所属するパーティーの他のメンバーが呼んでいるようだ。


それに気づいた2人は「直ぐに行く」と叫び返し、ユラトにすまなさそうに言ってきた。


「悪いな、ユラト。俺とガインは先に森の探索に行って来るぜ!」


「はい、わかりました。2人とも気をつけて!」


ガインは元気に答えた。


「うん、ありがとうユラト、君もメンバー早く揃うとといいね。それじゃ!」


2人はユラトに軽く手を振るとパーティーメンバーと合流し森の中へ入っていった。


ユラトはガイン達が見えなくなるまで見つめていた。


(ガイン……無事に帰ってこいよ!)


森の中へ入っていく中で、ガインは思ったことがあった。


(ユラトと会ったことセラリスに言ったら、きっと喜ぶだろうな……この仕事が終わったら教えてやろう!)


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